グラ目掛け、無数のメスが一斉に飛んでいく。グラは向かってくるメスを全て弾き飛ばしながら、茜との距離を強引に縮めていく。
しかし、茜は一切動じることなく次の行動に移っていた。両手を広げ、指先に何本ものメスを挟んで凛と構える。グラが茜の目前に迫り、渾身の拳を振り下ろした。
――ガァンッ!
だが、振り下ろされた拳は空を切り、床へと深く突き刺さる。グラは驚愕して即座に振り返った。
そこには既にメスを構えた茜の姿があった。茜は、振り下ろされたグラの腕を流れるような動作で斬りつける。
「くっ……!」
グラは痛みに耐えながらもう片方の手で茜を捕まえようとするが、それも虚しく空を切るだけだった。
グラは何度も茜を捉えようと試みるが、ことごとく空を叩くばかりである。
「そう簡単には捕まらんよ」
茜はそんなグラを見て小さく笑う。完全に翻弄されるグラ。
グラは必死に攻撃を仕掛けるも全く当たらず、それどころか容赦ないカウンターを喰らう始末だった。
それでもグラは諦めず、ひたすらに襲いかかる。その様子に、茜は再び楽しげな笑みを浮かべた。
グラは渾身の力を込め、茜に重い蹴りを放つ。茜はそれを避けずに真っ正面から受け止めた。グラは足を抑えられた瞬間、危険を察知して即座に飛び退き距離を取る。
グラは自分の足を見つめた。先程受け止められた際、メスで深く切られた足から血が流れていた。
「あっぶねぇ~! もうちょっと遅かったらどうなってたか分かんねぇぞ……。それにしてもあいつはなんなんだ? あんな化け物みたいな奴がいるなんて聞いてねぇけどな~」
グラは焦りを覚えつつも、それを表に出さず不敵に笑ってみせる。
グラは茜の方に目をやる。茜は余裕の表情を浮かべたまま、グラの様子を伺っていた。
「……化け物とは女性に対して失礼だな。見た目で言うなら貴様の方こそ余程化け物なのだが……まあいい、お次はどうする?」
茜が愉快そうに問うと、グラは考える素振りを見せた。
そして何かを思いついたのか、単純明快な行動に出る。
「接近戦は厳しそうだし、こっちで勝負だな!」
グラは右手を前に突き出した。
「【インフェルノ・フレイム】!」
グラの手から炎の柱が立ち昇り、急速に膨れ上がって直径3メートルほどの巨大な火球となる。そのまま火球を茜に向けて放つと、大きな音を立てて爆破を巻き起こし、周囲一帯が濃い煙に包まれた。
――だが、煙の中から姿を現したのは、傷一つない茜だった。
「そりゃあ、これで終わる訳ねぇよな~!」
グラはすぐさま次の魔法を発動し、今度は左手を茜へ向ける。
周囲に猛烈な風が集まり、大きな渦を巻き始めた。
「【暴風龍の息吹】!」
空気が一気に圧縮され、突風となって吹き荒れる。その勢いに、茜と思わず腕で顔を覆った。風は巨大な竜巻と化し、天高く舞い上がりながら茜を飲み込もうとする。
グラはその結果を見届けることもなく、間髪入れずに次の魔法を唱え始めた。
両手を地面へ叩きつけ、莫大な魔力を流し込む。すると地面が激しく隆起し始めた。
その光景を見た茜は、眉間にシワを寄せる。
(これはマズイな。このままでは押し潰されるか)
茜は急いで足元の土を操り、ドーム状の壁を作って防ごうとした。しかし、グラの作り出した巨大で鋭利な岩の塊がドームを突き破り、そのまま茜を押し潰した。
惨状を見届け、笑みを深めるグラ。だがその時、背後から静かな声が響いた。
「おい、何をしているんだ」
「――え!?」
驚いて振り返ろうとするグラだったが、それよりも早く、茜の凄まじい拳が顔面にめり込んだ。
グラは地面を激しく転がりながらも、素早く立ち上がる。
「ぐっ……どうやって……!?」
「ただ移動しただけだ。あの壁はお前の視界を遮るためのものだよ」
茜は感心したように言葉を続ける。
「しかし驚いたな。魔法の腕は一流じゃないか。正直、今のは私でも少し焦ったぞ」
「チッ……このままやっても無理そうだな~。仕方ねぇ、本気でやるか……【大罪魔法:暴食ノ魔王】!」
グラが唱えた瞬間、体内から膨大な魔力が吹き出し、渦を巻いて彼を包み込んだ。
「……ほう」
茜が興味深そうに見つめる中、グラは地面を蹴り爆発的な速度で肉薄する。
「オラァ!!」
全力を込めた一撃。しかし、その拳はまたしても空を切った。
「どうやらスピードは上がったようだな。だが、それだけだ」
グラの背後に立つ茜。グラは振り返りざまに裏拳を放つが、それも容易くかわされる。
何度も何度も必死に攻撃を繰り出すグラ。だが全て空を切り、逆に鋭いカウンターを食らい続ける。
「そろそろ終わりにするぞ」
茜がゆっくりと歩み寄る。――だが次の瞬間、茜は突如としてその場に膝をついた。
「……む、これは……」
「へへっ、油断してたろ?」
グラは勝ち誇った顔で茜を見下ろす。
「俺のさっきの魔法は、アンタの魔力を喰らう魔法さ……このブレスレットと違って、触れなくても喰うことができるんだよ!」
ニヤリと歪んだ笑みを浮かべるグラ。
「どうだ? もう動けねぇだろ?」
身動きの取れない茜の側まで歩み寄り、トドメを刺そうと手を振り上げたその時――グラは動きを止めた。
見下ろした茜の顔に、楽しそうな不敵な笑みが浮かんでいたからだ。まるで、この窮地そのものを心から歓喜しているかのような笑み。
気味が悪くなり、思わず一歩後ろに下がるグラ。すると茜はフラフラと立ち上がり、静かに呟いた。
「面白い、実に良い。久しぶりに楽しめそうだ」
そう言うと、茜は躊躇なく自身の肩へメスを深く突き刺した。
グラは驚愕して目を剥く。
茜は突き刺したメスを引き抜き、傷口に手をかざした。すると、みるみるうちに傷が塞がっていく。
グラには理解できなかった。魔法で魔力を喰らい、弱らせて有利になったはずなのだ。
にもかかわらず、目の前の女は何事もなかったかのようにピンピンしている。それどころか狂喜すら感じさせた。
(何なんだこいつは……!?)
得体の知れない恐怖に困惑し、距離を取ろうとするグラ。だが、茜の追撃の方が遥かに早かった。
茜が繰り出すメスの刺突を、グラは間一髪で避ける。しかし攻撃は止まらない。畳みかける連続攻撃に、グラは完全に防戦一方へと追い込まれた。
一旦離れようとするグラに、茜は無数のメスを投擲する。必死で回避するグラだったが、避けきれなかった数本が腕や脚を鋭く掠めた。
「――ッ! どうなってんだよ! アンタ、なんで動けるんだ!?」
「なに、貴様の魔法と似たようなものだよ。私の武具〈ラミアティオ〉の能力は主に2つ……1つは複製すること。これは貴様にも分かるだろう?」
茜は周囲に無数のメスを複製・浮遊させながら答える。
「そしてもう1つ……血を吸い、魔力に変換すること」
茜はニヤリと笑みを深めた。
「これは他人の血に限らない。己の血でも代用できるのだよ」
「まさか……!」
グラはハッと顔色を変える。
「そうだ、私が自分で肩にメスを突き刺したのはそういうことだ。減った分は治癒魔法で塞げばいい。治癒魔法で使う魔力より、血から変換される魔力の方が大きいからな……まあ、流石に血を失いすぎると死ぬが」
くくっと笑う茜。その狂気的な凄惨さに、グラは唖然とした。
(なんて奴だ……!)
心の中で悪態をつくグラに、茜の猛攻は容赦なく続く。
「さて、貴様が私の魔力を喰らうのと、私が貴様の血を吸うの、どちらが早いかな?」
慌てて回避するグラ。茜は次々とメスを投げつける。グラはなんとか距離を取ろうと必死に逃れ、十分な離れをとったところで強力な魔法を唱えようとした。
だが、それよりも早く茜が動く。
グラの背後から姿を現した茜。驚いて振り抜いたグラの裏拳は空を切り、正面へ回り込んだ茜の蹴りがグラの腹を激しく打ち抜いた。
吹き飛ばされ、壁に激突するグラ。休む暇を与えず迫る茜に対し、グラは立ち上がって必死に迎え撃つが、連打を防ぐので精一杯だった。
だが、グラにも意地がある。茜の腕を強引に掴むと、力任せに背負い投げを放つ。茜は空中で体勢を整えて着地するが、そこへグラが猛突進した。
茜の首を掴んでそのまま押し倒し、馬乗りになって首を締める手に全身の力を込めた。
――しかし次の瞬間、グラの身体が大きく傾く。
茜が下から足を払い除けたのだ。尻餅をつくグラ。
茜は激しく咳き込みながら立ち上がると、グラへ向けて手を掲げた。
グラが咄嗟に立ち上がろうとするが、遅かった。彼の周囲には既に恐ろしい数のメスが出現していたのだ。
一斉に襲いかかるメスの雨。かわしきれず、グラの全身に無数のメスが深々と刺さった。
「ハァ、ハァ……クソッ……!」
「どうやら、私が血を吸う方が早かったようだな……いや、それ以前に貴様自体の限界か。いくら魔力を喰らおうとも、肉体が限界を迎えれば意味はないからな」
崩れ落ち、悔しそうに顔を歪めるグラ。
「まだだ……ッ!」
グラは叫ぶと背の羽を広げ、上空へ飛び立った。
「我、汝に願う。我、欲するは闇。深淵より来る常闇――」
グラの前に漆黒の球体が現れる。
「ほう、最後の足掻きか。面白い……我、光を欲するものなり。天に輝く星々よ、今こそ我が元へ集いて――」
茜の前にも目眩く光が集束していく。
「我が前に立ち塞がりし愚者に絶望を与えん――【常闇の黒絶】!!」
「神の加護を以て、我を阻む者を穿て――【ステラ・ラディウス】!!」
ふたつの極大魔法が衝突し、辺りは激しい爆風とショックウェーブに包まれた。
「ハァ……ハァ……ひとまず、ここから離れて……」
「離れて?」
グラの上空から茜の声が降ってくる。見上げると、そこには既に茜が滞空していた。
咄嗟に魔法を放とうとするグラだったが、間に合わない。茜の強烈な右拳が、グラの顔面に真っ直ぐ突き刺さった。
――ズドンッ!!
グラは凄まじい勢いで叩きつけられ、地面に巨大なクレーターが生まれる。
茜はゆっくりと着地し、倒れたグラへと歩み寄った。
「ふむ、気絶してしまったか……消えていないところを見ると、このブレスレットは魔道具だな。とりあえず回収して拘束するとしよう」
グラが着けているブレスレットを外し、魔法陣から鎖を呼び出して全身を縛り上げる茜。
「さて、起こすか」
茜がグラの頬をペチペチと叩くと、グラは呻きながら目を覚ました。
「うっ……俺は、負けたのか……」
「そうだ。でお前には聞きたいことがある」
「俺が言うとでも思ってんのか……?」
グラは鋭く茜を睨みつける。
「なに、言うようにすれば良いだけの話だ」
茜は冷ややかな笑みを浮かべ、メスをジャキッと見せつけた。
「な、なにを……」
「楽しい楽しい時間の始まりだ」
茜が満面の笑みを浮かべると、グラの顔は絶望と恐怖に染まっていった。
しかし、茜は一切動じることなく次の行動に移っていた。両手を広げ、指先に何本ものメスを挟んで凛と構える。グラが茜の目前に迫り、渾身の拳を振り下ろした。
――ガァンッ!
だが、振り下ろされた拳は空を切り、床へと深く突き刺さる。グラは驚愕して即座に振り返った。
そこには既にメスを構えた茜の姿があった。茜は、振り下ろされたグラの腕を流れるような動作で斬りつける。
「くっ……!」
グラは痛みに耐えながらもう片方の手で茜を捕まえようとするが、それも虚しく空を切るだけだった。
グラは何度も茜を捉えようと試みるが、ことごとく空を叩くばかりである。
「そう簡単には捕まらんよ」
茜はそんなグラを見て小さく笑う。完全に翻弄されるグラ。
グラは必死に攻撃を仕掛けるも全く当たらず、それどころか容赦ないカウンターを喰らう始末だった。
それでもグラは諦めず、ひたすらに襲いかかる。その様子に、茜は再び楽しげな笑みを浮かべた。
グラは渾身の力を込め、茜に重い蹴りを放つ。茜はそれを避けずに真っ正面から受け止めた。グラは足を抑えられた瞬間、危険を察知して即座に飛び退き距離を取る。
グラは自分の足を見つめた。先程受け止められた際、メスで深く切られた足から血が流れていた。
「あっぶねぇ~! もうちょっと遅かったらどうなってたか分かんねぇぞ……。それにしてもあいつはなんなんだ? あんな化け物みたいな奴がいるなんて聞いてねぇけどな~」
グラは焦りを覚えつつも、それを表に出さず不敵に笑ってみせる。
グラは茜の方に目をやる。茜は余裕の表情を浮かべたまま、グラの様子を伺っていた。
「……化け物とは女性に対して失礼だな。見た目で言うなら貴様の方こそ余程化け物なのだが……まあいい、お次はどうする?」
茜が愉快そうに問うと、グラは考える素振りを見せた。
そして何かを思いついたのか、単純明快な行動に出る。
「接近戦は厳しそうだし、こっちで勝負だな!」
グラは右手を前に突き出した。
「【インフェルノ・フレイム】!」
グラの手から炎の柱が立ち昇り、急速に膨れ上がって直径3メートルほどの巨大な火球となる。そのまま火球を茜に向けて放つと、大きな音を立てて爆破を巻き起こし、周囲一帯が濃い煙に包まれた。
――だが、煙の中から姿を現したのは、傷一つない茜だった。
「そりゃあ、これで終わる訳ねぇよな~!」
グラはすぐさま次の魔法を発動し、今度は左手を茜へ向ける。
周囲に猛烈な風が集まり、大きな渦を巻き始めた。
「【暴風龍の息吹】!」
空気が一気に圧縮され、突風となって吹き荒れる。その勢いに、茜と思わず腕で顔を覆った。風は巨大な竜巻と化し、天高く舞い上がりながら茜を飲み込もうとする。
グラはその結果を見届けることもなく、間髪入れずに次の魔法を唱え始めた。
両手を地面へ叩きつけ、莫大な魔力を流し込む。すると地面が激しく隆起し始めた。
その光景を見た茜は、眉間にシワを寄せる。
(これはマズイな。このままでは押し潰されるか)
茜は急いで足元の土を操り、ドーム状の壁を作って防ごうとした。しかし、グラの作り出した巨大で鋭利な岩の塊がドームを突き破り、そのまま茜を押し潰した。
惨状を見届け、笑みを深めるグラ。だがその時、背後から静かな声が響いた。
「おい、何をしているんだ」
「――え!?」
驚いて振り返ろうとするグラだったが、それよりも早く、茜の凄まじい拳が顔面にめり込んだ。
グラは地面を激しく転がりながらも、素早く立ち上がる。
「ぐっ……どうやって……!?」
「ただ移動しただけだ。あの壁はお前の視界を遮るためのものだよ」
茜は感心したように言葉を続ける。
「しかし驚いたな。魔法の腕は一流じゃないか。正直、今のは私でも少し焦ったぞ」
「チッ……このままやっても無理そうだな~。仕方ねぇ、本気でやるか……【大罪魔法:暴食ノ魔王】!」
グラが唱えた瞬間、体内から膨大な魔力が吹き出し、渦を巻いて彼を包み込んだ。
「……ほう」
茜が興味深そうに見つめる中、グラは地面を蹴り爆発的な速度で肉薄する。
「オラァ!!」
全力を込めた一撃。しかし、その拳はまたしても空を切った。
「どうやらスピードは上がったようだな。だが、それだけだ」
グラの背後に立つ茜。グラは振り返りざまに裏拳を放つが、それも容易くかわされる。
何度も何度も必死に攻撃を繰り出すグラ。だが全て空を切り、逆に鋭いカウンターを食らい続ける。
「そろそろ終わりにするぞ」
茜がゆっくりと歩み寄る。――だが次の瞬間、茜は突如としてその場に膝をついた。
「……む、これは……」
「へへっ、油断してたろ?」
グラは勝ち誇った顔で茜を見下ろす。
「俺のさっきの魔法は、アンタの魔力を喰らう魔法さ……このブレスレットと違って、触れなくても喰うことができるんだよ!」
ニヤリと歪んだ笑みを浮かべるグラ。
「どうだ? もう動けねぇだろ?」
身動きの取れない茜の側まで歩み寄り、トドメを刺そうと手を振り上げたその時――グラは動きを止めた。
見下ろした茜の顔に、楽しそうな不敵な笑みが浮かんでいたからだ。まるで、この窮地そのものを心から歓喜しているかのような笑み。
気味が悪くなり、思わず一歩後ろに下がるグラ。すると茜はフラフラと立ち上がり、静かに呟いた。
「面白い、実に良い。久しぶりに楽しめそうだ」
そう言うと、茜は躊躇なく自身の肩へメスを深く突き刺した。
グラは驚愕して目を剥く。
茜は突き刺したメスを引き抜き、傷口に手をかざした。すると、みるみるうちに傷が塞がっていく。
グラには理解できなかった。魔法で魔力を喰らい、弱らせて有利になったはずなのだ。
にもかかわらず、目の前の女は何事もなかったかのようにピンピンしている。それどころか狂喜すら感じさせた。
(何なんだこいつは……!?)
得体の知れない恐怖に困惑し、距離を取ろうとするグラ。だが、茜の追撃の方が遥かに早かった。
茜が繰り出すメスの刺突を、グラは間一髪で避ける。しかし攻撃は止まらない。畳みかける連続攻撃に、グラは完全に防戦一方へと追い込まれた。
一旦離れようとするグラに、茜は無数のメスを投擲する。必死で回避するグラだったが、避けきれなかった数本が腕や脚を鋭く掠めた。
「――ッ! どうなってんだよ! アンタ、なんで動けるんだ!?」
「なに、貴様の魔法と似たようなものだよ。私の武具〈ラミアティオ〉の能力は主に2つ……1つは複製すること。これは貴様にも分かるだろう?」
茜は周囲に無数のメスを複製・浮遊させながら答える。
「そしてもう1つ……血を吸い、魔力に変換すること」
茜はニヤリと笑みを深めた。
「これは他人の血に限らない。己の血でも代用できるのだよ」
「まさか……!」
グラはハッと顔色を変える。
「そうだ、私が自分で肩にメスを突き刺したのはそういうことだ。減った分は治癒魔法で塞げばいい。治癒魔法で使う魔力より、血から変換される魔力の方が大きいからな……まあ、流石に血を失いすぎると死ぬが」
くくっと笑う茜。その狂気的な凄惨さに、グラは唖然とした。
(なんて奴だ……!)
心の中で悪態をつくグラに、茜の猛攻は容赦なく続く。
「さて、貴様が私の魔力を喰らうのと、私が貴様の血を吸うの、どちらが早いかな?」
慌てて回避するグラ。茜は次々とメスを投げつける。グラはなんとか距離を取ろうと必死に逃れ、十分な離れをとったところで強力な魔法を唱えようとした。
だが、それよりも早く茜が動く。
グラの背後から姿を現した茜。驚いて振り抜いたグラの裏拳は空を切り、正面へ回り込んだ茜の蹴りがグラの腹を激しく打ち抜いた。
吹き飛ばされ、壁に激突するグラ。休む暇を与えず迫る茜に対し、グラは立ち上がって必死に迎え撃つが、連打を防ぐので精一杯だった。
だが、グラにも意地がある。茜の腕を強引に掴むと、力任せに背負い投げを放つ。茜は空中で体勢を整えて着地するが、そこへグラが猛突進した。
茜の首を掴んでそのまま押し倒し、馬乗りになって首を締める手に全身の力を込めた。
――しかし次の瞬間、グラの身体が大きく傾く。
茜が下から足を払い除けたのだ。尻餅をつくグラ。
茜は激しく咳き込みながら立ち上がると、グラへ向けて手を掲げた。
グラが咄嗟に立ち上がろうとするが、遅かった。彼の周囲には既に恐ろしい数のメスが出現していたのだ。
一斉に襲いかかるメスの雨。かわしきれず、グラの全身に無数のメスが深々と刺さった。
「ハァ、ハァ……クソッ……!」
「どうやら、私が血を吸う方が早かったようだな……いや、それ以前に貴様自体の限界か。いくら魔力を喰らおうとも、肉体が限界を迎えれば意味はないからな」
崩れ落ち、悔しそうに顔を歪めるグラ。
「まだだ……ッ!」
グラは叫ぶと背の羽を広げ、上空へ飛び立った。
「我、汝に願う。我、欲するは闇。深淵より来る常闇――」
グラの前に漆黒の球体が現れる。
「ほう、最後の足掻きか。面白い……我、光を欲するものなり。天に輝く星々よ、今こそ我が元へ集いて――」
茜の前にも目眩く光が集束していく。
「我が前に立ち塞がりし愚者に絶望を与えん――【常闇の黒絶】!!」
「神の加護を以て、我を阻む者を穿て――【ステラ・ラディウス】!!」
ふたつの極大魔法が衝突し、辺りは激しい爆風とショックウェーブに包まれた。
「ハァ……ハァ……ひとまず、ここから離れて……」
「離れて?」
グラの上空から茜の声が降ってくる。見上げると、そこには既に茜が滞空していた。
咄嗟に魔法を放とうとするグラだったが、間に合わない。茜の強烈な右拳が、グラの顔面に真っ直ぐ突き刺さった。
――ズドンッ!!
グラは凄まじい勢いで叩きつけられ、地面に巨大なクレーターが生まれる。
茜はゆっくりと着地し、倒れたグラへと歩み寄った。
「ふむ、気絶してしまったか……消えていないところを見ると、このブレスレットは魔道具だな。とりあえず回収して拘束するとしよう」
グラが着けているブレスレットを外し、魔法陣から鎖を呼び出して全身を縛り上げる茜。
「さて、起こすか」
茜がグラの頬をペチペチと叩くと、グラは呻きながら目を覚ました。
「うっ……俺は、負けたのか……」
「そうだ。でお前には聞きたいことがある」
「俺が言うとでも思ってんのか……?」
グラは鋭く茜を睨みつける。
「なに、言うようにすれば良いだけの話だ」
茜は冷ややかな笑みを浮かべ、メスをジャキッと見せつけた。
「な、なにを……」
「楽しい楽しい時間の始まりだ」
茜が満面の笑みを浮かべると、グラの顔は絶望と恐怖に染まっていった。
