足フェチ先輩は手フェチな僕の足に惹かれている

 中二のある日、教室でその写真を目にした時、「これだ!」と大翔(だいと)は思った。これこそが自分の思い描く理想であり、探し求めていた手だ、と。
 大翔は幼い頃からたくましい骨格の手に惹かれる傾向があった。同級生よりも大人の男性の、痩せているよりも筋肉質な手に。いわゆる手に魅力を感じ、フェチズムを覚える手フェチの中でもちょっと珍しいタイプと言える。
 身の回りに理想の手を捜してはいたが、いまようやくそれに巡り合えた気がしていた。
 すらりと伸びた骨太の指はがっしりとたくましく、それに続く腕もまた無駄な肉が一切ない均整のとれた造りだとわかる。
 美しい。それだけでは足りない魅力を、大翔はその彫刻、ミケランジェロのダビデ像から感じていた。
 こんな指に触れられてみたい――そんなことすら夢想しかけていた大翔に、「足柄(あしがら)、なに見てんだよ」と、声をかけられた。

「え、あ、えっとこれ……」
「何、ダビデ像とか見てんの? 足柄ってマッチョに憧れてたりする?」
「そ、そうじゃなくて……手がさ、良いなって思って」
「手?」
「うん。だってこの骨太の形の良い指とか最高じゃない? こういう大きな手に相応しいよね。それにこういう力強い手でグッと体って言うか首とかつかまれたらもう最高だと思うんだよね。指の一本一本もじっくり見てみたいなぁ」

 思いがけずクラスメイトに話しかけられ、つい大翔はダビデ像の手の魅力と、そういった手に惹かれている自分の想いを一気に早口で語ってしまっていた。しかも、「この手でつかまれたい」なんて、ちょっとしたサディスト的な言葉まで織り交ぜて。
 しかし当の大翔は自分の言葉のチョイスが相手を退()かせてしまったことに気が付いていない。
 なんにしても、大翔のフェチ語りがその場を凍り付かせてしまったのは間違いがなかった。

「へ、へぇ……足柄って結構変わってんだな」

 それだけそのクラスメイトは言い置いて、連れ立っていた他の生徒と去っていく。大翔は何故彼らが苦笑いしていたのかがわからずきょとんとしていた。
 だが、去り際に聞こえた彼らの会話で、自分がどう見られたのかをようやく察することができた。

「あの手でつかまれたいとかヤバくね?」
「サドっつーか、ド変態なんじゃね?」
「大人しそうな顔して、案外って感じだな」

 ひそひそと小声で囁かれる自分への評価に、大翔は自分が手フェチではなく被虐趣向のある危ない趣味を持った変態だと認識されてしまったことに気付かされたのだ。
 そうじゃない! と申し開きをしようにも、彼らは足早に大翔から離れて背を向けてしまっている。きっともう、向こうから話しかけてくることはないだろう。
 ああ、失敗した――そう自分のうかつさを悔やんだが、訂正を彼らが受け容れてくれる気もしない。理想とするものを見つけ、ただその魅力を知ってもらいたかっただけなのに。まさか退かれて避けられるようになってしまうなんて思いもしなかった。

(もうこれからは、手フェチだって絶対に誰にも知られないようにしなくちゃ――)

 閉じた美術の教科書を手に、大翔はそう強く心に決める。惹かれてやまない大好きな手の魅力だからこそ、それを半減させるような振る舞いはしないようにしよう、と。