スポーツシーンも食事シーンも一通り堪能し、大翔のフェチ心も満腹になっていると、手塚が待ちわびたかのように言った。
「なあ、そろそろ俺のフェチ心も満たしてもらえない?」
「そうですね。じゃあどこに行きましょうか……」
手と違い、足はそもそも剥き出しにするシーンが通常の生活の中では少ないことに今更気づかされる。足だけを出して触れて、というシーンは風呂場やプールのように裸にまでならないといけない場合が多い。
足湯体験ができる場所や足つぼマッサージなども考えられはするが、どちらも「触れる」という行為までは至らない。
(困ったな……足って案外表に出す機会ってないんだ……)
午前中かけて自分の我儘とも言えるフェチ心を存分に満たしてもらったのだから、同盟を結ぶ者同士としてもここは手塚の要求にこたえなくてはと思う。
しかしどうすれば……と、大翔がモール内を見渡していると、ふとチェーン展開している大型のシューショップが目に入った。
ああ、これだ! と思った大翔は、早速手塚にこう提案してみる。
「手塚さん、僕にサンダル選んでもらえませんか?」
「サンダル? スニーカーじゃなくて?」
「もうすぐ夏休みなんで、夏休みに履けそうなやつ、選んでください!」
靴屋ならを店で選ぶフィッティングで足を合法的に出せるし、手塚も触れることが出来るのではないか。大翔はそう考え提案したのだが、手塚には思いがけなかったのか驚いた顔でこちらを見つめている。
しかし大翔の意図を組んでくれたのか、納得したようにうなずき、「いいよ、わかった」と請け負ってくれた。
そうして二人は早速店に入り、大翔に似合うサンダルを選ぶことになった。
「足柄くんは甲高で小さめだから、スリッポンタイプよりはベルトでサイズ調整できる方がいいんじゃないかと思うんだよな。こういうのとか」
早速店内でいくつかピックアップしていく手塚は、それらを片っ端から大翔の足に履かせていく。ここはバイト先のピノではないのに、まるで店の時と同じように大翔の傍らに膝をつき、丁寧に足を手に取り履かせていくのだ。その様子はまるでシンデレラがガラスの靴を履くシーンさながらに見える。
「ユニセックスなデザインで、且つ足がきれいに見えるやつがいいよな……。足柄くん、これの履き心地はどう?」
足の甲とベルトの間に指を挿し込みながら尋ねられ、大翔は足の感触に神経を集中させる。手塚がベルトを微調整してくれているからか、きつすぎることはない。
「結構いいです。きつくもないし、緩くもないし」
「そっか……あとはカラーリングかな」
そうブツブツ言いながら、手塚はまた陳列棚の方を見やり考え込んでいる。選んでほしいとは言ったが、ここまで本格的にやってくれるとは思っていなかった大翔は、手塚の熱量に圧されて呆気にとられている。
先程のデザインの色違いのものを二足ほど抱えてきた手塚は、早速いま履いているものを脱がせ新たに履かせていく。その際の手付きが、なんだかいつもより丁重な気がした。
「っふふ。本当にお姫様にでもなったみたいだな」
思わずそう大翔が呟いていると、手塚がまんざらでもなさそうに「では姫様おみ足を」なんて言いつつ足を取ってくるので余計に笑いそうになってしまう。
でも実際、手塚が大翔の足を扱う時の手付きは、ピノでの接客の時以上に丁寧だった。日頃から足に関して口煩く言ってくるだけあって、扱いそのものが丁寧でぬかりない。
そのせいか、本当に大翔は自分がシンデレラのようなお姫様にでもなった、特別な気分になっていた。
「良し、これなんかいいんじゃないかな」
そうして小一時間ほどあれでもないこれでもないと選びに選んだ一足は、足の甲の部分が広く空いている、ベルトでサイズ調整が出来るデザインのものだった。
「靴底が厚めだから、たくさん歩いても疲れないし、足も痛くなりにくいと思う。あと、君は結構色が白めだから、真っ黒なベルトよりもこう言うチョコレート色の方が、足がきれいに見えるかなと思って」
手塚がそう言いながら足許を映す鏡を手にして大翔にも見せてくれる。デザインとして若干かかとがあるものになっていることもあり、足の甲がすっきりと見えてより大翔の足がきれいに映えている。
「すごい……なんだか僕の足じゃないみたいにきれいに見えます」
「まぎれもなく君の足だよ」
そう言いながら笑い合い、大翔は改めて鏡の中の自分の足を見つめる。
いつだって靴にしてもサンダルにしても選択肢がなかった自分の足は、無意識下に大翔にとってコンプレックスに近い存在になっていた。
しかし手塚に出会うきっかけとなったおかげで少しずつ自分の足への認識が変わり始め、今日はいつになく魅力的なものに変身することができたのだ。それも、推しである手塚の手に存分に触れられる時間を味わいながら。
「僕、これ買います」
そう決めた大翔は、早速履いていたサンダルを脱いで履いてきた靴に履き替える。
そうしてサンダルを抱えて会計に向かいながら、大翔は手塚にお礼を言った。
「ありがとうございます、手塚さん。お陰でいい買い物が出来ました」
「そっか。って言うか、そのサンダル履くところ、絶対見せろよ」
「いいですよ。手塚さんに選んでもらったんですもの」
「いますぐに見せろ」
「ええ、いますぐ、ですか?」
思いがけないことを言いだされて大翔が困惑しながらサンダルの入った紙袋を手に取っていると、「よろしければそのまま履いて行かれますか?」と店員にフォローを入れられた。
「いいんですか?」
「ええ、もちろんです」
「君のことだから、また勿体無いとか言ってしまいこみかねないだろ。いい機会だから履いて行けよ」
「それはここで言わないでくださいよ……」
スニーカーのことを言っているのだろうと気付き大翔が恥ずかしくなっていると、店員がくすりと笑う。「すみません、とても仲がよろしいので素敵お二人だなと思って」と言われ、なんだか恥ずかしくなってくる。
恥ずかしくはあるが、不快ではない。それは手塚も同じなのか、赤くなった顔でこちらを見ている。そうして二人顔を合わせて笑い、こう答えた。
「ありがとうございます」
店の隅で履き替えさせてもらい、紙袋に履いてきた靴を入れて歩き始める。やはりかかとのあるものはなれていないので、ちょっと足元がおぼつかない。それでも、さすが手塚にじっくり選んでもらっただけあって、足にはとてもフィットしている。
「どう、履き心地は?」
「すごくいいです。やっぱ手塚さんに選んでもらって正解でした」
「その割にはこわごわ歩いているな」
「だ、だって思ったより高いから……」
その内慣れてくるのだろうが、いまはまだひよこのようによちよちと歩くしかない。しかしそれだと手塚の歩みについて行けるのか心配にもなってくる。文字通り足手まといになる気がしたからだ。
試し履きもして大丈夫だと思ったのに……と、大翔が少しだけサンダルを履いていこうとしたことに後悔をしていると、そっとその手を手塚が握っていた。
「手塚さん?」
「こけられたら俺の責任だからな。慣れるまでは繋いでおいてやるよ」
「え、で、でも……」
「気にするな。誰も俺たちのことなんて見てない」
そう手塚が言い切って大翔の手を取ったまま歩き始めると、その言葉通りだなと気付かされる。人が多く行きかうモール内で、誰も自分たちが手を繋いでいるなんて気にも留めていないのが良くわかったからだ。みんなそれぞれ、自分の用事で忙しいのだ。
店を出て歩き始め、段々と高い視界やかかとの高い足元にも慣れてくる。大翔に合わせて歩みをゆっくりとしてくれている手塚とも横並びになっていた。足元のサンダルは思っている以上に大翔の足によく似合っていて、見ているだけで満足感を覚える。
そのせいか少し頬が緩んでいたのだろう。「随分機嫌がいいな」と手塚に指摘されてようやくそれに気付かされた。
「そりゃそうですよ! 手塚さんにじっくりフィッティングして選んでもらったんですから!」
「そうだな、よく似合ってる。ただ……」
似合っている、という割に手塚はなんだか複雑そうな顔をしており、少し拗ねたような顔になっている。
何か気に障ることをしてしまっただろうか、と大翔が考えていると、手塚はふいっと横を向きながら呟いた。
「……そのサンダル履いてるとこ、もう他に見せるんじゃないぞ」
「へ? それってどういうことですか?」
他に見せるなってことは、履いて出るなということだろうか。さっきはしまい込んでそうだから履いて行けと言ったのに。
矛盾する手塚の言葉の真意を尋ねようとしたが、当の手塚は真っ赤になったままそっぽを向いてどんどん手を引いて歩いて行く。その耳の端も横顔もとても赤い。
なんでそんな……と、尋ねようにもこちらまで恥ずかしくなってくるような赤さに、大翔もまた口をつぐんでただ手を牽かれていくのだった。
「なあ、そろそろ俺のフェチ心も満たしてもらえない?」
「そうですね。じゃあどこに行きましょうか……」
手と違い、足はそもそも剥き出しにするシーンが通常の生活の中では少ないことに今更気づかされる。足だけを出して触れて、というシーンは風呂場やプールのように裸にまでならないといけない場合が多い。
足湯体験ができる場所や足つぼマッサージなども考えられはするが、どちらも「触れる」という行為までは至らない。
(困ったな……足って案外表に出す機会ってないんだ……)
午前中かけて自分の我儘とも言えるフェチ心を存分に満たしてもらったのだから、同盟を結ぶ者同士としてもここは手塚の要求にこたえなくてはと思う。
しかしどうすれば……と、大翔がモール内を見渡していると、ふとチェーン展開している大型のシューショップが目に入った。
ああ、これだ! と思った大翔は、早速手塚にこう提案してみる。
「手塚さん、僕にサンダル選んでもらえませんか?」
「サンダル? スニーカーじゃなくて?」
「もうすぐ夏休みなんで、夏休みに履けそうなやつ、選んでください!」
靴屋ならを店で選ぶフィッティングで足を合法的に出せるし、手塚も触れることが出来るのではないか。大翔はそう考え提案したのだが、手塚には思いがけなかったのか驚いた顔でこちらを見つめている。
しかし大翔の意図を組んでくれたのか、納得したようにうなずき、「いいよ、わかった」と請け負ってくれた。
そうして二人は早速店に入り、大翔に似合うサンダルを選ぶことになった。
「足柄くんは甲高で小さめだから、スリッポンタイプよりはベルトでサイズ調整できる方がいいんじゃないかと思うんだよな。こういうのとか」
早速店内でいくつかピックアップしていく手塚は、それらを片っ端から大翔の足に履かせていく。ここはバイト先のピノではないのに、まるで店の時と同じように大翔の傍らに膝をつき、丁寧に足を手に取り履かせていくのだ。その様子はまるでシンデレラがガラスの靴を履くシーンさながらに見える。
「ユニセックスなデザインで、且つ足がきれいに見えるやつがいいよな……。足柄くん、これの履き心地はどう?」
足の甲とベルトの間に指を挿し込みながら尋ねられ、大翔は足の感触に神経を集中させる。手塚がベルトを微調整してくれているからか、きつすぎることはない。
「結構いいです。きつくもないし、緩くもないし」
「そっか……あとはカラーリングかな」
そうブツブツ言いながら、手塚はまた陳列棚の方を見やり考え込んでいる。選んでほしいとは言ったが、ここまで本格的にやってくれるとは思っていなかった大翔は、手塚の熱量に圧されて呆気にとられている。
先程のデザインの色違いのものを二足ほど抱えてきた手塚は、早速いま履いているものを脱がせ新たに履かせていく。その際の手付きが、なんだかいつもより丁重な気がした。
「っふふ。本当にお姫様にでもなったみたいだな」
思わずそう大翔が呟いていると、手塚がまんざらでもなさそうに「では姫様おみ足を」なんて言いつつ足を取ってくるので余計に笑いそうになってしまう。
でも実際、手塚が大翔の足を扱う時の手付きは、ピノでの接客の時以上に丁寧だった。日頃から足に関して口煩く言ってくるだけあって、扱いそのものが丁寧でぬかりない。
そのせいか、本当に大翔は自分がシンデレラのようなお姫様にでもなった、特別な気分になっていた。
「良し、これなんかいいんじゃないかな」
そうして小一時間ほどあれでもないこれでもないと選びに選んだ一足は、足の甲の部分が広く空いている、ベルトでサイズ調整が出来るデザインのものだった。
「靴底が厚めだから、たくさん歩いても疲れないし、足も痛くなりにくいと思う。あと、君は結構色が白めだから、真っ黒なベルトよりもこう言うチョコレート色の方が、足がきれいに見えるかなと思って」
手塚がそう言いながら足許を映す鏡を手にして大翔にも見せてくれる。デザインとして若干かかとがあるものになっていることもあり、足の甲がすっきりと見えてより大翔の足がきれいに映えている。
「すごい……なんだか僕の足じゃないみたいにきれいに見えます」
「まぎれもなく君の足だよ」
そう言いながら笑い合い、大翔は改めて鏡の中の自分の足を見つめる。
いつだって靴にしてもサンダルにしても選択肢がなかった自分の足は、無意識下に大翔にとってコンプレックスに近い存在になっていた。
しかし手塚に出会うきっかけとなったおかげで少しずつ自分の足への認識が変わり始め、今日はいつになく魅力的なものに変身することができたのだ。それも、推しである手塚の手に存分に触れられる時間を味わいながら。
「僕、これ買います」
そう決めた大翔は、早速履いていたサンダルを脱いで履いてきた靴に履き替える。
そうしてサンダルを抱えて会計に向かいながら、大翔は手塚にお礼を言った。
「ありがとうございます、手塚さん。お陰でいい買い物が出来ました」
「そっか。って言うか、そのサンダル履くところ、絶対見せろよ」
「いいですよ。手塚さんに選んでもらったんですもの」
「いますぐに見せろ」
「ええ、いますぐ、ですか?」
思いがけないことを言いだされて大翔が困惑しながらサンダルの入った紙袋を手に取っていると、「よろしければそのまま履いて行かれますか?」と店員にフォローを入れられた。
「いいんですか?」
「ええ、もちろんです」
「君のことだから、また勿体無いとか言ってしまいこみかねないだろ。いい機会だから履いて行けよ」
「それはここで言わないでくださいよ……」
スニーカーのことを言っているのだろうと気付き大翔が恥ずかしくなっていると、店員がくすりと笑う。「すみません、とても仲がよろしいので素敵お二人だなと思って」と言われ、なんだか恥ずかしくなってくる。
恥ずかしくはあるが、不快ではない。それは手塚も同じなのか、赤くなった顔でこちらを見ている。そうして二人顔を合わせて笑い、こう答えた。
「ありがとうございます」
店の隅で履き替えさせてもらい、紙袋に履いてきた靴を入れて歩き始める。やはりかかとのあるものはなれていないので、ちょっと足元がおぼつかない。それでも、さすが手塚にじっくり選んでもらっただけあって、足にはとてもフィットしている。
「どう、履き心地は?」
「すごくいいです。やっぱ手塚さんに選んでもらって正解でした」
「その割にはこわごわ歩いているな」
「だ、だって思ったより高いから……」
その内慣れてくるのだろうが、いまはまだひよこのようによちよちと歩くしかない。しかしそれだと手塚の歩みについて行けるのか心配にもなってくる。文字通り足手まといになる気がしたからだ。
試し履きもして大丈夫だと思ったのに……と、大翔が少しだけサンダルを履いていこうとしたことに後悔をしていると、そっとその手を手塚が握っていた。
「手塚さん?」
「こけられたら俺の責任だからな。慣れるまでは繋いでおいてやるよ」
「え、で、でも……」
「気にするな。誰も俺たちのことなんて見てない」
そう手塚が言い切って大翔の手を取ったまま歩き始めると、その言葉通りだなと気付かされる。人が多く行きかうモール内で、誰も自分たちが手を繋いでいるなんて気にも留めていないのが良くわかったからだ。みんなそれぞれ、自分の用事で忙しいのだ。
店を出て歩き始め、段々と高い視界やかかとの高い足元にも慣れてくる。大翔に合わせて歩みをゆっくりとしてくれている手塚とも横並びになっていた。足元のサンダルは思っている以上に大翔の足によく似合っていて、見ているだけで満足感を覚える。
そのせいか少し頬が緩んでいたのだろう。「随分機嫌がいいな」と手塚に指摘されてようやくそれに気付かされた。
「そりゃそうですよ! 手塚さんにじっくりフィッティングして選んでもらったんですから!」
「そうだな、よく似合ってる。ただ……」
似合っている、という割に手塚はなんだか複雑そうな顔をしており、少し拗ねたような顔になっている。
何か気に障ることをしてしまっただろうか、と大翔が考えていると、手塚はふいっと横を向きながら呟いた。
「……そのサンダル履いてるとこ、もう他に見せるんじゃないぞ」
「へ? それってどういうことですか?」
他に見せるなってことは、履いて出るなということだろうか。さっきはしまい込んでそうだから履いて行けと言ったのに。
矛盾する手塚の言葉の真意を尋ねようとしたが、当の手塚は真っ赤になったままそっぽを向いてどんどん手を引いて歩いて行く。その耳の端も横顔もとても赤い。
なんでそんな……と、尋ねようにもこちらまで恥ずかしくなってくるような赤さに、大翔もまた口をつぐんでただ手を牽かれていくのだった。



