魔力の少ない魔法使い

ー次の日。
「今日はどうするよ」
 俺は隣にいた紘弥に視線を向ける。
「んー、どうすっかな~。俺らは今日は店の手伝いもしなくていいし……お前ら、どうする?」
 紘弥が、集まった面々に問いかける。
 今ここにいるのは俺、紘弥、玲奈、サラ、ルイ、橘のいつもの六人だ。
 帝は「君たちと群れる趣味はない」とかなんとか言ってどこかへ行ったし、ティオナと五十嵐はそれぞれクラスの友達と一緒に回っているらしい。失礼だけど、ティオナにもちゃんと友達がいたんだなと少し安心した。
 黒崎は一人でどこかへ行った。まあ、射的屋かその手の店を探しているんだろう。狙われた店が可哀想だが。
「店をまわるしかないよね」
「どこのお店に行くの?」
「そうですね。丁度昼時ですし、何か食べられる所が良さそうですね」
「そうするか。……だと、俺らのクラスの店で食うのはちょっとあれだし……『2-E』はどうだ? ファミレスみたいな感じらしいけど」
 紘弥の提案に、「どうする、隼人?」と全員の視線が俺に向く。
「だったら、そこでいいんじゃないか?」
 俺がそう答えると、全員が頷いた。
「2-Eは……と、あそこだな」
 案内図を見て指をさす。
「ほんとだ、並んでないみたいだしすぐ入れるね」
「いらっしゃいませ~。……って、隼人達じゃない!」
「姉ちゃん!? ここって姉ちゃんのクラスだったのか」
 案内された先にいたのは、エプロン姿の姉ちゃんだった。
「そうよ。みんなもこんにちは~」
 姉ちゃんの挨拶に、みんなも「こんにちは」と返す。
「この席で待っててね~」
「あ、うん。わかった」
 席に着き、小さくため息をついた。
「いや~、それにしても楓さんのクラスだったとはね」
「ああ、そうだな」
「よーし、なんでもいいから頼むか! 腹減ったし!」
「そうだね! 私もお腹すいた!」
 数十分後。
「お待たせしました~」
「おー! すっげぇ美味そう!」
「ほんとだね! 学校の出し物で作ったとは思えないもん!」
「ええ、美味しそうですね」
 運ばれてきた料理を見て、俺も感心した。見た目は完璧だ。俺も見習いたいレベルだ。
「……ねえ、隼人」
「ん? どうした玲奈」
「これ、まさか楓さんが作ったんじゃないわよね?」
「……いや、流石にそれはないだろ。多分……」
 俺の言葉に、玲奈は周囲を見渡す。
「でも、楓さん、ここにはいないみたいだけど……」
 言われてみれば、確かに姉ちゃんの姿が見えない。いやいや、だからといって姉ちゃんが料理を作ったとは限らねえ。たまたま奥にいるだけかもしれないし。
「そんじゃ食べるぞー! いっただきまーす!」
「あ、待て紘弥!」
「ん?」
 俺が制止するより早く、紘弥は料理を豪快に口に放り込んでいた。
「うっ……」
 みるみるうちに、紘弥の顔から血の気が引いていく。
「まじかよ……」
「え? え? どうしたの紘弥君?」
 状況を把握できていないサラが慌てている。いや、サラだけじゃなく、俺と玲奈以外は誰も事態を理解していない。
「これ……姉ちゃんが作った料理だ」
「「「えっ?」」」
「紘弥、大丈夫か!?」
「だ、大丈夫なわけねえだろ……この世のものとは思えねえ不味さだ……死ぬ……ッ!」
 紘弥は自分のコップの水を一気に飲み干したが、それでは足りず、俺とルイの水まで奪って飲み干した。
「……楓さんは、料理がものすごく下手なのよ」
「ああ、見た目はシェフ顔負けなんだけどな……」
「……な、なんだよそれ! もっと早く言ってくれよ!」
「悪い。まさか姉ちゃんが厨房に入ってるとは思わなかったんだ」
 つーか、大丈夫なのかよ他の客は。俺は辺りを見渡したが、特に倒れている客はいなかった。運が良かったのか。

「隼人ー、どう? 食べた?」
背筋が凍る。
「!?」
 不意に背後から声がして振り返ると、姉ちゃんが満面の笑みで立っていた。
「て、てかこれ、姉ちゃんが作ったんだ……」
「そうよ! 隼人達には特別にね!」
(((な、なぜそんな特別なことを……!)))
 おそらく、俺を含む全員が同じことを思っただろう。
「で、どうだった? おいしい?」
「……い、いやー、今から食べようとしたところかなー……な、みんな?」
 俺が引きつった顔でみんなに同意を求めると、全員が必死に首を縦に振った。
「じゃんじゃん食べてね!」
「あー、うん。食べるよ……」
「「「……」」」
「……いつまでいんの? 客が来たりするんじゃない?」
「大丈夫大丈夫! 今はあまり来てないみたいだし」
「へ、へぇ~、そうなんだー」
(ま、まずい……! 紘弥! な、なんとかしろ!)
 俺は紘弥に必死にアイコンタクトを送った。
(なんで俺なんだよ!)
(お前しかいない!)
「……美味しいですよ」
「「「……えっ?」」」
 俺と紘弥が目で殺し合いをしている横で、信じられない声がした。
 見れば、ルイが平然と料理を口に運んでいる。しかも「美味しい」とまで言ってのけた。その言葉に、全員が目を丸くした。
「本当!? 今回のは自信作だったのよね~!」
 ルイの言葉に喜ぶ姉ちゃん。自信作って何の自信なんだよ、不味さの極みへの自信か。
「ルイ! 無理すんな!」
 紘弥が小声で突っ込む。
「いえ、大丈夫ですよ」
 フフッと笑って返すルイ。あいつの舌と胃袋、一体どうなってるんだ。
「みんなも食べて食べて!」
(紘弥、頼む!)
 俺が再び目で訴えると、紘弥はニコニコしている姉ちゃんをチラッと見て、覚悟を決めたように箸を握り直した。
「……」
 紘弥は再び料理を口に入れた。
「……うっ、うまいっすよ」
 涙目で必死に我慢しながら、料理を褒める紘弥。
「ありがと! さあさあ他の子も……あ、『楓~、客きたわよ~』だって。ごめんね、私はもう行くわね」
 そう言って、姉ちゃんは厨房の方へ戻っていった。
「「「た、助かった~……」」」
「それにしても、ルイと紘弥すげぇな。あの料理を食べるとは」
 俺なんか、あんなの絶対無理だ。
「いや、俺なんかよりルイの方がよっぽどヤバいぜ。顔色一つ変えずに食ってたんだから」
「確かにそうね。楓さんの料理を食べて笑えるなんて……あんた、本当に人間なの?」
 玲奈の率直すぎるツッコミ。だが、激しく同意する。
「ああ、それでしたら、私はこれを使ったので」
ルイはポケットから小さなガラス瓶を取り出した。
 
「これは?」
「これはですね……どんなに不味い料理でも、絶品に変えることができる薬ですかね」
透明な液体が、一滴だけ皿に落ちる。
「どんな不味い料理でも……」
「美味しくできる……?」
「はい」
「「「はぁ!?」」」
「そんな薬あるの!?」
「ええ。この間調合してみたのですが、上手くいきました」
 まじかよ……こいつ、凄すぎんだろ。
「つまりエスクード君は、本当に美味しかったってこと?」
「ええ、そうです」
 橘の問いに、笑顔で即答するルイ。
「ちょ、ちょっとまて……じゃあなにか。俺は死ぬ気で我慢して食ったけど、お前は全然大丈夫だったってことか?」
 紘弥がワナワナと震えながらルイを指差す。
「ふざけんな! 俺にもその薬渡してくれても良かったじゃねぇか!」
「……すいません」
 ルイは申し訳なさそうに謝ったが、こいつ、絶対面白がって渡さなかっただろ。
「ま、まあ何はともあれ、これで隼人君のお姉さんの料理も食べれるね!」
「ああ、そうだな。ルイ、薬くれ」
「はい」
 ルイから人数分の薬を受け取り、俺たちは恐る恐る料理に振りかけた。
「これで、ちゃんと食べれる料理になったんだよな……?」
 一瞬だけ息を止める。
覚悟を決めて、口に運んだ。
「……ど、どう?」
 玲奈が不安そうに聞いてくる。
「……っ、いける……!」
思わず顔を上げる。
「いや、普通に美味いぞこれ!」
「本当だ! さっきまであんなに不味かったのに!」
 他の奴らも次々と料理を口に運び、目を輝かせた。
「凄いわね……楓さんの料理が食べられる日がくるなんて」
……言い過ぎだろ、それ。
そう思いながらも、否定はできなかった。