【完結】足フェチ先輩は手フェチな僕の足に惹かれている

 フェチ会遠征という名のデートのようなものをしたのを機に、大翔と手塚の仲が物理的にも心理的にも深まった気がしなくもない。
 と言うのも、あの日を境に手塚の様子に変化があったからだ。

「なんか少し日に焼けたな」

 そう、いつものように手塚の部屋でフェチ会を行おうとして靴下を脱いでいると、目ざとく手塚が見つけてそう言った。
 先週から本格的に水泳の授業が始まったこともあり、裸足になって日差しを浴びることもあるせいか、少なからず足も日焼けしているのだろう。
 そうは言っても、常に剥き出しの腕や首筋に比べればまだだいぶ白い方だと思うのだが、わずかな変化にも手塚は気付いたらしい。よく見ていると行けば聞こえはいいが、ちょっと細かいとも言える。

「そうですね、やっぱりプールの授業があるからかな。日に焼けてるの、NGですか?」

 大翔は元が色白の方なので真っ黒に日焼けするタイプではないのだが、それでも日焼けのあとはつく。足に関してはかなりこだわりの強い手塚のことだから、気になるというのであれば焼けないように対策を取らなくてはならないだろうか。

「いや……焼けているのも健康的な感じがしていいな、と思って。ただ……」

 そう言いながら手塚は大翔の裸足になった足元を見つめ、そっと触れてくる。この手付きが、もっとも最近変わったなと思えるところでもある。

(なんて言うか……前にも増してより僕の足を恭しい感じに扱うようになった気がするんだよなぁ。それこそ、お姫様にするような感じで)

 とは言え、大翔は実際のお姫様の靴や足の扱いがどのようなものであったかなんて見当もつかないので、乏しい知識と想像力を総動員して思い描くしかないのだが。
 それを差し引いたとしても、手塚はただ恭しく壊れ物のように大翔の足を扱うだけではない。丁寧に接してくることは以前からもそうだったのだが、最近はそれにある種の変種のこだわりようなものを感じるのだ。

「ただ……君の生足を他の奴らも見ているのかと思うと、ちょっと……」

 ちょっと、何なのだろう。生足とは言うけれど単純に裸足なだけであり、それは他の生徒も変わらない状況だ。大翔だけがさらされているわけではない。
 なにより、たとえ大翔が小さな足をしていて手塚の理想の足なのだとしても、そう思っている者はいまのところ手塚しかいないはずだ。何を手塚が懸念しているかはわからないが、想像しているような良からぬことは起きるとは思えない。少なくとも、大翔はそう考えている。だから余計に、手塚が悶々とした顔をしている理由がわからなかった。

(手塚さんが僕の足を大切にしてくれているのはわかるけど……でも、僕がどう思っているのかは関係ないみたいなんだよな)

 そう考えると、手塚は大翔ではなく大翔の足だけを見ているんだなと改めて痛感させられ、少し気持ちが萎れてしまう。しかし何故なのかはわからない。
 べつにフェチ同盟なんだから、お互いの手足が大切で特別な感じなのは当然なのに……。手塚の態度に、大翔は気持ちを掻き乱されてしまい、やり場のない想いがぐるぐるとめぐるのだった。


「宿泊勉強合宿? そんなのやるんですか、二年生って」

 夏休みまであと一週間となったある日、大翔はいつものように手塚の部屋に来ていた。フェチ会のためだ。
 この日手塚は順番決めのジャンケンをすっ飛ばしてまず自分から大翔の足を愛でたいと言い出したのだ。それだけでも十分いつもと様子が違うのだが、それに加えてやたらとベタベタ触ったりじっくり眺めたりしてくる。
 様子がいつも以上にヘンだな、と思った大翔が思い切って何かあったのか尋ねてみたところ、勉強合宿に行かなくてはならなくなった、と言うのだ。

「やりたくてやるわけでも参加するわけでもないんだよ」
「もしかしてあの……手塚さんって結構赤点とか取っちゃうタイプなんですか……?」

 赤点の常連で成績が進級に響くようであれば、勉強合宿とやらに参加させられるのもうなずけるのだが、大翔の質問に手塚はムッとした顔をする。

「……悪かったな、赤点常連で。俺は足に関することなら理解できるんだけどさー……」

 足に関わる単元や項目であれば興味が湧いて俄然勉強する気になるらしいのだが、全く関係がないことになると関心が薄れて理解しようとしなくなってしまうらしい。辛うじて保健体育の成績が平均よりちょっといいくらいだという。

「わかります……僕もダビデ像に惹かれたから美術史とか世界史とか好きですけど……あとは全然……」

 悲しいかな、フェチをこじらせているせいで食指が動かないことには全く関心が持てないせいで知識に偏りが生じてしまうのだ。これもまたフェチ同盟を組む二人にはあるあるなのだと知った。
 いいとは言えないが、思いがけない新たな共通点を見つけてちょっと嬉しくなっている大翔であったが、手塚は浮かない表情をしている。

「夏休みの貴重な一週間が勉強で潰れるかと思うと……しかもこれで合宿最終日のテストが悪かったらバイトも辞めなきゃだし……」
「ええ!? そんなの困ります!!」

 手塚の成績に関して大翔が関係することなんてないだろうと、半ばたかをくくっていた所に思いがけない条件が飛び出し、思わず大声が出てしまう。まさか手塚がバイト先のピノからいなくなってしまうなんてあってはならないと思っているからだ。そうでないと、大翔はこの先どこで合法的に手塚に触ってもらえばいいのか……もとい、靴を買えばいいのか。
 それに何より、手塚の足フェチを合法的に満たす機会がなくなってしまおうのも、同じフェチを抱える者として気の毒に思えるし他人事ではない。

「ああー……俺、一週間も勉強漬けで耐えられる気がしない……バイトにも行けなくなるかもなんて……ツラすぎる……」

 いつになく頭を抱えて弱気な姿を見せる手塚に、大翔は何とか元気づけられないかと考えた。日頃手塚は足に関してはかなり辛口な評価を下しはするものの、大翔の努力のあとは汲んでくれるし、評価もしてくれる。先日だって何のかんの言いつつも大翔の写真集のようにして欲しい、という我儘にも付き合ってくれたやさしいところもある。
 ここは何か自分でも役に立てることがあれば……と考えていると、「……あ~、こういう時こそ……」と、手塚がボソッと呟く。

「どっかのいい足でも愛でられたらHP保てるのになぁ……」

 そう言いながら窺うようにこちらを見てくるあたり、手塚もなかなかにあざといと思う。どっかのいい足を愛でるも何も、そういうことを了承得てできる相手は大翔しかいないというのに。

(いや、でも案外手塚さんモテるみたいだから、僕以外にそういう人がいたりとか……)

 そんなことを考えると、チクンと胸が痛む。痛むというか、ムカッとするというか。大翔だって手塚以外に素敵だと思う手の人がいれば惹かれはするのに、何故手塚が同じようなことをしていると想像するだけで胸が苦しいと言うかむかむかしてしまうのか。
 何勝手なこと考えてるんだろう……そう一人苦く笑っていると、「聞いてる?」と突然声をかけられた。

「え? あ、なんですか?」
「だからさ、足柄くんの足、写真撮らせてよ」
「……は? え、な、なんで……?」

 全く思ってもいない方向に話が進み始めていることに気が付いて大翔が固まっているのも構わず、手塚はわざとらしく優しい手つきで大翔の手を取り、言葉を続ける。

「俺が一週間耐えられるように、お守りとして。一枚だけで良いからさ、頼むよ!」

 そう言いながら手塚は拝むような手をして頼み込んでくるが、大翔としては即答しかねている。なにせ自分が手塚の手を愛でていた時は写真を撮るなと言われていたのだから。

「……でも手塚さん、僕が写真集の再現お願いした時は写真撮るなって言ってたのに……ズルい……」
「あれはその……なんて言うか……まさかこんなことになるなんて思ってもなかったから……」
「僕だって手塚さんが合宿の間手を愛でられないんですよ。それに、ピノ辞めちゃったら僕靴買える場所無くなっちゃうし……」
「あ、それもそうか……」

 事態が思っていたよりも二人のフェチ会に影響が出そうだとわかり、お互いの手足を見つめつつ黙り込んでしまう。
 大翔としては協力してあげたいけれども自分も手塚の写真が欲しいし、手塚は大翔の協力がなければバイトも続けられるか危うい。
 二人して頭を抱えて悩んだ末、「……じゃあ、こうするか」と手塚が提案してきた。

「お互いに一枚ずつ写真を撮る。そんでそれを俺が合宿の間のお守りにする。もちろん誰にも見せないし、ヘンなこともしない」
「……ヘンな事って……その……」
「言わなきゃわかんないのか、君は」

 呆れ気味に、しかしどこか嬉しそうでもあるような目を向けられ、大翔はカッと頬を染めてうつむく。べつにヘンなことをするつもりは毛頭ないが、あえて禁止事項にされてしまうと妙に意識してしまう。

(でもフェチって元々はそういう意味もあるから……ある意味正解?)

 そんなことを考えてしまいまた一人頬を赤らめていると、手塚がスマホを取り出して大翔の足に向けてくる。

「別々の写真撮るより同じポーズを別角度で撮ろうか」
「いいですね。じゃあ、僕の足を手塚さんが触れているのを撮りましょうよ」

 シンデレラみたいに、と大翔が提案すると、手塚はいいねと快諾し足許にしゃがみ込む。それこそまさにお姫様にひざまずく王子や騎士のようだ。
 そうして大翔の足をメインにした角度からは大翔が撮り、手をメインにした角度からは手塚が撮った。お互いに一番だと思えるアングルからの推しの撮影なので、結局何枚も撮ってしまっていた。その中からベストなものを選ぶ。

「ああ、これいいんじゃない? 足柄くんの足がすごく綺麗だ」

 そう言って手塚が見せてきた一枚は、確かに大翔の足が真上より少し斜め下から写されていて影が出来てきれいに見える。正直、自分でもとても青年の足には見えないほどだ。

「これが、僕の足なんですね……」
「いい形してるだろ」

 まるで自分のもののように手塚が誇らしげに見せてくるものだから、大翔は思わずくすりと笑ってしまったが、同じくらい嬉しくもあった。そして同時に、ようやく手塚のフェチ心を満たせた気もして誇らしくもある。

「合宿終わったら、また生の足柄くんの足みせてくれよ」
「手塚さんも、ちゃんと手を見せて下さいよ」

 そう約束をしあうように言葉を交わし、指きりの代わりに拳を突き合わせる。触れてくる拳の骨っぽい感触に胸が鳴ったが、それ以上に嬉しそうに微笑みかけてくる手塚の表情から目が離せなかった。