7月の下旬、一部の赤点組を除いた僕らは無事に夏休みを迎え、それぞれに過ごしていた。
学校では一緒にいるものの、特に集まって遊ぶということもなく時々連絡をとるだけで、いつもの学校生活の賑やかさが嘘のような穏やかな日々を送っている。
ちなみに、逢坂くんに勉強会しようと言った割にはそれも実現できていない。
のんびりと映画やアニメを見たり、やりかけのゲームをするのもいいけれど、正直、高二の夏を満喫できていない感があった。
このままじゃ夏休みもいつの間にか暑さで溶けて終わってしまいそうだ。
「うーん。誰か誘って遊びに行こうかな」
一人呟いて、スマホを手に取る。
誠士は確か家族で一ヶ月ドバイに行くと言っていた。結菜は楽しく補習だろう。
いくら一緒に昼食を取るようになったとは言え、神崎くんや杉村さんを誘うのは気が引ける。杉村さんはそもそも補習か。
消去法のフリをして逢坂くんの名前を最後に出すのは、我ながらずるいなと思う。
でも、なんて誘ったらいいだろうか?
図書館で勉強会をしようとか?
課題は片付くかもしれないけど、ちょっと味気ない気がする。
僕がぐるぐる悩んでいると手の中のスマホが小さな音を立てて震えた。
メッセージを受け取ったようだ。
誰からだろう?
アプリを開いて確認する。
『おはようございます。バイト先で映画の鑑賞券を2枚貰ったので、もしよかったら一緒に行きませんか?』
「え、うそ」
あまりのタイミングの良さに思わず声が出る。
逢坂くんからだ。
アイコンがこの前一緒に撮った写真に変わっているのに気がついた。
自然と口元が緩むのを感じた。
さて、なんて返そう?
画面を開いたまま、しばらく指が止まる。僕は悩んだ末に、結局思ったままを文字にした。
『映画? 行きたい! いつにする?』
意味が伝わればいいや! と思って送った文章は、妙にテンションの高いものになってしまった。
これじゃあまるで僕が逢坂くんを好きみたいだ。
そんなふうに思ったタイミングでまたすぐに返信が来て、心臓が跳ね上がるのを感じる。
『浅井先輩と映画、楽しみです! 明日って空いてますか?』
『大丈夫だよ!』
もう深く考えないでメッセージを送ってしまおう。その方が自然な感じの文面になるだろう。
『じゃあ映画が11時からなんで駅の改札前に10時に待ち合わせでどうでしょう?』
『了解! 楽しみにしてるね!』
僕は続けて犬のスタンプを送った。
なんとなく逢坂くんを思い出すキャラクターだ。
間をおかずに返ってきたスタンプも犬のキャラクターで、思わず笑ってしまった。
明日、何を着て行こう?
そういえばどんな映画を観るのか聞くのを忘れてしまった。
色々と明日のことを考えているだけで、僕は嬉しくて楽しかった。
昨日は楽しみで寝付けなくて、少し寝坊してしまった。遅刻するほどではないけれど、僕は焦って小走りに駅へ急いだ。
夏休み中とはいえ、平日の昼間ということもありそれほど混んでおらず、なんとか時間に間に合いそうだ。
駅に着いて改札の辺りを見る。
いた。逢坂くんだ。
遠目にも、長身な逢坂くんのスタイルの良さが際立って見えた。
「逢坂くん、ごめん! 寝坊しちゃって遅れちゃったかも。待たせたよね?」
「浅井先輩、10時ピッタリ! さすがです!」
「さすがってそんな……、たまたまだよ。待たせてない?」
「大丈夫です! それに浅井先輩に会えるなら、俺は何時間でも何日でも待てます!」
「そんな無茶言わないの」
「はい」
「ところで逢坂くん、すごくお洒落だね」
逢坂くんは白いTシャツに涼しげなブルーのシャツを羽織り、ゆったりとしたデニムパンツを合わせている。
爽やかですごく似合っていた。
「……! ありがとうございます! 浅井先輩も……え? ……あ……、その……」
僕を上から下まで見た後、逢坂くんは固まってしまった。そして目が泳いでいる。
そう、そうだよね。
誠士にも結菜にも、なんなら妹にも言われるから、わかっている。
僕はダサい。
そもそもそんな服を見つけてくることが才能だと褒められるレベルだ。
「そんなに気を使わなくていいよ。ダサいのはわかってるから大丈夫だよ」
「い、いえ。浅井先輩はなんでも着こなせて凄いです! 他の人だったらこうはいきません!」
「それはもしかして他の人なら目を覆うレベルってこと?」
「……いや、それは……」
「今日の服も自分では気に入ってるんだけど、白いパンツと合わせて着たら、結菜にネギって言われちゃってさ」
「……ネ……ギ?」
「あはは。そんなに困らないでよ。あ、ねえ、もしよかったら服、一緒に選んでくれない? どうしたらカッコよくなるのかとか教えてよ」
「……! いいんですか?」
「あはは。逢坂くん、変なの。いいに決まってるじゃん。僕が頼んでるんだもん」
「はい! じゃあ映画の後、服を見に行きましょう!」
「うん。よろしく」
映画も楽しみだったけれど、逢坂くんと一緒に服を見るというのも、なんだか楽しみになってきた。
僕は逢坂くん側に持っていたバッグを反対側に持ち直して、映画館に向かって歩き始めた。
映画館に着いて、鑑賞券で席を指定する。
様々なポスターが掲示されている中で、一際目を引くゴージャスなものが今回鑑賞する『背徳のマスカレード』だった。
「なんだか煌びやかな映画だね」
もらった鑑賞券で観るのだから文句はないが、どんな話か想像がつかない。
マスカレードというからには、仮面舞踏会が開かれるんだろうけど……、でも比喩の可能性もあるのかな?
僕がどんな映画なのかと考えていると、逢坂くんがポスターを見ながら呟いた。
「……なるほど」
「何がなるほどなの?」
「いや、今回この鑑賞券をもらった理由が、最近始めたバイトの雰囲気や身のこなしを覚える参考になるからってことで」
「はい?」
「確かにこのポスターがバイト先とぱっと見、雰囲気が似ているなと思いまして」
「ちょっと待って? そこ、高校生がバイトしていいお店?」
「ああ、大丈夫ですよ。……どう表現したらいいのかな……。なんか芝居がかったカフェ? 俺はホールの仕事をするんですが、その接客態度も優雅にするようにとのことでして」
「え? 本当に大丈夫?」
「ふふ。浅井先輩は心配性ですね。あ、少し恥ずかしいけど、もしよかったらお店に遊びにきてください」
「うん。気になるし、みんなで行こうかな」
「みんなで、なんですね」
「僕一人でもいいけど、なんか怖いから」
「怖いって、もう浅井先輩、ひどいです」
「ごめんごめん。ねえ、ところで何かフード買う?」
「そうですね! 何か買いましょうか!」
僕たちは列に並んでそれぞれにポップコーンとドリンクを購入した。
ポップコーンは僕がキャラメル味で、逢坂くんが塩バター味だ。二人でシェアして2種類食べようと約束した。
『まもなく7番シアターにて背徳のマスカレードの上映が始まります』
館内アナウンスが入り、周りの人たちが動き出す。
「行きましょうか」
「うん」
僕たちは小さな列の最後尾に並んだ。
「映画、なかなか面白かったね!」
僕は空になったポップコーンとコーラのカップをゴミ箱に捨てながら逢坂くんに言った。
ポスターの独特な感じに少し不安に思っていたが、背徳のマスカレードは予想を超えてなかなか面白い作品だった。
「そうですね。貞雄とジェニファー、幸せになってほしいです。二人が昔スーパーで買って育てた伊勢海老がまさかキーパーソンになるなんてびっくりしましたね!」
逢坂くんは僕の方を見ると笑顔で言った。
「海老のロドリゲスね! ってか、海老ってパーソンなの? でもあの恩返しは感動した。考えてみれば思い出のペットだもんね。それにしても、仮面舞踏会までに仮面が間に合わないかと思ってハラハラしちゃったよ」
「ただの舞踏会になっちゃう!ってセリフは秀逸でした。あのヤンメイの作った仮面、カッコよかったですね」
「あれ、欲しくなっちゃうね」
映画を観るまでは、仮面や海老なんて全く興味がなかったのに不思議なものだ。
「よかったら僕がヤンメイの代わりに作りましょうか?」
「あはは。逢坂くん、作れるの?」
「真っ黒になってもよければ」
最初に貰った、全体的に真っ黒な逢坂くんのお弁当が頭をよぎる。
僕は笑いながら逢坂くんの肩を小突く。
「もう! お弁当のこと思い出すからやめて。それなら自分で作るから!」
「ふふ。浅井先輩なら器用だから上手に作れそうですね」
「でもデザインには自信がない」
「……あ」
逢坂くんの目が泳いでいる。一生懸命言葉を探している姿がなんだかとても可愛く感じた。
「今、ネギ思い出したでしょ?」
「あ、いや、そんなことないですよ!? あ、浅井先輩、背徳のマスカレードのグッズがありますよ」
逢坂くんはごまかすように言ってから、少し奥の方にあるグッズコーナーを指差した。
そちらに目を向けると、壁の棚に仮面が飾ってあるのが見えた。
「本当だ。見てみようか。あ、仮面や海老のロドリゲスのマスコットまである!」
「海老のぬいぐるみ、なんか可愛いですね」
仮面や海老を模したぬいぐるみは手のひらより少し小さくて、ゴム紐がついている。
「うん。可愛いね。仮面もいいけど、やっぱり海老かな! くの字に曲がってるのがなんとも言えない可愛さだね。僕、これ買おうかな。仮面は作るし」
さっきの会話の仮面作りを掘り返す。驚いた顔の逢坂くんを見たら、本気でそれも悪くないかもと思い始めた。
「え!? 仮面作るんですか?」
「僕、センスが怪しいからさ、デザインは逢坂くんがしてよ」
「! 是非デザインさせてください!」
隣で大きな声で返事をされて、僕は小さく飛び上がる。
「そんな大声出すとびっくりするよ」
「……すみません」
僕はしょぼんとした逢坂くんの背中をポンと叩いて海老のマスコットを手に取った。
「逢坂くんはどうする?」
「あ、じゃあ俺もその海老を……」
僕はそれを聞いて、もう一つ手にとる。
「じゃあ会計してくるね」
「あれ?二つ買うんですか?」
「うん。一つは僕の。もう一つは今日誘ってくれた逢坂くんへのお礼。それとも、何か他のグッズにする?」
「え! そんな! 俺が浅井先輩と一緒にいたくて誘っただけなので悪いです!」
「あはは、僕がお礼したいだけだから。……迷惑かな?」
「いや、そんなことないです! 嬉しいです!」
「よかった! じゃあ買ってくるね!」
逢坂くんに小さく手を振って、海老のマスコット2つを手にレジへ向かう。
飾られた煌びやかな仮面が微笑んでいるような気がして、僕はにやけそうになるのを我慢した。
学校では一緒にいるものの、特に集まって遊ぶということもなく時々連絡をとるだけで、いつもの学校生活の賑やかさが嘘のような穏やかな日々を送っている。
ちなみに、逢坂くんに勉強会しようと言った割にはそれも実現できていない。
のんびりと映画やアニメを見たり、やりかけのゲームをするのもいいけれど、正直、高二の夏を満喫できていない感があった。
このままじゃ夏休みもいつの間にか暑さで溶けて終わってしまいそうだ。
「うーん。誰か誘って遊びに行こうかな」
一人呟いて、スマホを手に取る。
誠士は確か家族で一ヶ月ドバイに行くと言っていた。結菜は楽しく補習だろう。
いくら一緒に昼食を取るようになったとは言え、神崎くんや杉村さんを誘うのは気が引ける。杉村さんはそもそも補習か。
消去法のフリをして逢坂くんの名前を最後に出すのは、我ながらずるいなと思う。
でも、なんて誘ったらいいだろうか?
図書館で勉強会をしようとか?
課題は片付くかもしれないけど、ちょっと味気ない気がする。
僕がぐるぐる悩んでいると手の中のスマホが小さな音を立てて震えた。
メッセージを受け取ったようだ。
誰からだろう?
アプリを開いて確認する。
『おはようございます。バイト先で映画の鑑賞券を2枚貰ったので、もしよかったら一緒に行きませんか?』
「え、うそ」
あまりのタイミングの良さに思わず声が出る。
逢坂くんからだ。
アイコンがこの前一緒に撮った写真に変わっているのに気がついた。
自然と口元が緩むのを感じた。
さて、なんて返そう?
画面を開いたまま、しばらく指が止まる。僕は悩んだ末に、結局思ったままを文字にした。
『映画? 行きたい! いつにする?』
意味が伝わればいいや! と思って送った文章は、妙にテンションの高いものになってしまった。
これじゃあまるで僕が逢坂くんを好きみたいだ。
そんなふうに思ったタイミングでまたすぐに返信が来て、心臓が跳ね上がるのを感じる。
『浅井先輩と映画、楽しみです! 明日って空いてますか?』
『大丈夫だよ!』
もう深く考えないでメッセージを送ってしまおう。その方が自然な感じの文面になるだろう。
『じゃあ映画が11時からなんで駅の改札前に10時に待ち合わせでどうでしょう?』
『了解! 楽しみにしてるね!』
僕は続けて犬のスタンプを送った。
なんとなく逢坂くんを思い出すキャラクターだ。
間をおかずに返ってきたスタンプも犬のキャラクターで、思わず笑ってしまった。
明日、何を着て行こう?
そういえばどんな映画を観るのか聞くのを忘れてしまった。
色々と明日のことを考えているだけで、僕は嬉しくて楽しかった。
昨日は楽しみで寝付けなくて、少し寝坊してしまった。遅刻するほどではないけれど、僕は焦って小走りに駅へ急いだ。
夏休み中とはいえ、平日の昼間ということもありそれほど混んでおらず、なんとか時間に間に合いそうだ。
駅に着いて改札の辺りを見る。
いた。逢坂くんだ。
遠目にも、長身な逢坂くんのスタイルの良さが際立って見えた。
「逢坂くん、ごめん! 寝坊しちゃって遅れちゃったかも。待たせたよね?」
「浅井先輩、10時ピッタリ! さすがです!」
「さすがってそんな……、たまたまだよ。待たせてない?」
「大丈夫です! それに浅井先輩に会えるなら、俺は何時間でも何日でも待てます!」
「そんな無茶言わないの」
「はい」
「ところで逢坂くん、すごくお洒落だね」
逢坂くんは白いTシャツに涼しげなブルーのシャツを羽織り、ゆったりとしたデニムパンツを合わせている。
爽やかですごく似合っていた。
「……! ありがとうございます! 浅井先輩も……え? ……あ……、その……」
僕を上から下まで見た後、逢坂くんは固まってしまった。そして目が泳いでいる。
そう、そうだよね。
誠士にも結菜にも、なんなら妹にも言われるから、わかっている。
僕はダサい。
そもそもそんな服を見つけてくることが才能だと褒められるレベルだ。
「そんなに気を使わなくていいよ。ダサいのはわかってるから大丈夫だよ」
「い、いえ。浅井先輩はなんでも着こなせて凄いです! 他の人だったらこうはいきません!」
「それはもしかして他の人なら目を覆うレベルってこと?」
「……いや、それは……」
「今日の服も自分では気に入ってるんだけど、白いパンツと合わせて着たら、結菜にネギって言われちゃってさ」
「……ネ……ギ?」
「あはは。そんなに困らないでよ。あ、ねえ、もしよかったら服、一緒に選んでくれない? どうしたらカッコよくなるのかとか教えてよ」
「……! いいんですか?」
「あはは。逢坂くん、変なの。いいに決まってるじゃん。僕が頼んでるんだもん」
「はい! じゃあ映画の後、服を見に行きましょう!」
「うん。よろしく」
映画も楽しみだったけれど、逢坂くんと一緒に服を見るというのも、なんだか楽しみになってきた。
僕は逢坂くん側に持っていたバッグを反対側に持ち直して、映画館に向かって歩き始めた。
映画館に着いて、鑑賞券で席を指定する。
様々なポスターが掲示されている中で、一際目を引くゴージャスなものが今回鑑賞する『背徳のマスカレード』だった。
「なんだか煌びやかな映画だね」
もらった鑑賞券で観るのだから文句はないが、どんな話か想像がつかない。
マスカレードというからには、仮面舞踏会が開かれるんだろうけど……、でも比喩の可能性もあるのかな?
僕がどんな映画なのかと考えていると、逢坂くんがポスターを見ながら呟いた。
「……なるほど」
「何がなるほどなの?」
「いや、今回この鑑賞券をもらった理由が、最近始めたバイトの雰囲気や身のこなしを覚える参考になるからってことで」
「はい?」
「確かにこのポスターがバイト先とぱっと見、雰囲気が似ているなと思いまして」
「ちょっと待って? そこ、高校生がバイトしていいお店?」
「ああ、大丈夫ですよ。……どう表現したらいいのかな……。なんか芝居がかったカフェ? 俺はホールの仕事をするんですが、その接客態度も優雅にするようにとのことでして」
「え? 本当に大丈夫?」
「ふふ。浅井先輩は心配性ですね。あ、少し恥ずかしいけど、もしよかったらお店に遊びにきてください」
「うん。気になるし、みんなで行こうかな」
「みんなで、なんですね」
「僕一人でもいいけど、なんか怖いから」
「怖いって、もう浅井先輩、ひどいです」
「ごめんごめん。ねえ、ところで何かフード買う?」
「そうですね! 何か買いましょうか!」
僕たちは列に並んでそれぞれにポップコーンとドリンクを購入した。
ポップコーンは僕がキャラメル味で、逢坂くんが塩バター味だ。二人でシェアして2種類食べようと約束した。
『まもなく7番シアターにて背徳のマスカレードの上映が始まります』
館内アナウンスが入り、周りの人たちが動き出す。
「行きましょうか」
「うん」
僕たちは小さな列の最後尾に並んだ。
「映画、なかなか面白かったね!」
僕は空になったポップコーンとコーラのカップをゴミ箱に捨てながら逢坂くんに言った。
ポスターの独特な感じに少し不安に思っていたが、背徳のマスカレードは予想を超えてなかなか面白い作品だった。
「そうですね。貞雄とジェニファー、幸せになってほしいです。二人が昔スーパーで買って育てた伊勢海老がまさかキーパーソンになるなんてびっくりしましたね!」
逢坂くんは僕の方を見ると笑顔で言った。
「海老のロドリゲスね! ってか、海老ってパーソンなの? でもあの恩返しは感動した。考えてみれば思い出のペットだもんね。それにしても、仮面舞踏会までに仮面が間に合わないかと思ってハラハラしちゃったよ」
「ただの舞踏会になっちゃう!ってセリフは秀逸でした。あのヤンメイの作った仮面、カッコよかったですね」
「あれ、欲しくなっちゃうね」
映画を観るまでは、仮面や海老なんて全く興味がなかったのに不思議なものだ。
「よかったら僕がヤンメイの代わりに作りましょうか?」
「あはは。逢坂くん、作れるの?」
「真っ黒になってもよければ」
最初に貰った、全体的に真っ黒な逢坂くんのお弁当が頭をよぎる。
僕は笑いながら逢坂くんの肩を小突く。
「もう! お弁当のこと思い出すからやめて。それなら自分で作るから!」
「ふふ。浅井先輩なら器用だから上手に作れそうですね」
「でもデザインには自信がない」
「……あ」
逢坂くんの目が泳いでいる。一生懸命言葉を探している姿がなんだかとても可愛く感じた。
「今、ネギ思い出したでしょ?」
「あ、いや、そんなことないですよ!? あ、浅井先輩、背徳のマスカレードのグッズがありますよ」
逢坂くんはごまかすように言ってから、少し奥の方にあるグッズコーナーを指差した。
そちらに目を向けると、壁の棚に仮面が飾ってあるのが見えた。
「本当だ。見てみようか。あ、仮面や海老のロドリゲスのマスコットまである!」
「海老のぬいぐるみ、なんか可愛いですね」
仮面や海老を模したぬいぐるみは手のひらより少し小さくて、ゴム紐がついている。
「うん。可愛いね。仮面もいいけど、やっぱり海老かな! くの字に曲がってるのがなんとも言えない可愛さだね。僕、これ買おうかな。仮面は作るし」
さっきの会話の仮面作りを掘り返す。驚いた顔の逢坂くんを見たら、本気でそれも悪くないかもと思い始めた。
「え!? 仮面作るんですか?」
「僕、センスが怪しいからさ、デザインは逢坂くんがしてよ」
「! 是非デザインさせてください!」
隣で大きな声で返事をされて、僕は小さく飛び上がる。
「そんな大声出すとびっくりするよ」
「……すみません」
僕はしょぼんとした逢坂くんの背中をポンと叩いて海老のマスコットを手に取った。
「逢坂くんはどうする?」
「あ、じゃあ俺もその海老を……」
僕はそれを聞いて、もう一つ手にとる。
「じゃあ会計してくるね」
「あれ?二つ買うんですか?」
「うん。一つは僕の。もう一つは今日誘ってくれた逢坂くんへのお礼。それとも、何か他のグッズにする?」
「え! そんな! 俺が浅井先輩と一緒にいたくて誘っただけなので悪いです!」
「あはは、僕がお礼したいだけだから。……迷惑かな?」
「いや、そんなことないです! 嬉しいです!」
「よかった! じゃあ買ってくるね!」
逢坂くんに小さく手を振って、海老のマスコット2つを手にレジへ向かう。
飾られた煌びやかな仮面が微笑んでいるような気がして、僕はにやけそうになるのを我慢した。


