「……これからどうするのー? ご飯も食べたし」
食後の落ち着いた空気の中、サラが大きく伸びをする。
「だったら他の店を回るしかねぇだろ! メイド喫茶とか、メイド喫茶とか、メイド喫茶とかな!」
「却下」
紘弥の欲望丸出しの提案は、玲奈に一秒で切り捨てられた。まあ、当たり前だろうな。第一、女子にメイド喫茶はハードルが高いんじゃないか?
「……明日も試合あるかもしれねぇんだし、休んだ方がいいんじゃないのか?」
「え~! 遊ぼうぜ隼人~!」
肩を組んでくる紘弥を剥がし、俺はため息をついた。
「俺はお前と違って馬鹿じゃないから、疲れてんだよ」
「なるほどな。確かにそれじゃあ仕方ねぇ……って、誰が馬鹿だ!」
お、自分が馬鹿にされていることに気づいたか。
「まあ、何か言ってる紘弥君はほっといて……隼人君の言う通りだよね」
「サラ酷くねッ!?」
「私も、疲れは取っておきたいわね」
玲奈の言葉にルイも橘も頷いた。
「だとよ紘弥。遊びたいのはお前だけみたいだぜ」
「マジかよ……まあ、みんなに従うけど」
ちぇ~、と嫌そうに唇を尖らせる紘弥。だったら一人でメイド喫茶に行けよ。
「……あ!」
何か思い出したのか、紘弥が急に大きな声を出した。
「なんだよ。メイド喫茶以外も行かないぞ」
「いや、そうじゃなくてだな……次はどこのクラスと当たるかな~って」
「……急にだな」
「ふと思ったんだよ。あるだろ、そういうこと」
まあ、確かに気にはなるな。どの組が残ってんだろ。
「どこだろ~。強いクラスだと、D組だよね?」
「うん。確かそうだったよ」
「D組か。俺らC組やA組と同じく、優勝候補だったよな。確か不破家とかキルトス家の奴らがいたはずだな」
不破家もキルトス家も、名前くらいは聞いたことがある。そんな連中と当たるなら、決勝がいいな。
「……いえ、D組は負けましたよ」
ルイが唐突に爆弾を落とした。
「え!?」
「マジで!?」
「負けたって、どこにだ?」
紘弥が身を乗り出してルイに聞く。
「E組です」
「E組……強いのか?」
俺はどのクラスが強いとか、そういう情報はあまり詳しくない。
「……いや、強いとは聞いたことねぇな」
「私も聞かないわね」
優勝候補ではない……けど、優勝候補のD組に勝ったのか。
「D組が油断してたとかかな?」
「どうでしょうね……油断していたとしても、そう簡単に勝てる相手ではないはずですが」
「E組はチームワークが凄いのかな」
チームワークか。確かに、優勝候補じゃないクラスってことは、有力な貴族とか強い奴がいないってことだよな?
「私が聞いた話だと、一人だけかなり規格外に強い人がいるらしいですね」
「一人だけ強い奴?」
「ええ。なんでも、一人でD組の生徒のほとんどを倒したそうですよ」
「……そいつはまた、すげえな」
「その人一人で勝ったみたいなものだね」
一人でか……どれだけ強いんだよ、それ。
「……名前は?」
玲奈がルイに聞く。
「八雲 焔……だったと思います」
「八雲……知らねぇな。西園寺、知ってるか?」
「……いいえ、聞かない名ね」
貴族事情に詳しい2人が知らないとなると、その八雲って奴は貴族じゃないってことか。
「……でも、まだその八雲と闘うって決まったわけじゃねえしな」
「確かにそうだね」
「オイ……さっきから人の名前呼んでんのはテメェらか?」
突然、背後からドスの効いた声が響いた。反射的に振り返ると、そこには周囲の空気をピリつかせるほどの威圧感を放つ男が立っていた。
「……えーと、どちらさん?」
紘弥が振り返り、訝しげに眉をひそめた。
「ああ? さっきから俺の名前言ってんじゃねぇか」
さっきから……ってことは、こいつが八雲か!
「お前、八雲か……?」
「ああ、そうだ」
俺は八雲の姿を確認した。背は俺よりも高く、体格もガッチリとしている。赤色の髪をオールバックにしており、鋭い三白眼が威圧感を放っている。ぱっと見、完全にガラの悪い不良だ。
「それで、なんで人の名前言ってたんだ?」
「別になんでもいいだろ」
「ああ? よくねぇだろ」
空気がピリつく。紘弥もなんで正直に「噂をしてた」って言わねえんだよ。
「焔! やっと見つけたー!」
一触即発の空気の中、背後から通る声が響いた。
「……一ノ瀬」
八雲が面倒くさそうに舌打ちをする。そこに現れた女子生徒、一ノ瀬雫は、八雲の隣に並んでも全く気圧されない落ち着いた雰囲気を纏っていた。
艶やかな黒髪を後ろで緩くお団子にまとめ、知性を感じさせる大きな瞳で俺たちを交互に見る。その瞳は、八雲に向ける時だけはまるで手のかかる子供を叱る母親のような、呆れと深い信頼が混ざった温かいものに変わっていた。
「あんた何やってんのよ。どうせ絡んだんでしょ」
雫が軽くため息をつきながら、遠慮なく八雲の肩を小突く。
「は? ちげぇよ! こいつらが俺の名前言ってたんだよ!」
「……ちょっと待て。勝手に話進めてんじゃねぇぞ」
紘弥が、二人の会話に割って入った。
「……君は?」
「そりゃあこっちのセリフだ……一応名乗るけど。九条 紘弥だ」
「ありがと。私は一ノ瀬 雫。この馬鹿と同じクラスなの」
一ノ瀬は呆れたように八雲を指差した。八雲は「馬鹿」と言われて不機嫌そうに眉をひそめる。
「それで、君達はなんでこの馬鹿の名前を言ってたの?」
「それはあれだ、ほら、有名だから?」
なんで疑問形なんだよ、紘弥。
「有名……なるほどね~。良かったじゃない、あんた有名人なんだって」
「別によかねぇよ」
「まあ、そう言わないで。……こいつが有名なのって、どうせ一回戦でのことでしょ?」
「あ、ああ、そうだけど」
同じクラスの一ノ瀬も、八雲が異常な強さで有名になっていることは知っているらしい。
「でも、そういう君達も有名じゃない。優勝候補のA組に勝ったC組でしょ?」
「……俺らも有名なのか」
「有名よ」
「マジか」
「マジよ」
「い、いや~、それほどでも~」
照れる反応が遅すぎるだろ、紘弥。
「特に有名なのが、帝君に西園寺さん、あと桐宮君ね」
「俺も!?」
「ちょっと待て、なんで俺は入ってねぇんだよ!? 帝と西園寺ってきたら俺もだろ!?」
確かに同じ八大貴族だ。世間的には俺よりも紘弥の名前が挙がるのが普通なのだが。
「……紘弥君、どんまい」
サラが哀れむように紘弥の肩を叩く。
「九条君、あなたも有名だから、そんなに落ち込まなくても大丈夫よ」
一ノ瀬が苦笑いしながらフォローしてくれた。その言葉がかえって紘弥の心を抉っている気がしなくもない。
「帝君が有名なのは言わずとも知れた帝家だからとして、西園寺さんも同じくなのと、一回戦で水無家に二人相手に勝ったからよ」
「ちょっと待て、じゃあ俺は?」
「桐宮君は、あの帝君に勝ったこともあるし、A組の雨宮君にも勝ってるからね」
「……それで有名になったのか」
てか、雨宮も有名だったのか。
「……お前、雨宮に勝ったのか」
さっきまで黙っていた八雲が、鋭い視線を俺に向けてきた。
「あ、ああ。勝ったけど」
「へぇ。てことは、お前は強えってことだな」
「……いや、そんなことはねぇけど」
実際、帝に勝ったときも雨宮に勝ったときも、魔力が空っぽになった瞬間に謎の力が湧いてきただけで、俺自身の実力じゃない。
「弱え奴が雨宮に勝てるかよ。……しかし、おもしれぇ奴がいたもんだ。お前とやんのが楽しみになってきたぜ」
八雲は好戦的な笑みを浮かべた。恐えよ、楽しみにすんな。
「俺より強い奴なんか、他にもいるって」
「あ?」
「例えば玲奈とか、俺より強いぞ」
俺は玲奈を指差した。
「女とやりあうの、嫌いなんでな」
なんだよそれ、意外と紳士か!
しかし、そう言われた玲奈は露骨に不機嫌な顔になった。「女だから」と見下されたのが気に入らないのだろう。
「だったら、ルイは」
今度はルイに視線を向ける。
「……」
「……」
八雲はルイをじっと睨みつけた。目つきが悪いせいでガンを飛ばしているようにしか見えないが、対するルイは相変わらずの涼しい笑顔を崩さない。
「こいつがお前より強いのか」
「ああ、俺らのクラスの中じゃ一番強いと思う」
ルイは頭一つ、いや二つは飛び抜けている。
「ぷっ……ははっ」
次の瞬間、堪えきれずに吹き出した。
「雨宮より強い奴がいて、そいつよりまだ底知れねえ奴がいんのか……最高に面白ぇじゃねえか」
こいつ、戦闘狂だ。完全に目がヤバい奴のそれだ。
「お前らとやるの、楽しみだな。次当たってくんねぇかな」
「ごめんね、こいつ強い人と闘うのが好きなの」
「へぇ……俺も、強い奴と闘うのは好きだぜ」
紘弥が一歩前に出て、不敵に笑い返す。そういえばこいつも同類だったな。
「ふふ、楽しみね。……と、そろそろ時間だから失礼するわね。ほら、行くわよ焔」
「……じゃあよ」
八雲はそれだけ言い残し、一ノ瀬の後について去っていった。
「あれが八雲か……」
「確かに強そうな奴だったな……次当たったら気をつけねぇとな」
「あの一ノ瀬って女の子も、強いのかな?」
「どうだろうな……まあ、一筋縄ではいかないことは確かだな」
八雲に一ノ瀬。もし当たるなら、間違いなく強敵になる。
「ま、あんな野郎、俺が一瞬で倒してやるけどな!」
「こっちにはルイがいるしな」
俺は紘弥を無視して言った。ルイが負けるところなんて想像もできない。
「いや、だから俺が――」
「確かに、ルイ君がいるしね~」
「無視すんな!」
「……はいはい。せいぜい頼りにしてるわね、九条」
玲奈が適当に受け流す。
「いや、そういう反応の方が割と辛いんだけど……」
「まあ、まだ当たると決まったわけじゃないからな」
「いや、こういうのは大抵当たるんだよ」
そんな漫画の世界じゃねえんだから、そう都合よく当たらねえだろ。
「私は当たって欲しいわね」
「……なんで?」
玲奈の物騒な言葉に紘弥が聞く。どうせ「女」扱いされたのが気に食わなかったからだろう。
「……なんでもよ。どうでもいいでしょ、そんなの」
「……なんか最近、俺への当たりがさらに激しくなったような気がするんだけど……」
……まあ、頑張れ。紘弥。
「明日にくじ引きがあるから、当たりたいんだったら隼人君のくじ運頼みだね」
「俺かよ!」
別に俺は当たりたいなんて一ミリも思ってないんだけど。
「今日はとりあえず、明日に備えて帰って休んだ方が良さそうですね」
「そうだな。最初から帰るつもりだったけど、八雲に絡まれて余計疲れたしな。……紘弥も、それでいいだろ?」
「分かってるって。流石の俺も、明日試合なのに呑気に遊ばねぇよ」
怪しいもんだが、ともかく俺たちはそれぞれ寮の部屋へと戻った。
食後の落ち着いた空気の中、サラが大きく伸びをする。
「だったら他の店を回るしかねぇだろ! メイド喫茶とか、メイド喫茶とか、メイド喫茶とかな!」
「却下」
紘弥の欲望丸出しの提案は、玲奈に一秒で切り捨てられた。まあ、当たり前だろうな。第一、女子にメイド喫茶はハードルが高いんじゃないか?
「……明日も試合あるかもしれねぇんだし、休んだ方がいいんじゃないのか?」
「え~! 遊ぼうぜ隼人~!」
肩を組んでくる紘弥を剥がし、俺はため息をついた。
「俺はお前と違って馬鹿じゃないから、疲れてんだよ」
「なるほどな。確かにそれじゃあ仕方ねぇ……って、誰が馬鹿だ!」
お、自分が馬鹿にされていることに気づいたか。
「まあ、何か言ってる紘弥君はほっといて……隼人君の言う通りだよね」
「サラ酷くねッ!?」
「私も、疲れは取っておきたいわね」
玲奈の言葉にルイも橘も頷いた。
「だとよ紘弥。遊びたいのはお前だけみたいだぜ」
「マジかよ……まあ、みんなに従うけど」
ちぇ~、と嫌そうに唇を尖らせる紘弥。だったら一人でメイド喫茶に行けよ。
「……あ!」
何か思い出したのか、紘弥が急に大きな声を出した。
「なんだよ。メイド喫茶以外も行かないぞ」
「いや、そうじゃなくてだな……次はどこのクラスと当たるかな~って」
「……急にだな」
「ふと思ったんだよ。あるだろ、そういうこと」
まあ、確かに気にはなるな。どの組が残ってんだろ。
「どこだろ~。強いクラスだと、D組だよね?」
「うん。確かそうだったよ」
「D組か。俺らC組やA組と同じく、優勝候補だったよな。確か不破家とかキルトス家の奴らがいたはずだな」
不破家もキルトス家も、名前くらいは聞いたことがある。そんな連中と当たるなら、決勝がいいな。
「……いえ、D組は負けましたよ」
ルイが唐突に爆弾を落とした。
「え!?」
「マジで!?」
「負けたって、どこにだ?」
紘弥が身を乗り出してルイに聞く。
「E組です」
「E組……強いのか?」
俺はどのクラスが強いとか、そういう情報はあまり詳しくない。
「……いや、強いとは聞いたことねぇな」
「私も聞かないわね」
優勝候補ではない……けど、優勝候補のD組に勝ったのか。
「D組が油断してたとかかな?」
「どうでしょうね……油断していたとしても、そう簡単に勝てる相手ではないはずですが」
「E組はチームワークが凄いのかな」
チームワークか。確かに、優勝候補じゃないクラスってことは、有力な貴族とか強い奴がいないってことだよな?
「私が聞いた話だと、一人だけかなり規格外に強い人がいるらしいですね」
「一人だけ強い奴?」
「ええ。なんでも、一人でD組の生徒のほとんどを倒したそうですよ」
「……そいつはまた、すげえな」
「その人一人で勝ったみたいなものだね」
一人でか……どれだけ強いんだよ、それ。
「……名前は?」
玲奈がルイに聞く。
「八雲 焔……だったと思います」
「八雲……知らねぇな。西園寺、知ってるか?」
「……いいえ、聞かない名ね」
貴族事情に詳しい2人が知らないとなると、その八雲って奴は貴族じゃないってことか。
「……でも、まだその八雲と闘うって決まったわけじゃねえしな」
「確かにそうだね」
「オイ……さっきから人の名前呼んでんのはテメェらか?」
突然、背後からドスの効いた声が響いた。反射的に振り返ると、そこには周囲の空気をピリつかせるほどの威圧感を放つ男が立っていた。
「……えーと、どちらさん?」
紘弥が振り返り、訝しげに眉をひそめた。
「ああ? さっきから俺の名前言ってんじゃねぇか」
さっきから……ってことは、こいつが八雲か!
「お前、八雲か……?」
「ああ、そうだ」
俺は八雲の姿を確認した。背は俺よりも高く、体格もガッチリとしている。赤色の髪をオールバックにしており、鋭い三白眼が威圧感を放っている。ぱっと見、完全にガラの悪い不良だ。
「それで、なんで人の名前言ってたんだ?」
「別になんでもいいだろ」
「ああ? よくねぇだろ」
空気がピリつく。紘弥もなんで正直に「噂をしてた」って言わねえんだよ。
「焔! やっと見つけたー!」
一触即発の空気の中、背後から通る声が響いた。
「……一ノ瀬」
八雲が面倒くさそうに舌打ちをする。そこに現れた女子生徒、一ノ瀬雫は、八雲の隣に並んでも全く気圧されない落ち着いた雰囲気を纏っていた。
艶やかな黒髪を後ろで緩くお団子にまとめ、知性を感じさせる大きな瞳で俺たちを交互に見る。その瞳は、八雲に向ける時だけはまるで手のかかる子供を叱る母親のような、呆れと深い信頼が混ざった温かいものに変わっていた。
「あんた何やってんのよ。どうせ絡んだんでしょ」
雫が軽くため息をつきながら、遠慮なく八雲の肩を小突く。
「は? ちげぇよ! こいつらが俺の名前言ってたんだよ!」
「……ちょっと待て。勝手に話進めてんじゃねぇぞ」
紘弥が、二人の会話に割って入った。
「……君は?」
「そりゃあこっちのセリフだ……一応名乗るけど。九条 紘弥だ」
「ありがと。私は一ノ瀬 雫。この馬鹿と同じクラスなの」
一ノ瀬は呆れたように八雲を指差した。八雲は「馬鹿」と言われて不機嫌そうに眉をひそめる。
「それで、君達はなんでこの馬鹿の名前を言ってたの?」
「それはあれだ、ほら、有名だから?」
なんで疑問形なんだよ、紘弥。
「有名……なるほどね~。良かったじゃない、あんた有名人なんだって」
「別によかねぇよ」
「まあ、そう言わないで。……こいつが有名なのって、どうせ一回戦でのことでしょ?」
「あ、ああ、そうだけど」
同じクラスの一ノ瀬も、八雲が異常な強さで有名になっていることは知っているらしい。
「でも、そういう君達も有名じゃない。優勝候補のA組に勝ったC組でしょ?」
「……俺らも有名なのか」
「有名よ」
「マジか」
「マジよ」
「い、いや~、それほどでも~」
照れる反応が遅すぎるだろ、紘弥。
「特に有名なのが、帝君に西園寺さん、あと桐宮君ね」
「俺も!?」
「ちょっと待て、なんで俺は入ってねぇんだよ!? 帝と西園寺ってきたら俺もだろ!?」
確かに同じ八大貴族だ。世間的には俺よりも紘弥の名前が挙がるのが普通なのだが。
「……紘弥君、どんまい」
サラが哀れむように紘弥の肩を叩く。
「九条君、あなたも有名だから、そんなに落ち込まなくても大丈夫よ」
一ノ瀬が苦笑いしながらフォローしてくれた。その言葉がかえって紘弥の心を抉っている気がしなくもない。
「帝君が有名なのは言わずとも知れた帝家だからとして、西園寺さんも同じくなのと、一回戦で水無家に二人相手に勝ったからよ」
「ちょっと待て、じゃあ俺は?」
「桐宮君は、あの帝君に勝ったこともあるし、A組の雨宮君にも勝ってるからね」
「……それで有名になったのか」
てか、雨宮も有名だったのか。
「……お前、雨宮に勝ったのか」
さっきまで黙っていた八雲が、鋭い視線を俺に向けてきた。
「あ、ああ。勝ったけど」
「へぇ。てことは、お前は強えってことだな」
「……いや、そんなことはねぇけど」
実際、帝に勝ったときも雨宮に勝ったときも、魔力が空っぽになった瞬間に謎の力が湧いてきただけで、俺自身の実力じゃない。
「弱え奴が雨宮に勝てるかよ。……しかし、おもしれぇ奴がいたもんだ。お前とやんのが楽しみになってきたぜ」
八雲は好戦的な笑みを浮かべた。恐えよ、楽しみにすんな。
「俺より強い奴なんか、他にもいるって」
「あ?」
「例えば玲奈とか、俺より強いぞ」
俺は玲奈を指差した。
「女とやりあうの、嫌いなんでな」
なんだよそれ、意外と紳士か!
しかし、そう言われた玲奈は露骨に不機嫌な顔になった。「女だから」と見下されたのが気に入らないのだろう。
「だったら、ルイは」
今度はルイに視線を向ける。
「……」
「……」
八雲はルイをじっと睨みつけた。目つきが悪いせいでガンを飛ばしているようにしか見えないが、対するルイは相変わらずの涼しい笑顔を崩さない。
「こいつがお前より強いのか」
「ああ、俺らのクラスの中じゃ一番強いと思う」
ルイは頭一つ、いや二つは飛び抜けている。
「ぷっ……ははっ」
次の瞬間、堪えきれずに吹き出した。
「雨宮より強い奴がいて、そいつよりまだ底知れねえ奴がいんのか……最高に面白ぇじゃねえか」
こいつ、戦闘狂だ。完全に目がヤバい奴のそれだ。
「お前らとやるの、楽しみだな。次当たってくんねぇかな」
「ごめんね、こいつ強い人と闘うのが好きなの」
「へぇ……俺も、強い奴と闘うのは好きだぜ」
紘弥が一歩前に出て、不敵に笑い返す。そういえばこいつも同類だったな。
「ふふ、楽しみね。……と、そろそろ時間だから失礼するわね。ほら、行くわよ焔」
「……じゃあよ」
八雲はそれだけ言い残し、一ノ瀬の後について去っていった。
「あれが八雲か……」
「確かに強そうな奴だったな……次当たったら気をつけねぇとな」
「あの一ノ瀬って女の子も、強いのかな?」
「どうだろうな……まあ、一筋縄ではいかないことは確かだな」
八雲に一ノ瀬。もし当たるなら、間違いなく強敵になる。
「ま、あんな野郎、俺が一瞬で倒してやるけどな!」
「こっちにはルイがいるしな」
俺は紘弥を無視して言った。ルイが負けるところなんて想像もできない。
「いや、だから俺が――」
「確かに、ルイ君がいるしね~」
「無視すんな!」
「……はいはい。せいぜい頼りにしてるわね、九条」
玲奈が適当に受け流す。
「いや、そういう反応の方が割と辛いんだけど……」
「まあ、まだ当たると決まったわけじゃないからな」
「いや、こういうのは大抵当たるんだよ」
そんな漫画の世界じゃねえんだから、そう都合よく当たらねえだろ。
「私は当たって欲しいわね」
「……なんで?」
玲奈の物騒な言葉に紘弥が聞く。どうせ「女」扱いされたのが気に食わなかったからだろう。
「……なんでもよ。どうでもいいでしょ、そんなの」
「……なんか最近、俺への当たりがさらに激しくなったような気がするんだけど……」
……まあ、頑張れ。紘弥。
「明日にくじ引きがあるから、当たりたいんだったら隼人君のくじ運頼みだね」
「俺かよ!」
別に俺は当たりたいなんて一ミリも思ってないんだけど。
「今日はとりあえず、明日に備えて帰って休んだ方が良さそうですね」
「そうだな。最初から帰るつもりだったけど、八雲に絡まれて余計疲れたしな。……紘弥も、それでいいだろ?」
「分かってるって。流石の俺も、明日試合なのに呑気に遊ばねぇよ」
怪しいもんだが、ともかく俺たちはそれぞれ寮の部屋へと戻った。
