同盟を組むきっかけの遭遇をするまで気付かなかったが、大翔と手塚は同じ高校の生徒だ。大翔は一年生で、手塚は二年生。それぞれ教室のフロアが違うこともあり、すれ違っても気付けなかったのかもしれない。
でもそれが、少しずつ変化してきている。
「あ、手塚さんだ」
退屈な数学の授業中、窓際の席の大翔が外を眺めていると、二年生のクラスが体育の授業をしていた。何の気もなしに眺めていると、ふと目を惹かれる手がちらちらと視界に入る。よく目を凝らすと、それはやはり手塚だった。
授業はソフトテニスらしく、夏に近い日差しが降り注ぐ中、手塚たちがボールを追っているのが見える。大翔はそんな手塚がボールを追いかけ打ち返すラケットの様子を見つめ、小さくため息をつく。
「ああ、やっぱ推しだなぁ……めっちゃカッコいい」
ラケットのグリップを握る様子も、ボールをつかんで放るフォームも、すべてが絵になる。どれだけ見つめていても飽きないし、出来ることならずっと見つめていたい。
(見つめたいから……フェチ会したいですってメッセージ送ってもいいかな? いつも手塚さんからだけど、僕からもいいよね?)
同盟を組んでいる以上、立場としては対等であるはず。それならば大翔からもフェチ会を申し出てもいいのではないだろうか。
たまにはそういうきっかけもいいかもしれない。そんなことを思い立ち、早く休み時間にならないかとそわそわしている大翔の方に、外から視線を感じる。
つられるように目をやると、手塚がこちらを見ていた。その顔は見ていたのか? と問うような目をしている。
見ていたのに気付かれた! という恥ずかしさと焦りであわあわとしていると、「足柄ぁ、次の45ページ読んでくれ」と教師から指名されてしまった。
「は、はい! え、えっと……」
「足柄、45ページの、三行目」
隣からこっそりとクラスメイトの新妻の声がし、大翔はようやくページをめくる。
折角手塚(の手)の体育姿を堪能していたのに……! と歯噛みする思いを抱えながら大翔は指示された教科書のページを音読し始める。視界の端に遠くテニスに戻っていく手塚の姿の気配を感じながら。
ようやく迎えた放課後、大翔はいつもより緊張気味に正門の前でスマホをにらんでいた。手塚とのフェチ会をしたいと自ら声をかけたため、フェチ会の場所を探しているのだ。
普段であれば手塚きっかけになるので、必然的にフェチ会の場所は手塚の家になっている。
しかし今回は大翔から言い出したので、大翔が場所を決めなくてはならない。
「教室はちょっとヤバそうだし……どこがいいかな……」
互いの体の部位、特に手塚の場合は大翔の足を愛でることになっているので、あまり他人には見られたくはない現場だ。
一番無難なところとしては大翔の自宅だろうが、手塚の家と違い、大翔の家族は在宅していることが多い。普段なら家に居るのかどうかなんて気にはしないのだが、あえて今日家に居るかどうかを確かめてしまうと、「なんで?」と聞き返されて藪蛇を突きかねない気もする。
かと言って大っぴらに足をむき出しにしてそれを触ったり見つめたりできる場所なんて他に思いつかないのが正直なところだ。
自分から声をかけておきながらどうしよう……と頭を悩ませていると、「悪い、待たせたな」と、手塚が小走りでやってきた。
「珍しいな、足柄くんからフェチ会やりたいって言うの」
「ぼ、僕だってやりたいっていう権利あると思うんで」
「そんだけ俺の手が恋しかったんだ?」
まさか昼間の体育の授業を見ていたらフェチ心が疼いて仕方なかった、なんて言えない。そんなの欲求不満みたいじゃないか。
(いやでもフェチを感じている時点で欲求を抱えていることになるんだよね? じゃあべつにおかしくはない?)
そんな自問自答をしていると、「で? どこでするんだ?」と、尋ねられる。
「ええっと……それがまだ決めかねてて……」
「君の家じゃダメなの?」
「多分家族の誰かがいると思うんです。フェチ会してるとこ見られたらマズいかなぁって思って……」
「ふーん……じゃあ、ウチにする?」
「いつもお邪魔してるんで……悪いかなって思って」
べつにいいんだけどな、と手塚は言うものの、大翔の気が引けてしまう。
人目に付きにくくて、且つお金もかからないところ。そんな都合のいい場所なんて手近に――――
「よし、じゃあ、あそこ行くか」
そう手塚が呟いたかと思うと、「行くぞ」と言って大翔の手を引いて歩きだす。しかもいま来た方向、校舎の方に引き返すようにして。
(校内にそんな都合のいい場所なんてあったっけ? 空き教室だとしても、絶対誰も来ないわけじゃないだろうし……)
どこへ向かっているのか問おうにも、手塚はどんどん歩いて行くために声もかけられない。
男子生徒同士手を繋いでいる所をおかしく思われないかが気にならないかと言えば嘘になるが、それよりも大翔には推しである手にまたしても牽かれているせいで夢のような気分が先立っていた。
そうして気付けば、手塚は大翔を連れて古い低層の建物の前に辿り着いていた。
「手塚さん、ここは……?」
「旧部室棟。来年の春には取り壊しなんだけど、いまならまだ入れるから」
「なんでそんなこと知ってるんですか……」
「だてに君より長く学校にはいないってことだよ」
そう言いながら、手塚は手馴れた様子で立て付けの悪そうな引き戸を開け、中へ入っていく。
大翔もおずおずと続いて中に入っていくと、使い古された机やいすが散乱している小さな部屋だった。
エアコンがなく、埃っぽいため快適とは言い難いが、確かにここならあまり人はこなさそうではある。
「で? 足柄くんはそんなに俺の手を愛でたいんだ? 自分からフェチ会しようって言うくらいに」
「いいじゃないですか……僕だってしたいって言う権利あるんだし」
「まあ、同盟組んでるんだからそれはそうか」
そうくすくす笑いながら手塚はシャツの袖をまくり上げ、腕を露わにしていく。大翔は手そのものにフェチを感じはするが、それに付随する腕にもまた若干のフェチを感じもする。そしてなにより、手塚の腕は手に勝るとも劣らない形のいい腕なのだ。
ほうっとため息をつくくらいに大翔が見惚れていると、「ジャンケンするとかって段階じゃなさそうだな」と苦笑される。
そんなにも自分は手塚の手に飢えているように見えるのかと恥ずかしくなったが、今日の授業に集中できないくらいには惹かれているのだから、否定はしない。
ごくりと喉を鳴らして大翔が大きく頷くと、手塚は肩をすくめ、「しょーがない、今日はサービスしてあげるよ」と言い、左手を差し出してくる。
普段なら公平にジャンケンでフェチを満たす順番を決めるのだけれど、見兼ねたように手塚が譲ってくれた。
「あり、がとうござ、います……」
あまりに自分が欲望剥き出しになっているのを見透かされて恥ずかしいけれど、誰も見ていない空間だからか、それをあえて隠すのも余計に恥ずかしい気がしてくる。
そうして大翔はおずおずと礼を言い、そして手塚の左手を取る。
(右手と少し違って、こっちは手のクセみたいなのが少ない気がする……ペンだことまではいかないけれど、そういうのがない……)
だからなのか、手塚の手そのものの骨格の魅力や肉付きが堪能でき、大翔はじっと見入ってしまう。この手で頬やまぶたに触れられて、頭を撫でてもらえたら。首を絞めるではなく、つかむでもなく、ただそっと添えてもらえたなら。想像するだけで鳥肌が立つほどにこの手が放せなくなっていくようだ。
「足柄くん……ガッツきすぎ。鼻息くすぐったい」
「え、あ……すみません」
無意識に顔を接近させていて、吐息か鼻息が手塚の指先にかかっていたのだろう。苦笑されつつ指摘され、大翔は慌てて顔を離していく。
手塚の部屋で行われるフェチ会だと、たいてい大翔の足の品評が中心になりがちで、大翔がじっくり手塚の手を愛でられたためしがなかった。ダメ出しが多くて、それゆえに自分から積極的にフェチを満たしていいのかためらっていたからだ。
でも今日初めて自分から声をかけたことでフェチ会の主導権を握れた気がしたこともあり、いつも以上に大胆に大翔は手塚の手を愛でてフェチを満たしていく。まるで口付けせんばかりの至近距離で見つめ、両手で包み込むように撫でたりしながら。
「はあ……最ッ高です……やっぱり手塚さんの手は、僕の理想そのものです」
「最推しなんじゃなくて?」
「最推しでもあるけど、最高の手で理想の具現です」
「理想の具現」
すげー言葉のチョイス、と手塚は苦笑していたが、いやそうな素振りをしていないのが救いだ。やはりそこは、同じように拗らせたフェチを抱える者同士、通じるものがあるんだろうか。
(できることなら……僕のあらゆるところに触れてもらえたらいいのに。触れて撫でてつかんで、僕の輪郭を確かめてくれたらいいのに)
しかしそれはさすがにフェチを満たすという行為からは少々はみ出てしまっている気もする。なんというか、年齢制限に引っ掛かってしまいそうな行為ではないかと考えてしまう。
それはやはり、二人を繋ぐものがフェチズムだからだろうか……そんなことを考えながら手塚の手を見つめ堪能していると、ふと呟く声が聞こえた。
「俺も理想の具現を愛でたいんだけどな、そろそろ」
「え、あ、はい! じゃあ、交代しましょうか」
随分と長く手塚の手を愛でて大翔のフェチ心を満たしていたのだろう。手塚に指摘されるまで愛でていた手を惜しみながらもそっと手放し、大翔はほうっと大きく息を吐く。ああ、やはり彼の手は最高だ……そんなことを改めて思いながら。
すると、手塚がくすくすと笑いながら大翔を何か言いたげに見ている。「どうかしましたか?」と、首を傾げていると、手塚はポツリと答えた。
「いや……いい顔するなって思って。俺の手なのに」
そう言いながら手塚はふわりと笑い、そのまま流れるように大翔の頭を撫でていった。ほんの一瞬触れただけだったが、大翔にはスローモーションのように網膜に焼き付いていく。
正直、悲鳴を上げるかと思ったほどだった。ほんのついさっき触れられたい、頭を撫でられたいと思い描いていたことがさらりと叶ってしまったのだから。
「どうした? ゆでダコみたいになってるけど」
そう言いながらずいっと迫ってくる手塚に、大翔は今度こそ「ひええ!」と悲鳴を上げてしまい、飛びのかんばかりに顔をのけぞらせそうになる。
「て……手塚さんの手のせいですよ!!」
辛うじてそう言い返すのがやっとな大翔を、手塚はどこか楽しむような目で見つめ、やはり笑っている。大翔が惹かれてやまない手で口元を覆い隠すようにして。それもまた絵になっていて、大翔の心が騒いでしまう。
(僕は手に惹かれているだけ! 手が好きなだけ! 手塚さんの動向にドキドキしてるわけじゃない……はず)
そう自分で確かめるように言い聞かせながら、ようやく二人はフェチ心を満たす番を交代した。
でもそれが、少しずつ変化してきている。
「あ、手塚さんだ」
退屈な数学の授業中、窓際の席の大翔が外を眺めていると、二年生のクラスが体育の授業をしていた。何の気もなしに眺めていると、ふと目を惹かれる手がちらちらと視界に入る。よく目を凝らすと、それはやはり手塚だった。
授業はソフトテニスらしく、夏に近い日差しが降り注ぐ中、手塚たちがボールを追っているのが見える。大翔はそんな手塚がボールを追いかけ打ち返すラケットの様子を見つめ、小さくため息をつく。
「ああ、やっぱ推しだなぁ……めっちゃカッコいい」
ラケットのグリップを握る様子も、ボールをつかんで放るフォームも、すべてが絵になる。どれだけ見つめていても飽きないし、出来ることならずっと見つめていたい。
(見つめたいから……フェチ会したいですってメッセージ送ってもいいかな? いつも手塚さんからだけど、僕からもいいよね?)
同盟を組んでいる以上、立場としては対等であるはず。それならば大翔からもフェチ会を申し出てもいいのではないだろうか。
たまにはそういうきっかけもいいかもしれない。そんなことを思い立ち、早く休み時間にならないかとそわそわしている大翔の方に、外から視線を感じる。
つられるように目をやると、手塚がこちらを見ていた。その顔は見ていたのか? と問うような目をしている。
見ていたのに気付かれた! という恥ずかしさと焦りであわあわとしていると、「足柄ぁ、次の45ページ読んでくれ」と教師から指名されてしまった。
「は、はい! え、えっと……」
「足柄、45ページの、三行目」
隣からこっそりとクラスメイトの新妻の声がし、大翔はようやくページをめくる。
折角手塚(の手)の体育姿を堪能していたのに……! と歯噛みする思いを抱えながら大翔は指示された教科書のページを音読し始める。視界の端に遠くテニスに戻っていく手塚の姿の気配を感じながら。
ようやく迎えた放課後、大翔はいつもより緊張気味に正門の前でスマホをにらんでいた。手塚とのフェチ会をしたいと自ら声をかけたため、フェチ会の場所を探しているのだ。
普段であれば手塚きっかけになるので、必然的にフェチ会の場所は手塚の家になっている。
しかし今回は大翔から言い出したので、大翔が場所を決めなくてはならない。
「教室はちょっとヤバそうだし……どこがいいかな……」
互いの体の部位、特に手塚の場合は大翔の足を愛でることになっているので、あまり他人には見られたくはない現場だ。
一番無難なところとしては大翔の自宅だろうが、手塚の家と違い、大翔の家族は在宅していることが多い。普段なら家に居るのかどうかなんて気にはしないのだが、あえて今日家に居るかどうかを確かめてしまうと、「なんで?」と聞き返されて藪蛇を突きかねない気もする。
かと言って大っぴらに足をむき出しにしてそれを触ったり見つめたりできる場所なんて他に思いつかないのが正直なところだ。
自分から声をかけておきながらどうしよう……と頭を悩ませていると、「悪い、待たせたな」と、手塚が小走りでやってきた。
「珍しいな、足柄くんからフェチ会やりたいって言うの」
「ぼ、僕だってやりたいっていう権利あると思うんで」
「そんだけ俺の手が恋しかったんだ?」
まさか昼間の体育の授業を見ていたらフェチ心が疼いて仕方なかった、なんて言えない。そんなの欲求不満みたいじゃないか。
(いやでもフェチを感じている時点で欲求を抱えていることになるんだよね? じゃあべつにおかしくはない?)
そんな自問自答をしていると、「で? どこでするんだ?」と、尋ねられる。
「ええっと……それがまだ決めかねてて……」
「君の家じゃダメなの?」
「多分家族の誰かがいると思うんです。フェチ会してるとこ見られたらマズいかなぁって思って……」
「ふーん……じゃあ、ウチにする?」
「いつもお邪魔してるんで……悪いかなって思って」
べつにいいんだけどな、と手塚は言うものの、大翔の気が引けてしまう。
人目に付きにくくて、且つお金もかからないところ。そんな都合のいい場所なんて手近に――――
「よし、じゃあ、あそこ行くか」
そう手塚が呟いたかと思うと、「行くぞ」と言って大翔の手を引いて歩きだす。しかもいま来た方向、校舎の方に引き返すようにして。
(校内にそんな都合のいい場所なんてあったっけ? 空き教室だとしても、絶対誰も来ないわけじゃないだろうし……)
どこへ向かっているのか問おうにも、手塚はどんどん歩いて行くために声もかけられない。
男子生徒同士手を繋いでいる所をおかしく思われないかが気にならないかと言えば嘘になるが、それよりも大翔には推しである手にまたしても牽かれているせいで夢のような気分が先立っていた。
そうして気付けば、手塚は大翔を連れて古い低層の建物の前に辿り着いていた。
「手塚さん、ここは……?」
「旧部室棟。来年の春には取り壊しなんだけど、いまならまだ入れるから」
「なんでそんなこと知ってるんですか……」
「だてに君より長く学校にはいないってことだよ」
そう言いながら、手塚は手馴れた様子で立て付けの悪そうな引き戸を開け、中へ入っていく。
大翔もおずおずと続いて中に入っていくと、使い古された机やいすが散乱している小さな部屋だった。
エアコンがなく、埃っぽいため快適とは言い難いが、確かにここならあまり人はこなさそうではある。
「で? 足柄くんはそんなに俺の手を愛でたいんだ? 自分からフェチ会しようって言うくらいに」
「いいじゃないですか……僕だってしたいって言う権利あるんだし」
「まあ、同盟組んでるんだからそれはそうか」
そうくすくす笑いながら手塚はシャツの袖をまくり上げ、腕を露わにしていく。大翔は手そのものにフェチを感じはするが、それに付随する腕にもまた若干のフェチを感じもする。そしてなにより、手塚の腕は手に勝るとも劣らない形のいい腕なのだ。
ほうっとため息をつくくらいに大翔が見惚れていると、「ジャンケンするとかって段階じゃなさそうだな」と苦笑される。
そんなにも自分は手塚の手に飢えているように見えるのかと恥ずかしくなったが、今日の授業に集中できないくらいには惹かれているのだから、否定はしない。
ごくりと喉を鳴らして大翔が大きく頷くと、手塚は肩をすくめ、「しょーがない、今日はサービスしてあげるよ」と言い、左手を差し出してくる。
普段なら公平にジャンケンでフェチを満たす順番を決めるのだけれど、見兼ねたように手塚が譲ってくれた。
「あり、がとうござ、います……」
あまりに自分が欲望剥き出しになっているのを見透かされて恥ずかしいけれど、誰も見ていない空間だからか、それをあえて隠すのも余計に恥ずかしい気がしてくる。
そうして大翔はおずおずと礼を言い、そして手塚の左手を取る。
(右手と少し違って、こっちは手のクセみたいなのが少ない気がする……ペンだことまではいかないけれど、そういうのがない……)
だからなのか、手塚の手そのものの骨格の魅力や肉付きが堪能でき、大翔はじっと見入ってしまう。この手で頬やまぶたに触れられて、頭を撫でてもらえたら。首を絞めるではなく、つかむでもなく、ただそっと添えてもらえたなら。想像するだけで鳥肌が立つほどにこの手が放せなくなっていくようだ。
「足柄くん……ガッツきすぎ。鼻息くすぐったい」
「え、あ……すみません」
無意識に顔を接近させていて、吐息か鼻息が手塚の指先にかかっていたのだろう。苦笑されつつ指摘され、大翔は慌てて顔を離していく。
手塚の部屋で行われるフェチ会だと、たいてい大翔の足の品評が中心になりがちで、大翔がじっくり手塚の手を愛でられたためしがなかった。ダメ出しが多くて、それゆえに自分から積極的にフェチを満たしていいのかためらっていたからだ。
でも今日初めて自分から声をかけたことでフェチ会の主導権を握れた気がしたこともあり、いつも以上に大胆に大翔は手塚の手を愛でてフェチを満たしていく。まるで口付けせんばかりの至近距離で見つめ、両手で包み込むように撫でたりしながら。
「はあ……最ッ高です……やっぱり手塚さんの手は、僕の理想そのものです」
「最推しなんじゃなくて?」
「最推しでもあるけど、最高の手で理想の具現です」
「理想の具現」
すげー言葉のチョイス、と手塚は苦笑していたが、いやそうな素振りをしていないのが救いだ。やはりそこは、同じように拗らせたフェチを抱える者同士、通じるものがあるんだろうか。
(できることなら……僕のあらゆるところに触れてもらえたらいいのに。触れて撫でてつかんで、僕の輪郭を確かめてくれたらいいのに)
しかしそれはさすがにフェチを満たすという行為からは少々はみ出てしまっている気もする。なんというか、年齢制限に引っ掛かってしまいそうな行為ではないかと考えてしまう。
それはやはり、二人を繋ぐものがフェチズムだからだろうか……そんなことを考えながら手塚の手を見つめ堪能していると、ふと呟く声が聞こえた。
「俺も理想の具現を愛でたいんだけどな、そろそろ」
「え、あ、はい! じゃあ、交代しましょうか」
随分と長く手塚の手を愛でて大翔のフェチ心を満たしていたのだろう。手塚に指摘されるまで愛でていた手を惜しみながらもそっと手放し、大翔はほうっと大きく息を吐く。ああ、やはり彼の手は最高だ……そんなことを改めて思いながら。
すると、手塚がくすくすと笑いながら大翔を何か言いたげに見ている。「どうかしましたか?」と、首を傾げていると、手塚はポツリと答えた。
「いや……いい顔するなって思って。俺の手なのに」
そう言いながら手塚はふわりと笑い、そのまま流れるように大翔の頭を撫でていった。ほんの一瞬触れただけだったが、大翔にはスローモーションのように網膜に焼き付いていく。
正直、悲鳴を上げるかと思ったほどだった。ほんのついさっき触れられたい、頭を撫でられたいと思い描いていたことがさらりと叶ってしまったのだから。
「どうした? ゆでダコみたいになってるけど」
そう言いながらずいっと迫ってくる手塚に、大翔は今度こそ「ひええ!」と悲鳴を上げてしまい、飛びのかんばかりに顔をのけぞらせそうになる。
「て……手塚さんの手のせいですよ!!」
辛うじてそう言い返すのがやっとな大翔を、手塚はどこか楽しむような目で見つめ、やはり笑っている。大翔が惹かれてやまない手で口元を覆い隠すようにして。それもまた絵になっていて、大翔の心が騒いでしまう。
(僕は手に惹かれているだけ! 手が好きなだけ! 手塚さんの動向にドキドキしてるわけじゃない……はず)
そう自分で確かめるように言い聞かせながら、ようやく二人はフェチ心を満たす番を交代した。



