魔力の少ない魔法使い

「……さて。随分と歩き回ったつもりなのですが」
 ルイは一人、静まり返ったビル群を歩いていた。
 他のメンバーが各地で激戦を繰り広げているであろう喧騒は、遠くで響く微かな振動として伝わってくるのみ。彼の周囲には、ただ崩れたコンクリートの破片が転がっているだけだ。
「敵に会いませんね。……もしかして、私、避けられているのでしょうか?」
 ルイは首を傾げ、周囲をのんびりと見渡す。
 この辺りにいないとなると、敵の主力は他のメンバーの元へ集まっているのか、あるいはどこかに潜んで機を伺っているのか。
「このまま散歩して終わるというのも、それはそれで魅力的なのですが……。流石に後で皆さんに何を言われるか分かりませんからね。困りました」
 ルイは「やれやれ」と肩をすくめると、少しだけ考え込むような仕草を見せた。
「……もう少し、真面目に探してみますか」
 それから数分間、ルイはくまなく辺りを探し回ったが、やはり人っ子一人見当たらない。
「……本当にいないですね。参りました。……仕方ありません、あまり使いたくはないのですが……少しだけ、ズルをしましょうか」
 ルイはその場に立ち止まると、ゆっくりと目を閉じた。
 深い呼吸と共に、彼を中心に不可視の波動が広がっていく。
「…………」
 ルイが行っているのは「魔力探知」。
 自身の魔力をレーダーのように細く鋭く放射し、反射してくる他者の魔力の残滓を読み取る高等技術だ。ルイはまるであくびでもするかのような自然さで実行していた。
「……おや。ここから一番近い反応は……あそこのようですね」
 ルイが目を開け、視線を向けた先。
 そこには、周囲のどのビルよりも高く、天を突くようにそびえ立つ超高層ビルがあった。
「……一番上にいますか。リーダー……あるいは、それなりの実力者でしょうね。あんな見晴らしの良い場所を陣取るとは、随分と自信家なことで」
 ルイはビルの屋上を見上げ、再び深い、深い溜息をついた。
「……それにしても、あんな高さまで行かなければならないとは。嫌ですねぇ、実に嫌です。エレベーター、動いていないのでしょう?」
 彼は自分の脚を見つめ、うんざりしたように呟く。
「……皆さんの魔力を辿る限り、今のところ危なそうな様子はありませんし。私は私のペースで行かせてもらいましょうか」
 ルイは急ぐ素振りも見せず、重い腰を上げるようにしてビルのエントランスへ向かった。
 そして、非常階段の扉をゆっくりと開ける。
「……一歩ずつ、着実に。それが一番の近道ですから」
 激闘の予感が漂うビルの頂上を目指し、ルイは一段一段、まるで午後の散歩でも楽しむかのように階段をのぼり始めた。