【完結】足フェチ先輩は手フェチな僕の足に惹かれている

「はー……休みってこんなにつまらなかったっけ」
「……足柄さ、それお前に呼び出された俺を前にしてよく言えるよな」

 大翔が手塚の様子を見にピノに行ったはいいが、別の店員の接客を受けたけれど気にくわなくて手塚と比べて不満をいだいてしまった。そんな自分勝手な思いをいだいた午後から数日後、大翔は親友の新妻と共に映画を見に行こうとしているところだ。
 映画までまだ時間があるのでファストフードで軽く何かを食べつつ時間を潰そう、としているいま、大翔は頬杖をついて大きくため息をつく。それに対して、新妻が憮然としているのだ。

「あ、ごめん……そういうつもりじゃなくて……その……」
「まあいいけどさ、ぼっちスキーな足柄からの誘いなんてよっぽどのことがあったんだろうから」

 単独行動が好きなぼっちスキーなんて認識をされていたのかと言うのは心外だが、思えば抱いた新妻の誘いを断ったりしているのだから、そう言われても仕方がない。
 しかしそれでも大翔が誘えばちゃんと来てくれる辺り、新妻は良い奴だと言える。

「よっぽどのことって言うか、べつに……」
「いつも俺の誘いを断るお前が、俺を誘って映画行こうだなんて言うのはもう事件だよ」
「……僕そんなに新妻くんにひどいことして……るのか。ごめん」
「って言うかさ、マジでなんかあったのか? 足柄から外で遊ぼうなんて初めてじゃない?」

 思えば高校に入ってから休日はピノに足しげく通っていたのだから、新妻のような友達を誘ってどこかへ遊びに行こうという発想すらいままでなかった。それなのに誘ったのは、やはりどうにもならないあのモヤモヤしたヘンな気持ちのせいだろう。

「そうだね……なんか、一人でいたくなくて」
「……なんだよガチの相談か? 映画なんて行ってる場合じゃなくね?」

 ちょっとしょんぼりとした声を返しただけで、新妻はそれまでの椅子にふんぞり返った憮然とした様子から一転し、居ずまいを正して話を聞く姿勢になる。

「なんかさ、その……趣味が合うみたいな人がいたんだ。それで、よく家に遊びに行ったりしてたんだけど……」
「なんかマズい場面に出くわしたとか?」
「いや、そう言うんじゃ……ああ、でもあれは僕的にはマズい場面なのかな」

 大翔を悩ませているのは手塚とのことなのだが、それをそもそもの関係から説明するには自分のフェチも手塚のフェチも明かさないといけなくなる。趣味が合う、と言う言い回しは当たらずとも遠からずだが、同盟を結んでいたとかフェチ会をしていたとかと言うのをどう言い換えればいいのかがわからない。

「趣味が合う人で、いろいろ教えてくれたり、僕の話とかわがまま聞いてくれたりしてすごくいい人なんだけど……ちょっと趣味が行き過ぎてるって言うか……」
「……もしかして足柄、なにか弱み握られててマズいことになってるとかじゃない?」
「そ、それはない! ……と思う」
「大丈夫か? そういうのって大人に入ってもらうとかした方が……」
「そこまでじゃないし、そういうのじゃないから!」

 弱みを握っているというか、握り合っているというか、同盟を組んでいる以上お互いのフェチを明かさない約束をしているという話ではある。
 ただ、その約束を手塚が破ってしまったのではないか、と言うのが大翔を大いにモヤモヤとさせている。

「弱みとかじゃないけど……その人、約束破ったんじゃないかなって思ってて」
「約束?」
「お互いの秘密を誰にも言わないって約束なんだけど……」
「もしかしてその秘密を、他のやつに知られたってのか?」

 大筋で言えばその通りなので、大翔がこくんとうなずくと、新妻は「あ~……それはモヤモヤするな……」と同意してくれた。それだけでもまず、大翔は少し気持ちがホッとする。

「約束を守るのは人として大前提だと俺は思うからな。足柄がモヤモヤするのもわかる」

 約束は大事だよなぁ、と言いながら新妻が頬杖をつきながらテーブルの下に目をやり、「あっ」と呟いた。
 何か落としただろうかと大翔も下を見やると、新妻の視線は大翔の足許に注がれている。

「足柄ってさ、プールの時とか見てて思ったけど、足すっげーきれいだよな」
「え、そ、そう……?」
「なんか正直女子よりきれいだもん。なんかしてんの?」
「ああ、うん……フットケアを、ちょっと……」

 手塚とのフェチ会が行われなくなって半月ほどが経つが、大翔は変わりなくフットケアを続けている。フェチ同盟を解除すると宣言したのだからもうフットケアなんてしなくてもいい気もするのだが、習慣になってしまっているのか、未だに無意識に風呂上がりなどにクリームを塗っている。
 しかしまさか手塚以外の誰かに足を誉められるなんて思ってもいなかった大翔は、急に恥ずかしくなって足を椅子の下に引っ込めた。

「僕の足、足の甲が高いしサイズも小さいからすっごく靴が見つけにくいんだ。サンダルとかも」
「へぇー。でもそのサンダル似合ってんじゃん」
「ああ、うん。選んでもらったから」
「あ、もしかしてそれって前言ってた顔なじみの先輩ってやつ? よく店に行くとかって言ってた」
「え、ああ……うん、そう……」
「なんか結構大胆って言うか目を惹くなーって思ってたんだよな」

 まさかまたしても新妻に手塚のことを言い当てられてしまうとは思っていなかった大翔は、どぎまぎした様子で目を伏せる。
 その上サンダルのことまで言及してくるので、その内フェチのことまで探ってくるのではとひやひやしてしまう。

(べつにフェチを言い当てられたわけじゃない……平気な顔をしてれば、大丈夫……のはず……)

 もしまたここでふとした弾みでフェチが新妻にバレてしまったら。きっと中学の二の舞になってしまう。ろくに友達が出来なかったあの苦い記憶が蘇り、大翔は思わず身を硬くする。

「なんかいいよな、そういうの」
「……へ? いい、の?」
「え、だっておしゃれじゃん。自慢したくなるよな」
「べ、べつに自慢してるわけじゃ……」

 見せつけているわけではないと慌てて手を振って否定をするものの、新妻が言いたいのはそういうことではないようだ。

「でもさ、今日それ履いてる足柄、なんか学校で見るより堂々としててカッコいいかもって俺思ったけどな。やっぱ自慢したくなる所があるって気持ちが違うもん?」
「そ、そうかな……自慢していいものかな、男の足なんて……」
「いいんじゃね? きれいなんだからさ、見ろよ! ってしてりゃいいじゃん。俺の恋人とかだったら絶対自慢しちゃうね」

 なんだそれ、と大翔は思わず苦笑してしまったが、ふとあの時の――ビデオ通話をした時の――手塚のことを思い出していた。

『わ、誰この足。めっちゃきれー』
『ねえねえこの足の子ってさ、昨日の写真の人? すげーきれーだろって言ってた人の』

 通話中、指原とかいう手塚の同室の生徒が、大翔の足をきれいだと言っていた。それだけではない、手塚もすごいきれいだろうと言っていた、とも。

「ねえ、きれいだったら、見せたくなる?」
「なるんじゃない? だからみんなおしゃれとかするんだろうし」
「ああ、そうか……じゃあさ、それが自分じゃなくても、見せたくなる?」
「あー……女子とかよく推しのビジュがいい! とかって見せ合ってんじゃん。俺らでもそうだけど。そういうのかな」
「推しかぁ……でもさ、見せちゃダメって言われてたら、やっぱ見せないもんだよね?」

 そう大翔が尋ねると新妻は「うーん……」と腕組みをして考え込み、そうだなぁと言いながら口を開く。

「見せちゃダメって言う約束をしてたらさ、まあ普通は守るものなんだろうけど……」

 その言葉を受け、やっぱりそうだよな……と大翔の気持ちが改めて萎れかけていた。
 しかし新妻は、「でもさ」と言葉をさらに続けてこう言った。

「でもさ、宝物って見せたくなるものじゃん。すげーだろ! って。俺がガキの発想なのかもしれないけど」

 新妻はそう照れたようにいながら笑っていたが、大翔にはその言葉が妙に胸に響いた。
 宝物は、見せたくなるもの――ではその宝物が、自分だったとしたら……?

(宝物だなんて、そんな……特別な人みたいな――)

 宝物が特別な人に繋がった時、大翔の中で何かパズルのピースのように嵌った音がした気がした。
 手塚が大翔にとってフェチを理解し合える特別な人だと思っていたのなら、手塚にとっての宝物が大翔だということなのだろうか。それは、イコールとしてつながるのだろうか。

「宝物と、特別な人って、つながると思う?」
「あー、そういう人もいるよな。外国とかだと家族とか恋人の写真見せびらかしたりするみたいなやつ」
「恋人……って、好きな人も?」
「人によっては入るんじゃね?」

 新妻の言葉を聞きながら、大翔は目の覚めるような想いと共に、手塚に確かめたい疑問が湧き上がっていた。

(僕にとっての特別な人が手塚さんだとして……それが手塚さんにとっての宝物になって……僕になる、のかな? でも足だけかもしれないし……)

 足だけが好きと言う可能性は、大いにあるだろう。元々大翔の足が理想だとか言っているのだから。宝物=大翔の足ということだって十分にあり得る。手塚にとって、大翔がただのフェチを満たすだけの対象であるのなら。

(でもそうだったとしたら、また連絡取ろうなんてするのかな……また理想の足捜そうってなるんじゃ……)

 手塚にとっての宝物がどういう意味なのか、特別な人につながるのか。確かめてみたい気持ちがふつふつと湧いてくる。

「……確かめないと」

 そう、大翔が呟いたかと思うと、突然椅子から立ち上がる。
 新妻はぽかんと大翔を見上げていたが、心を決めた大翔の表情を見て、何かを察したようだ。頬杖をついたままで手をひらひらと振り、送り出そうとしている。

「んじゃあ、俺と遊ぶのはまた今度だな」
「ごめん! 今度なんか奢るから!」

 慌ただしく席を立ち走っていく大翔に、「気をつけて行けよー」と新妻は優しく微笑んで返していた。
 そうして大翔は、手塚にとっての特別な人と宝物の意味を確かめに彼のもとへ向かうのだった。