あれから二ヶ月が経ち、とうとう魔闘祭予選の日がやってきた。
この間、帝とは特に衝突することもなく、嵐の前の静けさとでも言うべき平穏な学園生活を送っていた。だが、あの日図書館で交わした火花は、俺の心の中で消えることなく燃え続けている。
「う~し、お前ら今日から魔闘祭予選だ。全員全力で戦え」
烏廻さんが、いつになく真剣な声を響かせる。
俺たちは学園の奥にそびえ立つ闘技場へと移動した。そこは古代ローマのコロッセオを彷彿とさせる、石造りの巨大な円形競技場だ。周囲の観客席とフィールドの間には、万が一にも魔法が飛び出さないよう、強力な魔導障壁が陽炎のように揺らめいている。
「いまからこれを配る。これは魔闘祭当日でも使われるもんだ」
烏廻先生が地面に置いてあった箱から取り出したのは、銀色の重厚な腕時計だった。
「こいつは衝撃を感知して、一定のダメージを超えると壊れるようになっている。直接狙って壊してもいい。とにかく、これが壊れたら負けだ。あとは俺がストップをかけるか、どっちかが降参するか。いいな?」
どうやら烏廻先生が審判を務めるらしい。普段の適当な彼が、瞬時の魔法の応酬を正しくジャッジできるのか些か不安だが、その視線は鋭くフィールドを見据えていた。
「じゃあ、一試合目の奴らは前へ来い。他の奴らは観客席からしっかり見てろよ。他人の戦いを知るのも勉強のうちだ」
俺たちは西側の観客席に陣取った。
一試合目、二試合目と、クラスメイトたちの戦いが繰り広げられる。魔法の閃光が走り、石畳が弾ける音が観客席まで響いてくる。
少し時間が経ち、今は三試合目が終わろうとしているところだ。
次の試合は、サラの出番だった。彼女の表情は硬く、膝がわずかに震えているのが横にいてもわかる。
「大丈夫? サラちゃん」
橘が心配そうに声をかけた。
「だだだ、大丈夫だよ……っ!」
「噛みすぎだろ」
紘弥が苦笑するが、サラはそれどころではない様子だ。
「試合終了~」
烏廻先生の声が響く。次はサラの番だ。
「大丈夫だよ、サラちゃんなら絶対勝てるから」
「……うん、ありがとう瑞希」
「ほら、お前もなんか言ってやれよ」
紘弥に小突かれ、俺は言葉を探した。気の利いたセリフなんて思いつかないが、今の彼女には「いつも通り」が必要だと思った。
「……えっと、サラ。お前に緊張なんて似合わないぞ。お前はずっと、いつもみたいにはしゃいでたらいいんだ。お前の笑顔は、相手を油断させる最大の武器なんだからさ」
俺は結局何が言いたかったんだ? 恐る恐るサラの顔を見ると、彼女は一瞬呆気に取られた後、
「……ぷっ! あはは、何それ! 隼人君、それ全然励ましになってないよ。私をどんな性格だと思ってるの?」
ケラケラと笑い、サラは「行ってくるね!」と軽い足取りでフィールドへ向かった。
「お前面白すぎだろ、今の……っ」
紘弥が必死に笑いを堪えている。俺はもう何も喋らないと心に決めた。
フィールドに立ったサラと相手の男子生徒。
「試合開始!」
烏廻先生の合図とともに、二人が武具召喚を行った。
相手はオーソドックスな片手剣。対してサラの手元に現れたのは――彼女の身の丈を超える、漆黒の巨大な大鎌だった。
「へぇ~鎌か。サラのイメージとは正反対だな」
紘弥が驚きの声を上げる。確かに、あの小柄な身体に死神のような大鎌は、強烈な視覚的ギャップを生んでいた。
相手の男子生徒が、間合いを詰めて一気に斬りかかる。だが、サラは巨大な鎌を風車のように振り回し、相手の剣を軽々と弾き飛ばした。
「【土石流】!」
体勢を崩した相手の足元が、魔法によって泥濘と化す。最後は冷たい鎌の刃が、相手の喉元にピタリと添えられた。
「……降参する?」
小首を傾げて笑うサラ。その背後には、本物の死神が透けて見えるような錯覚さえ覚えた。
「強いな、サラのやつ」
「ああ、完璧な間合いの管理だった」
俺と紘弥が感心している間に、サラはニコニコと笑顔で戻ってきた。
続いてルイがフィールドに立つ。彼は相変わらず、散歩にでも行くような余裕の笑みを浮かべていた。
ルイが召喚したのは、赤黒い光を放つ長槍――〈グングニル〉。
相手が放った水の槍【アクア・ランス】に対し、ルイはただ一歩、前へ踏み出した。
「……失礼」
短く呟き、槍を投擲する。槍は空気を切り裂く鋭い音さえ立てず、まるで空間をスキップするように直進した。相手が必死に回避運動をとるが、槍は空中で不自然に折れ曲がり、吸い寄せられるように相手に直撃した。
「……恐ろしいな、あいつ」
戻ってきたルイの「疲れちゃいました」という言葉を信じる奴は、この場に一人もいなかった。
その後も予選は続く。
玲奈の試合は、冷徹そのものだった。
相手の放つ猛烈な火球に対し、彼女は氷のレイピア〈ニヴルヘイム〉を抜く。一閃。斬られた火球は熱を失うどころか、その形のまま氷結し、地面に落ちて砕け散った。
「属性の相性なんて、出力でねじ伏せれば関係ないわ」
冷たい言葉と共に放たれた【アイス・ニードル】が、相手を氷の檻に閉じ込め、試合を終わらせた。
続く橘の戦いは、正反対に優美だった。
桜色の弓〈天ノ桜〉を引き絞る。放たれた一本の矢は、空中で桜の花びらが舞うように数百の光弾へと分散した。
「綺麗……」
観客が見惚れる中、その光弾は意思を持つように相手の四肢をかすめ、逃げ道を塞ぐ。最後の一矢が正確にデバイスを撃ち抜いた時、橘は静かに一礼して舞台を降りた。
そして、紘弥の番。
「サクッとやってやるぜ」
彼は銀色の双銃〈麒麟〉(きりん)を召喚した。
「双銃か。遠距離タイプとは意外だな……」
相手の剣士は銃撃を警戒し、ジグザグに距離を詰め、一気に絋弥の懐へと飛び込んできた。剣の間合い――銃使いにとっては絶望的な距離。だが、絋弥はニヤリと不敵に笑い、一歩も引かなかった。
「はらよっ!」
鋭い踏み込みに合わせた、目にも止まらぬ回し蹴り。
不意を突かれた相手は防御が間に合わず、その一撃で大きく弾き飛ばされた。宙に浮いた無防備な相手に対し、絋弥は間髪入れず双銃を突き出す。
「逃がさねぇよ」
火を吹く銃口。雷鳴と共に放たれた魔力の弾丸が相手を追い詰め、最後は二つの銃口を並べて放った極太の雷光【雷砲】が、相手をフィールドの端まで消し飛ばした。
スタイリッシュでありながら、相手の土俵で叩き伏せるような暴力的な強さ。まさに絋弥らしい戦いだった。
「……行ってくるか」
帝が、圧倒的な強さで相手を下したのを見届け、俺は立ち上がった。
「頑張れよ、隼人!」
紘弥たちの声を受け、俺はフィールドの中央へ向かう。
目の前には、片手剣を構えた男子生徒。
「準備はいいな」
烏廻先生の問いに頷く。
「よし、試合開始!」
合図と同時に、俺は武具召喚――ではなく、懐から一枚の古びた紙を取り出した。
「我は汝の力を欲する者なり。我が声に応えよ」
召喚印から噴き出す紅蓮の炎。
「来たれ、《サラマンダー》!」
炎の中から現れたのは、深紅の鱗を纏った人型のドラゴンだ。こいつとは、学園に入るずっと前からの付き合いだ。
『久しぶりだな、隼人』
「悪いけど話してる暇はないんだ。いつものやってくれ」
『はぁ、めんどくせぇな。《形態変化》!』
サラマンダーの身体が光に包まれ、一本の炎剣へと姿を変える。
俺が自分の固有武具を「実体化」させようとすれば、膨大な魔力を消費してしまう。だが、契約しているサラマンダーを「武器の形」として顕現させることで、消費を最小限に抑えつつ、最高峰の火力を得ることができる。これが、俺のたどり着いた低魔力の戦い方だ。
「そんじゃ……やるか」
俺は炎剣を手に、地面を蹴った。
石畳を焦がしながら一気に肉薄する。
相手は剣で防ごうとするが、サラマンダーが放つ熱気に怯み、一瞬だけ反応が遅れた。その隙を逃さず、俺は相手の懐に入り込み、強烈な一撃を叩き込む。
「【アクア・ランス】!」
相手が至近距離から魔法を放つ。
「炎剣壱ノ型――【火柱】!」
振り上げた剣から立ち上る炎の壁が、水の槍を瞬時に蒸発させた。
「弐ノ型――【火燕】!」
三連の炎の斬撃。回避不能な熱の刃が相手に直撃する。そして、そのまま倒れている相手に向かって駆け出し剣を突きつける。
「…ッ降参する」
「試合終了! 勝者、桐宮隼人!」
「……ふぅ。サンキュー、サラマンダー」
『もう終わりか、早いな。また、いつでも呼べよ?』
相棒はそう言い残し、再び炎となって消えていった。
「おかえり、隼人君! 凄かったよ、あのドラゴン!」
サラが自分のことのように喜んでくれる。
「けどよ隼人、なんで自分の『武具』を召喚しなかったんだ? 持ってないわけじゃないだろ」
紘弥の鋭い指摘。俺は少しだけ言葉に詰まった。
「……まあ、燃費の問題だよ。俺にはこれがお似合いだ」
自分の魔力の少なさは、俺にとって最大のコンプレックスだ。それを正直に話すのは、もう少し先でいい気がした。
「よ~し、これで一回戦は終わりだ。二回戦は三日後。勝った奴らはしっかり休んで準備しとけよ。……んじゃ、解散!」
烏廻先生がひらひらと手を振って去っていく。
帰り道、夕陽に染まる校舎を見上げながら、俺たちは誓い合った。全員で、このクラスの代表になろうと。
だが、俺の心には一つの影が落ちていた。
二回戦の相手。あの圧倒的な暴力の体現者――帝竜二。
寮のベッドに横たわり、俺は暗い天井を見つめた。
(果たして帝に勝てるだろうか……)
俺の全力をぶつけたとしても勝てるという保証はない。
「…考えても仕方ない、か」
保証がなかろうが全力でぶつかるしかないんだ、やることは変わらない。
俺は静かに目を閉じ、意識を深い闇へと沈めていった。
この間、帝とは特に衝突することもなく、嵐の前の静けさとでも言うべき平穏な学園生活を送っていた。だが、あの日図書館で交わした火花は、俺の心の中で消えることなく燃え続けている。
「う~し、お前ら今日から魔闘祭予選だ。全員全力で戦え」
烏廻さんが、いつになく真剣な声を響かせる。
俺たちは学園の奥にそびえ立つ闘技場へと移動した。そこは古代ローマのコロッセオを彷彿とさせる、石造りの巨大な円形競技場だ。周囲の観客席とフィールドの間には、万が一にも魔法が飛び出さないよう、強力な魔導障壁が陽炎のように揺らめいている。
「いまからこれを配る。これは魔闘祭当日でも使われるもんだ」
烏廻先生が地面に置いてあった箱から取り出したのは、銀色の重厚な腕時計だった。
「こいつは衝撃を感知して、一定のダメージを超えると壊れるようになっている。直接狙って壊してもいい。とにかく、これが壊れたら負けだ。あとは俺がストップをかけるか、どっちかが降参するか。いいな?」
どうやら烏廻先生が審判を務めるらしい。普段の適当な彼が、瞬時の魔法の応酬を正しくジャッジできるのか些か不安だが、その視線は鋭くフィールドを見据えていた。
「じゃあ、一試合目の奴らは前へ来い。他の奴らは観客席からしっかり見てろよ。他人の戦いを知るのも勉強のうちだ」
俺たちは西側の観客席に陣取った。
一試合目、二試合目と、クラスメイトたちの戦いが繰り広げられる。魔法の閃光が走り、石畳が弾ける音が観客席まで響いてくる。
少し時間が経ち、今は三試合目が終わろうとしているところだ。
次の試合は、サラの出番だった。彼女の表情は硬く、膝がわずかに震えているのが横にいてもわかる。
「大丈夫? サラちゃん」
橘が心配そうに声をかけた。
「だだだ、大丈夫だよ……っ!」
「噛みすぎだろ」
紘弥が苦笑するが、サラはそれどころではない様子だ。
「試合終了~」
烏廻先生の声が響く。次はサラの番だ。
「大丈夫だよ、サラちゃんなら絶対勝てるから」
「……うん、ありがとう瑞希」
「ほら、お前もなんか言ってやれよ」
紘弥に小突かれ、俺は言葉を探した。気の利いたセリフなんて思いつかないが、今の彼女には「いつも通り」が必要だと思った。
「……えっと、サラ。お前に緊張なんて似合わないぞ。お前はずっと、いつもみたいにはしゃいでたらいいんだ。お前の笑顔は、相手を油断させる最大の武器なんだからさ」
俺は結局何が言いたかったんだ? 恐る恐るサラの顔を見ると、彼女は一瞬呆気に取られた後、
「……ぷっ! あはは、何それ! 隼人君、それ全然励ましになってないよ。私をどんな性格だと思ってるの?」
ケラケラと笑い、サラは「行ってくるね!」と軽い足取りでフィールドへ向かった。
「お前面白すぎだろ、今の……っ」
紘弥が必死に笑いを堪えている。俺はもう何も喋らないと心に決めた。
フィールドに立ったサラと相手の男子生徒。
「試合開始!」
烏廻先生の合図とともに、二人が武具召喚を行った。
相手はオーソドックスな片手剣。対してサラの手元に現れたのは――彼女の身の丈を超える、漆黒の巨大な大鎌だった。
「へぇ~鎌か。サラのイメージとは正反対だな」
紘弥が驚きの声を上げる。確かに、あの小柄な身体に死神のような大鎌は、強烈な視覚的ギャップを生んでいた。
相手の男子生徒が、間合いを詰めて一気に斬りかかる。だが、サラは巨大な鎌を風車のように振り回し、相手の剣を軽々と弾き飛ばした。
「【土石流】!」
体勢を崩した相手の足元が、魔法によって泥濘と化す。最後は冷たい鎌の刃が、相手の喉元にピタリと添えられた。
「……降参する?」
小首を傾げて笑うサラ。その背後には、本物の死神が透けて見えるような錯覚さえ覚えた。
「強いな、サラのやつ」
「ああ、完璧な間合いの管理だった」
俺と紘弥が感心している間に、サラはニコニコと笑顔で戻ってきた。
続いてルイがフィールドに立つ。彼は相変わらず、散歩にでも行くような余裕の笑みを浮かべていた。
ルイが召喚したのは、赤黒い光を放つ長槍――〈グングニル〉。
相手が放った水の槍【アクア・ランス】に対し、ルイはただ一歩、前へ踏み出した。
「……失礼」
短く呟き、槍を投擲する。槍は空気を切り裂く鋭い音さえ立てず、まるで空間をスキップするように直進した。相手が必死に回避運動をとるが、槍は空中で不自然に折れ曲がり、吸い寄せられるように相手に直撃した。
「……恐ろしいな、あいつ」
戻ってきたルイの「疲れちゃいました」という言葉を信じる奴は、この場に一人もいなかった。
その後も予選は続く。
玲奈の試合は、冷徹そのものだった。
相手の放つ猛烈な火球に対し、彼女は氷のレイピア〈ニヴルヘイム〉を抜く。一閃。斬られた火球は熱を失うどころか、その形のまま氷結し、地面に落ちて砕け散った。
「属性の相性なんて、出力でねじ伏せれば関係ないわ」
冷たい言葉と共に放たれた【アイス・ニードル】が、相手を氷の檻に閉じ込め、試合を終わらせた。
続く橘の戦いは、正反対に優美だった。
桜色の弓〈天ノ桜〉を引き絞る。放たれた一本の矢は、空中で桜の花びらが舞うように数百の光弾へと分散した。
「綺麗……」
観客が見惚れる中、その光弾は意思を持つように相手の四肢をかすめ、逃げ道を塞ぐ。最後の一矢が正確にデバイスを撃ち抜いた時、橘は静かに一礼して舞台を降りた。
そして、紘弥の番。
「サクッとやってやるぜ」
彼は銀色の双銃〈麒麟〉(きりん)を召喚した。
「双銃か。遠距離タイプとは意外だな……」
相手の剣士は銃撃を警戒し、ジグザグに距離を詰め、一気に絋弥の懐へと飛び込んできた。剣の間合い――銃使いにとっては絶望的な距離。だが、絋弥はニヤリと不敵に笑い、一歩も引かなかった。
「はらよっ!」
鋭い踏み込みに合わせた、目にも止まらぬ回し蹴り。
不意を突かれた相手は防御が間に合わず、その一撃で大きく弾き飛ばされた。宙に浮いた無防備な相手に対し、絋弥は間髪入れず双銃を突き出す。
「逃がさねぇよ」
火を吹く銃口。雷鳴と共に放たれた魔力の弾丸が相手を追い詰め、最後は二つの銃口を並べて放った極太の雷光【雷砲】が、相手をフィールドの端まで消し飛ばした。
スタイリッシュでありながら、相手の土俵で叩き伏せるような暴力的な強さ。まさに絋弥らしい戦いだった。
「……行ってくるか」
帝が、圧倒的な強さで相手を下したのを見届け、俺は立ち上がった。
「頑張れよ、隼人!」
紘弥たちの声を受け、俺はフィールドの中央へ向かう。
目の前には、片手剣を構えた男子生徒。
「準備はいいな」
烏廻先生の問いに頷く。
「よし、試合開始!」
合図と同時に、俺は武具召喚――ではなく、懐から一枚の古びた紙を取り出した。
「我は汝の力を欲する者なり。我が声に応えよ」
召喚印から噴き出す紅蓮の炎。
「来たれ、《サラマンダー》!」
炎の中から現れたのは、深紅の鱗を纏った人型のドラゴンだ。こいつとは、学園に入るずっと前からの付き合いだ。
『久しぶりだな、隼人』
「悪いけど話してる暇はないんだ。いつものやってくれ」
『はぁ、めんどくせぇな。《形態変化》!』
サラマンダーの身体が光に包まれ、一本の炎剣へと姿を変える。
俺が自分の固有武具を「実体化」させようとすれば、膨大な魔力を消費してしまう。だが、契約しているサラマンダーを「武器の形」として顕現させることで、消費を最小限に抑えつつ、最高峰の火力を得ることができる。これが、俺のたどり着いた低魔力の戦い方だ。
「そんじゃ……やるか」
俺は炎剣を手に、地面を蹴った。
石畳を焦がしながら一気に肉薄する。
相手は剣で防ごうとするが、サラマンダーが放つ熱気に怯み、一瞬だけ反応が遅れた。その隙を逃さず、俺は相手の懐に入り込み、強烈な一撃を叩き込む。
「【アクア・ランス】!」
相手が至近距離から魔法を放つ。
「炎剣壱ノ型――【火柱】!」
振り上げた剣から立ち上る炎の壁が、水の槍を瞬時に蒸発させた。
「弐ノ型――【火燕】!」
三連の炎の斬撃。回避不能な熱の刃が相手に直撃する。そして、そのまま倒れている相手に向かって駆け出し剣を突きつける。
「…ッ降参する」
「試合終了! 勝者、桐宮隼人!」
「……ふぅ。サンキュー、サラマンダー」
『もう終わりか、早いな。また、いつでも呼べよ?』
相棒はそう言い残し、再び炎となって消えていった。
「おかえり、隼人君! 凄かったよ、あのドラゴン!」
サラが自分のことのように喜んでくれる。
「けどよ隼人、なんで自分の『武具』を召喚しなかったんだ? 持ってないわけじゃないだろ」
紘弥の鋭い指摘。俺は少しだけ言葉に詰まった。
「……まあ、燃費の問題だよ。俺にはこれがお似合いだ」
自分の魔力の少なさは、俺にとって最大のコンプレックスだ。それを正直に話すのは、もう少し先でいい気がした。
「よ~し、これで一回戦は終わりだ。二回戦は三日後。勝った奴らはしっかり休んで準備しとけよ。……んじゃ、解散!」
烏廻先生がひらひらと手を振って去っていく。
帰り道、夕陽に染まる校舎を見上げながら、俺たちは誓い合った。全員で、このクラスの代表になろうと。
だが、俺の心には一つの影が落ちていた。
二回戦の相手。あの圧倒的な暴力の体現者――帝竜二。
寮のベッドに横たわり、俺は暗い天井を見つめた。
(果たして帝に勝てるだろうか……)
俺の全力をぶつけたとしても勝てるという保証はない。
「…考えても仕方ない、か」
保証がなかろうが全力でぶつかるしかないんだ、やることは変わらない。
俺は静かに目を閉じ、意識を深い闇へと沈めていった。
