時間は少し遡る。隼人たちが拠点の中枢で、雨宮や水無姉妹と対峙したその瞬間――。
「……敵か……」
黒崎は近代的なビルの屋上、冷たいコンクリートの上に身を伏せていた。
風が高層ビルの谷間を抜け、屋上のフェンスをわずかに軋ませる。
人の気配はない。聞こえるのは遠くで響く戦闘の余韻だけだ。
その静寂の中で、黒崎は魔導狙撃銃『フライクーゲル』のスコープを覗き込んでいた。
「……一、二……三人か」
レンズの向こう側、隼人たちの元へ三人の影が近づくのを捉える。
このまま上から狙撃で援護するか、それとも階下へ降りて直接加勢するか。
距離、約二百メートル。風は右から弱く流れている。射線は問題ない。トリガーに指を掛けた黒崎は、静かに呼吸を整えた。
その時だった。
スコープ越しに、隼人がふと、こちら――黒崎の潜伏場所へと視線を投げた。
「……!? ……っ!」
野生的な直感。黒崎は考えるより先に、横へと身体を投げ出した。
直後、つい先程まで黒崎がいた場所を、銀色の閃光が切り裂いた。
風を裂く鋭い音と共に、ナイフが一直線に飛来する。
――キィィンッ!
乾いた金属音を響かせながら、ナイフはコンクリートへ深く突き刺さった。
「おお~、よく避けたね」
不意に響いた軽薄な声。
黒崎が身を翻して視線を向けると、屋上の縁に、一人の男子生徒が立っていた。
小柄な体躯。両手には逆手に握られたナイフ。
「まさか避けるなんてね。完全に当たったと思ったんだけど」
「…………」
黒崎は無言で立ち上がる。
(今のは危なかった。……桐宮のあの視線がなければ、今ので終わっていたな)
内心で仲間に感謝しつつ、黒崎は静かに『フライクーゲル』を構え直した。
「なに? だんまり?」
「……いや。少し考え事をしていた」
「あ、そうなんだ。だったらいいんだけどさ」
男子生徒は、子供のような無邪気な笑みを浮かべた。だが、その瞳には一切の温度がない。
「考え事って、何考えてたの?」
「……お前がどうやってここまで来たか、だ」
「ああー、それはね――」
「だいたいの予想はついた」
「……あ」
解説しようとした言葉を遮られ、男子生徒の顔が少しだけ不機嫌そうに歪んだ。
「……お前ら四人の内の誰かが、魔力探知を得意としている。それを利用して、俺の潜伏場所を特定し、ここまで最短距離で来た。……そうだろう?」
「……ふーん。よく分かったね」
「やはりそうか」
「ま、その魔力探知をしたのは『僕』なんだけどね~」
男子生徒は自慢げにナイフを指先で回した。
「……そうか。なら、お前を倒せば、他に魔力探知ができる奴はいないという訳だな」
「……んー、まあ、そうなるかな。僕より魔力探知が優れている奴は、うちのクラスにはいないしね」
「……そうか」
黒崎の淡々とした返事に、男子生徒は面白そうに肩を揺らした。
「なに? 僕に勝つ気でいるの?」
「……そうだが。何か問題でもあるのか?」
「問題っていうか……正直、相性最悪でしょ?」
男子生徒は、黒崎が抱えている長大な『フライクーゲル』を指差した。
「どう見ても、この距離じゃその『スナイパーライフル』は使えないよね~。それに比べて、僕の武器はナイフ。……詰んでると思わない?」
「……特に問題はない」
狭い屋上において、一メートルを超える銃身はあまりに無骨で、取り回しは最悪と言っていい。肉薄されれば、狙撃銃はただの「重い鉄の棒」に成り下がる。だが、黒崎の瞳には微塵の揺らぎもなかった。
「……君って自信家? それとも、本当に接近戦も強いとか?」
「どうだろうな。……ただ、こういう場合も想定して、訓練はしている」
黒崎の言葉に、男子生徒の瞳に初めて「戦士」としての鋭い光が宿った。
「……さっきの言葉は、取り消すよ。どれくらい強いか、楽しみだ!」
弾かれたように、男子生徒がアスファルトを蹴った。
最短距離、最短時間。魔力の流れを見通す瞳は、黒崎の死角を正確に射抜いている。肉薄するナイフの閃光――。
黒崎は、巨大な銃身を盾にするのではなく、むしろ「鈍器」として振り抜くような予備動作で、その迎撃の態勢に入った。
「……敵か……」
黒崎は近代的なビルの屋上、冷たいコンクリートの上に身を伏せていた。
風が高層ビルの谷間を抜け、屋上のフェンスをわずかに軋ませる。
人の気配はない。聞こえるのは遠くで響く戦闘の余韻だけだ。
その静寂の中で、黒崎は魔導狙撃銃『フライクーゲル』のスコープを覗き込んでいた。
「……一、二……三人か」
レンズの向こう側、隼人たちの元へ三人の影が近づくのを捉える。
このまま上から狙撃で援護するか、それとも階下へ降りて直接加勢するか。
距離、約二百メートル。風は右から弱く流れている。射線は問題ない。トリガーに指を掛けた黒崎は、静かに呼吸を整えた。
その時だった。
スコープ越しに、隼人がふと、こちら――黒崎の潜伏場所へと視線を投げた。
「……!? ……っ!」
野生的な直感。黒崎は考えるより先に、横へと身体を投げ出した。
直後、つい先程まで黒崎がいた場所を、銀色の閃光が切り裂いた。
風を裂く鋭い音と共に、ナイフが一直線に飛来する。
――キィィンッ!
乾いた金属音を響かせながら、ナイフはコンクリートへ深く突き刺さった。
「おお~、よく避けたね」
不意に響いた軽薄な声。
黒崎が身を翻して視線を向けると、屋上の縁に、一人の男子生徒が立っていた。
小柄な体躯。両手には逆手に握られたナイフ。
「まさか避けるなんてね。完全に当たったと思ったんだけど」
「…………」
黒崎は無言で立ち上がる。
(今のは危なかった。……桐宮のあの視線がなければ、今ので終わっていたな)
内心で仲間に感謝しつつ、黒崎は静かに『フライクーゲル』を構え直した。
「なに? だんまり?」
「……いや。少し考え事をしていた」
「あ、そうなんだ。だったらいいんだけどさ」
男子生徒は、子供のような無邪気な笑みを浮かべた。だが、その瞳には一切の温度がない。
「考え事って、何考えてたの?」
「……お前がどうやってここまで来たか、だ」
「ああー、それはね――」
「だいたいの予想はついた」
「……あ」
解説しようとした言葉を遮られ、男子生徒の顔が少しだけ不機嫌そうに歪んだ。
「……お前ら四人の内の誰かが、魔力探知を得意としている。それを利用して、俺の潜伏場所を特定し、ここまで最短距離で来た。……そうだろう?」
「……ふーん。よく分かったね」
「やはりそうか」
「ま、その魔力探知をしたのは『僕』なんだけどね~」
男子生徒は自慢げにナイフを指先で回した。
「……そうか。なら、お前を倒せば、他に魔力探知ができる奴はいないという訳だな」
「……んー、まあ、そうなるかな。僕より魔力探知が優れている奴は、うちのクラスにはいないしね」
「……そうか」
黒崎の淡々とした返事に、男子生徒は面白そうに肩を揺らした。
「なに? 僕に勝つ気でいるの?」
「……そうだが。何か問題でもあるのか?」
「問題っていうか……正直、相性最悪でしょ?」
男子生徒は、黒崎が抱えている長大な『フライクーゲル』を指差した。
「どう見ても、この距離じゃその『スナイパーライフル』は使えないよね~。それに比べて、僕の武器はナイフ。……詰んでると思わない?」
「……特に問題はない」
狭い屋上において、一メートルを超える銃身はあまりに無骨で、取り回しは最悪と言っていい。肉薄されれば、狙撃銃はただの「重い鉄の棒」に成り下がる。だが、黒崎の瞳には微塵の揺らぎもなかった。
「……君って自信家? それとも、本当に接近戦も強いとか?」
「どうだろうな。……ただ、こういう場合も想定して、訓練はしている」
黒崎の言葉に、男子生徒の瞳に初めて「戦士」としての鋭い光が宿った。
「……さっきの言葉は、取り消すよ。どれくらい強いか、楽しみだ!」
弾かれたように、男子生徒がアスファルトを蹴った。
最短距離、最短時間。魔力の流れを見通す瞳は、黒崎の死角を正確に射抜いている。肉薄するナイフの閃光――。
黒崎は、巨大な銃身を盾にするのではなく、むしろ「鈍器」として振り抜くような予備動作で、その迎撃の態勢に入った。
