「【アクア・ブレット】!」
橘の凛とした声が響く。
次の瞬間、彼女の周囲の空気がわずかに震え、淡い青色の魔力がゆっくりと集まり始めた。
集束した魔力は水へと変質し、空中にいくつもの水球を生み出す。
それらはただの水ではない。極限まで圧縮され、弾丸のような密度を持った高圧の水塊だった。
空気を震わせるような鋭い音と共に、それらが一斉に射出される。
複数の水弾は鋭い軌道を描き、猛スピードで対峙する女子生徒へと襲い掛かった。
「甘いわよ」
女子生徒は鼻で笑い、迫り来る水弾の雨を物ともせず避けていく。
一歩踏み込み、身体をわずかに傾ける。
それだけで水弾は頬の横を掠め、後方の地面へ弾け飛んだ。
さらにもう一歩。
水飛沫を背後に散らしながら、一直線に橘へと駆け抜ける。
(速い……!)
弓使いである橘にとって、接近戦は最も避けたい事態だ。彼女は慌ててステップを踏み、後ろに下がって距離をとろうとする。
「……だから、甘いって言ってるのよ!」
だが、女子生徒はさらに一段階スピードを上げた。橘が後退するよりも遥かに速い速度で、一瞬にしてその懐へと潜り込む。
「まずい……!」
女子生徒は橘の目の前で鋭く踏み込み、両手に握った白銀の双剣が閃いた。
女子生徒は踏み込みと同時に、右の刃を横薙ぎに振り抜く。
「……ッ……ぁ!」
橘は咄嗟に弓の硬いフレームを盾にして防いだが、剣撃に乗せられた重い衝撃までは殺しきれない。小柄な身体が衝撃に弾かれ、地面を大きく滑った。
息をつく暇もない。女子生徒は追撃をかけるため、即座に地面を蹴って橘の落下地点へと跳躍した。上段から無慈悲な剣が振り下ろされる。
「……【アクア・ウォール】!」
橘は地面を転がりながらも必死に片手を突き出し、魔力を解放した。間一髪のところで分厚い水の壁がそびえ立ち、女子生徒の剣撃を泥沼のように受け止めて威力を殺す。
水が弾け飛ぶ隙を突き、橘は再び大きく後方へ跳んで体勢を立て直した。
(接近戦は絶対に避けなきゃ……。けど、あの人速すぎるし……どうしよう)
「よく防いだわね。さっきのは完全に決まったと思ったんだけど。意外とやるじゃない」
女子生徒は双剣を軽く構え直し、少しだけ感心したように言った。
「……ありがとうございます」
橘がペコリと頭を下げると、女子生徒はポカンとした後、呆れたように眉間を押さえた。
「……褒めたけどさ、普通、敵に礼なんか言わないわよ」
「あ、すみません」
「……わざとやってない? 調子狂うわね、ほんと」
女子生徒は深々とため息をついた。緊迫した戦闘の中にあって、橘の生真面目すぎる態度は明らかに異質だった。
「まあいいわ……。で、どうする? このまま逃げ回っても、遠距離攻撃は当たらない。あなたに勝ち目はないと思うわよ」
女子生徒は剣先を突きつけ、降参を促すように言った。
「……そんなの、まだ分かりません!」
橘は諦めることなく、再び弓を引き絞り、矢を放った。矢は空気を裂き、一直線に女子生徒の眉間へと向かっていく。
「だから、魔法も矢も当たらないって言ってるでしょ」
女子生徒は少し呆れた様子で、最小限の動きで首を傾けて矢を避けようとした。
「……!?」
だが、女子生徒が回避動作に入ったその瞬間。橘の放った一本の矢が、空中で突如として三本に分裂し、広範囲をカバーする散弾となって襲い掛かったのだ。
「……くッ!」
完全に意表を突かれた女子生徒だったが、持ち前の反射神経で即座に剣を振るい、自身の急所へ向かってきた矢だけを的確に弾き落とした。カキンッ!と鋭い音が響く。
(嘘、今の不意打ちも防がれちゃうの……? この人には、もっと根本的に動きを封じる攻撃じゃないと……)
「……へぇ、なかなかやるじゃない。まさか空中で軌道を変えるなんてね」
女子生徒は頬に薄く入った擦り傷を拭い、好戦的な笑みを浮かべた。
「でも、そろそろ遊びは終わりにするわ……。今から、本気でいくわよ」
女子生徒がそう宣言した途端、彼女の顔から笑みがスッと消え去り、周囲の空気がビリッと張り詰めた。
次の瞬間、女子生徒の姿がブレた。先ほどとは比べ物にならない、本物の踏み込み。橘は咄嗟に牽制の矢を放って足止めを試みるが、女子生徒はそれを幻影のようにすり抜け、全くスピードを落とさずに肉薄してくる。
「……まずい!」
橘は恐怖に顔を引きつらせながら、慌てて後方へと大きく跳んで回避行動をとる。
「遅いわよ」
だが、無慈悲な声が橘のすぐ耳元で響いた。女子生徒の踏み込みの方が、橘の後退速度を完全に上回っていた。視界の端で、右の刃が閃き、続けざまに左の刃が追撃する。
交差する双剣の軌跡が、銀色の残光となって橘へ迫った。
「……ッ……!」
橘の太ももを、鋭利な剣の刃が浅く、だが確実に切り裂いた。制服が裂け、鮮血が空中に舞う。遅れてやってきた焼けるような激痛に、橘の顔が歪み、そのままバランスを崩してアスファルトへ無様に転がった。
(速い……!? 今までのは、本当に本気じゃなかったの!?)
「……これで終わりね」
女子生徒は、膝をついて体勢を崩した橘を冷たく見下ろし、確実なトドメを刺すためにゆっくりと、一歩ずつ歩み寄ってくる。カツ、カツという足音が、橘の心臓を直接叩くように響いた。
(このままじゃ、絶対にやられる……。もう、あれを使うしかない……!)
橘は斬られた太ももを強く押さえ、痛みに耐えながらゆっくりと立ち上がった。その瞳には、まだはっきりとした闘志が燃えている。
「まだ動けるのね……。根性は認めるけど、これまでよ」
女子生徒は地を蹴り、橘に向かって最後の一撃を振り下ろそうとした。橘は先ほどと同じように、後方へ跳んで避けようとする。
「……だから、遅いって言ってるでしょ!」
女子生徒は橘の回避先を完全に読み切り、さらに加速して追い打ちをかけた。勝利を確信し、全体重を乗せた剣が橘を両断しようと振り下ろされる。
――が、その剣は、空を切った。
「なっ……!?」
女子生徒は驚愕に目を見開いた。
橘が、あり得ないタイミングで身体を捻り、その致命的な一撃を紙一重で見切って避けたのだ。それだけではない。振り下ろした自分の剣が、橘の身体に近づいた瞬間に粘りつくような水の抵抗を受け、急激に減速したのを感じ取っていた。
「さっきより、私の動きが……いや、あなたのスピードが上がってる……? 一体、何をしたの!」
「……属性付加――【水】」
ボォン、と重く静かな音が響き、橘の全身を揺らめく透明な水流が駆け巡った。
それは彼女の身体を薄い膜のように包み込み、周囲の空気をしっとりと重く変えていく。
「属性付加ですって!?」
「はい、そうです」
橘は弓を握り直し、しっかりと頷いた。
「水の属性付加を纏っている間、私の身体に近づくものはすべて、深い水中に沈んだようにスピードを奪われます。……私に触れることは、もうできません」
「へー、そういうことね……。泥沼に手を入れたみたいに腕が重いと思ったら。あなたが速くなったんじゃなくて、私の剣があなたの『水の衣』に触れて遅くなったから、避けられたって訳ね」
女子生徒は剣を構え直し、橘の身体を覆う目に見えない水の抵抗を睨みつけた。
「はい。……距離を詰めてくるなら、私にも考えがあります。これが、私の本気です!」
橘は弓に新たな矢をつがえ、真っ直ぐに女子生徒を見据えた。
「面白いじゃない! 最高のハンデだわ。思いっきりやってあげるわよ!」
女子生徒は不利な状況を楽しむように口角を上げ、再び闘志を燃え上がらせた。
橘の凛とした声が響く。
次の瞬間、彼女の周囲の空気がわずかに震え、淡い青色の魔力がゆっくりと集まり始めた。
集束した魔力は水へと変質し、空中にいくつもの水球を生み出す。
それらはただの水ではない。極限まで圧縮され、弾丸のような密度を持った高圧の水塊だった。
空気を震わせるような鋭い音と共に、それらが一斉に射出される。
複数の水弾は鋭い軌道を描き、猛スピードで対峙する女子生徒へと襲い掛かった。
「甘いわよ」
女子生徒は鼻で笑い、迫り来る水弾の雨を物ともせず避けていく。
一歩踏み込み、身体をわずかに傾ける。
それだけで水弾は頬の横を掠め、後方の地面へ弾け飛んだ。
さらにもう一歩。
水飛沫を背後に散らしながら、一直線に橘へと駆け抜ける。
(速い……!)
弓使いである橘にとって、接近戦は最も避けたい事態だ。彼女は慌ててステップを踏み、後ろに下がって距離をとろうとする。
「……だから、甘いって言ってるのよ!」
だが、女子生徒はさらに一段階スピードを上げた。橘が後退するよりも遥かに速い速度で、一瞬にしてその懐へと潜り込む。
「まずい……!」
女子生徒は橘の目の前で鋭く踏み込み、両手に握った白銀の双剣が閃いた。
女子生徒は踏み込みと同時に、右の刃を横薙ぎに振り抜く。
「……ッ……ぁ!」
橘は咄嗟に弓の硬いフレームを盾にして防いだが、剣撃に乗せられた重い衝撃までは殺しきれない。小柄な身体が衝撃に弾かれ、地面を大きく滑った。
息をつく暇もない。女子生徒は追撃をかけるため、即座に地面を蹴って橘の落下地点へと跳躍した。上段から無慈悲な剣が振り下ろされる。
「……【アクア・ウォール】!」
橘は地面を転がりながらも必死に片手を突き出し、魔力を解放した。間一髪のところで分厚い水の壁がそびえ立ち、女子生徒の剣撃を泥沼のように受け止めて威力を殺す。
水が弾け飛ぶ隙を突き、橘は再び大きく後方へ跳んで体勢を立て直した。
(接近戦は絶対に避けなきゃ……。けど、あの人速すぎるし……どうしよう)
「よく防いだわね。さっきのは完全に決まったと思ったんだけど。意外とやるじゃない」
女子生徒は双剣を軽く構え直し、少しだけ感心したように言った。
「……ありがとうございます」
橘がペコリと頭を下げると、女子生徒はポカンとした後、呆れたように眉間を押さえた。
「……褒めたけどさ、普通、敵に礼なんか言わないわよ」
「あ、すみません」
「……わざとやってない? 調子狂うわね、ほんと」
女子生徒は深々とため息をついた。緊迫した戦闘の中にあって、橘の生真面目すぎる態度は明らかに異質だった。
「まあいいわ……。で、どうする? このまま逃げ回っても、遠距離攻撃は当たらない。あなたに勝ち目はないと思うわよ」
女子生徒は剣先を突きつけ、降参を促すように言った。
「……そんなの、まだ分かりません!」
橘は諦めることなく、再び弓を引き絞り、矢を放った。矢は空気を裂き、一直線に女子生徒の眉間へと向かっていく。
「だから、魔法も矢も当たらないって言ってるでしょ」
女子生徒は少し呆れた様子で、最小限の動きで首を傾けて矢を避けようとした。
「……!?」
だが、女子生徒が回避動作に入ったその瞬間。橘の放った一本の矢が、空中で突如として三本に分裂し、広範囲をカバーする散弾となって襲い掛かったのだ。
「……くッ!」
完全に意表を突かれた女子生徒だったが、持ち前の反射神経で即座に剣を振るい、自身の急所へ向かってきた矢だけを的確に弾き落とした。カキンッ!と鋭い音が響く。
(嘘、今の不意打ちも防がれちゃうの……? この人には、もっと根本的に動きを封じる攻撃じゃないと……)
「……へぇ、なかなかやるじゃない。まさか空中で軌道を変えるなんてね」
女子生徒は頬に薄く入った擦り傷を拭い、好戦的な笑みを浮かべた。
「でも、そろそろ遊びは終わりにするわ……。今から、本気でいくわよ」
女子生徒がそう宣言した途端、彼女の顔から笑みがスッと消え去り、周囲の空気がビリッと張り詰めた。
次の瞬間、女子生徒の姿がブレた。先ほどとは比べ物にならない、本物の踏み込み。橘は咄嗟に牽制の矢を放って足止めを試みるが、女子生徒はそれを幻影のようにすり抜け、全くスピードを落とさずに肉薄してくる。
「……まずい!」
橘は恐怖に顔を引きつらせながら、慌てて後方へと大きく跳んで回避行動をとる。
「遅いわよ」
だが、無慈悲な声が橘のすぐ耳元で響いた。女子生徒の踏み込みの方が、橘の後退速度を完全に上回っていた。視界の端で、右の刃が閃き、続けざまに左の刃が追撃する。
交差する双剣の軌跡が、銀色の残光となって橘へ迫った。
「……ッ……!」
橘の太ももを、鋭利な剣の刃が浅く、だが確実に切り裂いた。制服が裂け、鮮血が空中に舞う。遅れてやってきた焼けるような激痛に、橘の顔が歪み、そのままバランスを崩してアスファルトへ無様に転がった。
(速い……!? 今までのは、本当に本気じゃなかったの!?)
「……これで終わりね」
女子生徒は、膝をついて体勢を崩した橘を冷たく見下ろし、確実なトドメを刺すためにゆっくりと、一歩ずつ歩み寄ってくる。カツ、カツという足音が、橘の心臓を直接叩くように響いた。
(このままじゃ、絶対にやられる……。もう、あれを使うしかない……!)
橘は斬られた太ももを強く押さえ、痛みに耐えながらゆっくりと立ち上がった。その瞳には、まだはっきりとした闘志が燃えている。
「まだ動けるのね……。根性は認めるけど、これまでよ」
女子生徒は地を蹴り、橘に向かって最後の一撃を振り下ろそうとした。橘は先ほどと同じように、後方へ跳んで避けようとする。
「……だから、遅いって言ってるでしょ!」
女子生徒は橘の回避先を完全に読み切り、さらに加速して追い打ちをかけた。勝利を確信し、全体重を乗せた剣が橘を両断しようと振り下ろされる。
――が、その剣は、空を切った。
「なっ……!?」
女子生徒は驚愕に目を見開いた。
橘が、あり得ないタイミングで身体を捻り、その致命的な一撃を紙一重で見切って避けたのだ。それだけではない。振り下ろした自分の剣が、橘の身体に近づいた瞬間に粘りつくような水の抵抗を受け、急激に減速したのを感じ取っていた。
「さっきより、私の動きが……いや、あなたのスピードが上がってる……? 一体、何をしたの!」
「……属性付加――【水】」
ボォン、と重く静かな音が響き、橘の全身を揺らめく透明な水流が駆け巡った。
それは彼女の身体を薄い膜のように包み込み、周囲の空気をしっとりと重く変えていく。
「属性付加ですって!?」
「はい、そうです」
橘は弓を握り直し、しっかりと頷いた。
「水の属性付加を纏っている間、私の身体に近づくものはすべて、深い水中に沈んだようにスピードを奪われます。……私に触れることは、もうできません」
「へー、そういうことね……。泥沼に手を入れたみたいに腕が重いと思ったら。あなたが速くなったんじゃなくて、私の剣があなたの『水の衣』に触れて遅くなったから、避けられたって訳ね」
女子生徒は剣を構え直し、橘の身体を覆う目に見えない水の抵抗を睨みつけた。
「はい。……距離を詰めてくるなら、私にも考えがあります。これが、私の本気です!」
橘は弓に新たな矢をつがえ、真っ直ぐに女子生徒を見据えた。
「面白いじゃない! 最高のハンデだわ。思いっきりやってあげるわよ!」
女子生徒は不利な状況を楽しむように口角を上げ、再び闘志を燃え上がらせた。
