日曜日は雨だったので、ミュージアムの中を巡るのにはちょうどよかった。命から「ちょっと遅れる」とLINEが入っていたので、入り口近くにあるお土産屋さんで時間を潰す。最初はこのミュージアムの主役である「もっちょくん」のキーホルダーを手にとって見ていたが、そのうち自然と店内の鏡に吸い寄せられてしまった。
室内だからよかったけど、やっぱり雨は嫌いだ。俺は元々ひどい癖毛で、雨の日は手がつけられなくなる。毎日姉のストレートアイロンを借りてなんとか誤魔化していたけど、雨の日はアイロンの効果もすぐとれてしまう。淡い茶色に染めた俺の髪はくるくる丸まり、湿気を含んでいつもより広がっていた。この暴れるボリュームだけでもなんとかおさめられないかと何度も撫でつけるが、家を出る前よりぼわついている気がする。初めて命と出かけた時から何度か私服で会うことはあったものの、今日はいつもより服を選ぶのに時間がかかった。命の服装はいつもいたってシンプルで、ジーンズにTシャツの色がその時々で変わるくらい。今日の俺は黒いTシャツにハーフパンツという一見気の抜けたいでたちだけど、上下どちらとも目立たないところにブランドのロゴが刺繍されていて、スニーカーは通販サイトで一目惚れしたものだ。新品なのに雨で濡れてしまって、中がぐしょぐしょして若干気持ち悪い。気合いを入れすぎてるように見られるのも嫌だけど、ラフすぎてダサいと思われたくもない。どっちにしろデートでもないのにこんなに身なりを気にして見栄を張る俺は、そのままでかっこいい命に比べればダサいことに変わりないんだけど。
「お待たせ!待たせてごめん。雨の中悪いな」
10分くらい遅れてやってきた命は、俺とは逆でいつもアホ毛ぴんぴんの髪が雨で濡れてしっとり落ち着いていた。いつもと変わらないTシャツにジーンズで気取らない格好だが、雨で少し濡れたTシャツにはもっちょくんがプリントされている。一見馬鹿馬鹿しい格好なのに、スタイルがいいせいで嫌味なくらい上手に着こなしている。
「ぷ!もっちょくんTシャツじゃん。気合い入ってるね」
「実は結構好きで集めてるんだ、もっちょくんグッズ」
俺は命に会うために気合いを入れてブランドもので武装してきたというのに、命はただ、真帆ちゃんと梨奈の思い出を俺と楽しむために、あと単純にもっちょくんが好きだからという理由でもっちょくんを着てきた。自分の気合いの入りっぷりと命の単純さの差がおかしくて、俺は命に気づかれないよう小さく笑った。
もっちょくんとは、縦長の人型、緑色をしたゆるキャラで最近爆発的な人気を見せている。1年前にオープンしたばかりのミュージアムはまだ新しく、家族やカップル友人同士など、さまざまな人たちで賑わいを見せていた。もっちょくんの作者の原画や、もっちょくん着ぐるみと写真を撮れるコーナー、もっちょくん好きには聖地のような場所だ。
梨奈はミーハーだったのでもっちょくんが流行り出すとすぐ乗っかり俺を引きずってもっちょくんミュージアムに連れてきてグッズを買い漁ったが、数ヶ月後にはもう飽きてしまっていた。「いらないからあげる」と言われて梨奈に押し付けられたもっちょくんグッズが、今も俺の部屋の一部を占めている。その話をすると命は「海里、かわいそう」とけらけら笑った。
「海里、もっちょくんに全然興味なさそうだもんな」
「ないよ。ちょっと気持ち悪くない?」
「おいおい分かってないな。もっちょくんはこの『きも可愛さ』がいいんだろ?」
今日はもっちょくん効果か、やけに命のテンションが高い気がしてわずかに引きつつもやっぱり嬉しい。今日の命の関心は、梨奈より真帆ちゃんより、悔しいことに俺よりも、もっちょくんに集中している。
「デートなんだし、前みたいにあれやる?腕組むやつ!」
「へっ!?」
唐突の命の提案に俺は周りの人が振り返るほどの大声を出してしまう。俺の声に命は逆にびっくりしたようで、慌てて言った。
「あ、デートって俺と海里がデートしてるって意味じゃないよ?梨奈ちゃんと海里のデートを再現してるからの意味で…」
「そ、そっか。そうだよね」
「びっくりしすぎだよ、海里。この前は海里の方からノリノリで真帆の真似して腕絡めてきたじゃん!」
ん!と命が肘を曲げて腕を差し出す。俺はその腕に寄りかかるように自分の腕を絡めた。腕の筋肉の弾力が直接伝わってくる。前に腕を組んだ時はこんな細かいところまで意識しなかった。腕を組んで自ずと距離が近くなると、少し顔を横に向けるだけで命の形のいい唇や涼しげな目元が間近に映る。命側に向けている俺の頬が熱を帯びる。
「…なんか暑くない?」
手で自分を仰ぐ俺を見て、命は不思議そうに「今日は涼しい方だと思うけど」と言った。
もっちょくんの原画を命は熱心に、俺は適当に流し見して、行列に並んでもっちょくん着ぐるみと写真を撮るともう15時を過ぎていた。ミュージアムを周っている間ずっと命の腕に自分の腕を預けていたせいで、展示されていたもっちょくんは記憶の片隅にも残っていない。残っているのは楽しそうにはしゃぐ命の横顔ばっかりだ。
腹減ったしもっちょくんカフェでなんか食べようぜと命が当たり前のように言ったのでついていく。カフェのメニューはどれももっちょくんで、もっちょカレー、もっちょムライス、もっちょコーヒー、食べる前からもっちょくんで胃もたれしそうだった。
もっちょ胃もたれはしていたがお腹は普通に減っていたのでもっちょカレーという名の、カレーの上にもっちょくんが乗っているだけのただのカレーを注文する。命はもっちょハンバーグを注文した。
「うまいよ、もっちょハンバーグ。海里のもっちょカレーはどう?」
「普通のカレーだよ」
「海里ってクールだよな」
「命がもっちょくんごときではしゃぎすぎなんだよ」
「可愛いのに、もっちょくん…」
カレーをかき混ぜながらもっちょくんをルーとライスの中に埋葬していく。さよなら、もっちょくん…と、今日はあまりメインイベントになれていない梨奈と真帆ちゃんの思い出。
「そうだ」
俺は閃いてカレー皿から目を上げた。
「俺、確かここで梨奈にあーんしてもらったよ」
命が目をぱちくりさせた。なんという狡猾な思いつきだろう。もちろん梨奈にカレーをあーんしてもらった思い出などない。ただカレーに沈んでいく哀れなもっちょくんを見て思いついただけだった。
「そうか」
命はそっと自分の更に目を落とす。やばい、引かれたかも。しかし命はフォークとナイフをスマートに動かしてハンバーグを一口サイズに切った。ひとかけらをフォークに刺して、俺の顔の前に突き出した。
「ほら、あーん」
自分から言い出しておいて思いがけない展開に、顔から湯気が出そうになる。どうしていいか分からず固まっていると、むしろなんであーんしないんだとでも言うように命が眉を顰めた。
「海里」
「いや、今のは実は…」
「なあ、海里」
俺の前に差し出された食べやすいように切られた一口サイズハンバーグは、命の優しさの象徴だ。命が気の利かない、俺が相手だからそれっぽいようにしとけばいいだろと思うような適当な奴なら、ハンバーグをこんなに丁寧に切ったりしない。
「お前は俺のために側溝にハマってくれただろ。このくらい、恩返しさせてくれよ」
初めて俺と命が思い出巡りに行った、商店街の中の普通に汚いただの側溝。
命の記憶の中に意図せず側溝に落ちた真帆ちゃんに加えて、意図して側溝に落ちに行った俺の姿も追加されているのだとしたら、叫び出したくなるほど嬉しかった。
躊躇いながらもゆっくり口を開けると、命は俺の口の中に優しくハンバーグを運んだ。こういうコラボカフェのメニューは大体が冷凍食品くさいけど、もっちょハンバーグも例に漏れず安っぽい味だった。だけど胸の中に広がるこの温かみ、ハンバーグを噛み締めた時返ってくる柔らかな弾力に、次第に心臓が音を立てて跳ね始める。
「おいちい?海里♡」
梨奈の真似をしてくれてるんだろう。両手を合わせて首を傾げ、命は上目遣いで俺を見つめた。慣れないことをするから上目遣いというより白目を剥きかけてて怖かったが、俺は暴れる心臓を抑えつけながらなんとかハンバーグを飲み込む。
「美味しいよ、み…梨奈」
目と目が合って、俺と命は周りの客が振り返るほど爆笑した。笑いすぎて目に涙が滲んでくる。馬鹿馬鹿しいのに嬉しくて俺はテーブルの下で握り拳を作って波のように襲ってくる嬉しさにひたすら耐えた。
どうしよう。
俺はこの人のことが好き。
俺じゃない人に失恋して、俺じゃない人の面影ばかり追いかけて、それでも俺を気遣ってくれるこの人が好き。
「そういえば、なんで今まで気づかなかったんだろ?」
ミュージアムの出口で、命はふと俺を振り返って言った。
「俺と海里、全然写真撮ってないよな」
「ああ…まあ、今まで商店街とかファミマとか、映えない場所ばっかり行ってたし」
「それもそうか」
命はスマホを取り出し、急に俺の肩をぐいっと引き寄せて抱いた。
「えっ!?」
「思い出巡り記念!」
考える暇もなくスマホのシャッター音が鳴り響く。好きだと自覚したその日に、肩を抱き寄せられるなんて心臓がついていかない。心臓の音が聞こえませんようにと祈っている間に、命が俺から体を離す。すごく長い時間肩を抱かれていたような気がしたけれど、現実時間ではほんの数秒の出来事だった。
「もっと早くからこうして写真撮っとけばよかった!さらに思い出巡ってる感があったのに!」
悔しそうに言う命に、俺は顔が赤くなっているのをバレないようそっぽを向きながら言う。
「俺と撮ったってしょうがないだろ…」
「なんで?海里との思い出もいっぱい増えていくじゃん。楽しいよ」
その一言で俺の心臓を握り潰せることも知らないで、命は嬉しそうに言う。
室内だからよかったけど、やっぱり雨は嫌いだ。俺は元々ひどい癖毛で、雨の日は手がつけられなくなる。毎日姉のストレートアイロンを借りてなんとか誤魔化していたけど、雨の日はアイロンの効果もすぐとれてしまう。淡い茶色に染めた俺の髪はくるくる丸まり、湿気を含んでいつもより広がっていた。この暴れるボリュームだけでもなんとかおさめられないかと何度も撫でつけるが、家を出る前よりぼわついている気がする。初めて命と出かけた時から何度か私服で会うことはあったものの、今日はいつもより服を選ぶのに時間がかかった。命の服装はいつもいたってシンプルで、ジーンズにTシャツの色がその時々で変わるくらい。今日の俺は黒いTシャツにハーフパンツという一見気の抜けたいでたちだけど、上下どちらとも目立たないところにブランドのロゴが刺繍されていて、スニーカーは通販サイトで一目惚れしたものだ。新品なのに雨で濡れてしまって、中がぐしょぐしょして若干気持ち悪い。気合いを入れすぎてるように見られるのも嫌だけど、ラフすぎてダサいと思われたくもない。どっちにしろデートでもないのにこんなに身なりを気にして見栄を張る俺は、そのままでかっこいい命に比べればダサいことに変わりないんだけど。
「お待たせ!待たせてごめん。雨の中悪いな」
10分くらい遅れてやってきた命は、俺とは逆でいつもアホ毛ぴんぴんの髪が雨で濡れてしっとり落ち着いていた。いつもと変わらないTシャツにジーンズで気取らない格好だが、雨で少し濡れたTシャツにはもっちょくんがプリントされている。一見馬鹿馬鹿しい格好なのに、スタイルがいいせいで嫌味なくらい上手に着こなしている。
「ぷ!もっちょくんTシャツじゃん。気合い入ってるね」
「実は結構好きで集めてるんだ、もっちょくんグッズ」
俺は命に会うために気合いを入れてブランドもので武装してきたというのに、命はただ、真帆ちゃんと梨奈の思い出を俺と楽しむために、あと単純にもっちょくんが好きだからという理由でもっちょくんを着てきた。自分の気合いの入りっぷりと命の単純さの差がおかしくて、俺は命に気づかれないよう小さく笑った。
もっちょくんとは、縦長の人型、緑色をしたゆるキャラで最近爆発的な人気を見せている。1年前にオープンしたばかりのミュージアムはまだ新しく、家族やカップル友人同士など、さまざまな人たちで賑わいを見せていた。もっちょくんの作者の原画や、もっちょくん着ぐるみと写真を撮れるコーナー、もっちょくん好きには聖地のような場所だ。
梨奈はミーハーだったのでもっちょくんが流行り出すとすぐ乗っかり俺を引きずってもっちょくんミュージアムに連れてきてグッズを買い漁ったが、数ヶ月後にはもう飽きてしまっていた。「いらないからあげる」と言われて梨奈に押し付けられたもっちょくんグッズが、今も俺の部屋の一部を占めている。その話をすると命は「海里、かわいそう」とけらけら笑った。
「海里、もっちょくんに全然興味なさそうだもんな」
「ないよ。ちょっと気持ち悪くない?」
「おいおい分かってないな。もっちょくんはこの『きも可愛さ』がいいんだろ?」
今日はもっちょくん効果か、やけに命のテンションが高い気がしてわずかに引きつつもやっぱり嬉しい。今日の命の関心は、梨奈より真帆ちゃんより、悔しいことに俺よりも、もっちょくんに集中している。
「デートなんだし、前みたいにあれやる?腕組むやつ!」
「へっ!?」
唐突の命の提案に俺は周りの人が振り返るほどの大声を出してしまう。俺の声に命は逆にびっくりしたようで、慌てて言った。
「あ、デートって俺と海里がデートしてるって意味じゃないよ?梨奈ちゃんと海里のデートを再現してるからの意味で…」
「そ、そっか。そうだよね」
「びっくりしすぎだよ、海里。この前は海里の方からノリノリで真帆の真似して腕絡めてきたじゃん!」
ん!と命が肘を曲げて腕を差し出す。俺はその腕に寄りかかるように自分の腕を絡めた。腕の筋肉の弾力が直接伝わってくる。前に腕を組んだ時はこんな細かいところまで意識しなかった。腕を組んで自ずと距離が近くなると、少し顔を横に向けるだけで命の形のいい唇や涼しげな目元が間近に映る。命側に向けている俺の頬が熱を帯びる。
「…なんか暑くない?」
手で自分を仰ぐ俺を見て、命は不思議そうに「今日は涼しい方だと思うけど」と言った。
もっちょくんの原画を命は熱心に、俺は適当に流し見して、行列に並んでもっちょくん着ぐるみと写真を撮るともう15時を過ぎていた。ミュージアムを周っている間ずっと命の腕に自分の腕を預けていたせいで、展示されていたもっちょくんは記憶の片隅にも残っていない。残っているのは楽しそうにはしゃぐ命の横顔ばっかりだ。
腹減ったしもっちょくんカフェでなんか食べようぜと命が当たり前のように言ったのでついていく。カフェのメニューはどれももっちょくんで、もっちょカレー、もっちょムライス、もっちょコーヒー、食べる前からもっちょくんで胃もたれしそうだった。
もっちょ胃もたれはしていたがお腹は普通に減っていたのでもっちょカレーという名の、カレーの上にもっちょくんが乗っているだけのただのカレーを注文する。命はもっちょハンバーグを注文した。
「うまいよ、もっちょハンバーグ。海里のもっちょカレーはどう?」
「普通のカレーだよ」
「海里ってクールだよな」
「命がもっちょくんごときではしゃぎすぎなんだよ」
「可愛いのに、もっちょくん…」
カレーをかき混ぜながらもっちょくんをルーとライスの中に埋葬していく。さよなら、もっちょくん…と、今日はあまりメインイベントになれていない梨奈と真帆ちゃんの思い出。
「そうだ」
俺は閃いてカレー皿から目を上げた。
「俺、確かここで梨奈にあーんしてもらったよ」
命が目をぱちくりさせた。なんという狡猾な思いつきだろう。もちろん梨奈にカレーをあーんしてもらった思い出などない。ただカレーに沈んでいく哀れなもっちょくんを見て思いついただけだった。
「そうか」
命はそっと自分の更に目を落とす。やばい、引かれたかも。しかし命はフォークとナイフをスマートに動かしてハンバーグを一口サイズに切った。ひとかけらをフォークに刺して、俺の顔の前に突き出した。
「ほら、あーん」
自分から言い出しておいて思いがけない展開に、顔から湯気が出そうになる。どうしていいか分からず固まっていると、むしろなんであーんしないんだとでも言うように命が眉を顰めた。
「海里」
「いや、今のは実は…」
「なあ、海里」
俺の前に差し出された食べやすいように切られた一口サイズハンバーグは、命の優しさの象徴だ。命が気の利かない、俺が相手だからそれっぽいようにしとけばいいだろと思うような適当な奴なら、ハンバーグをこんなに丁寧に切ったりしない。
「お前は俺のために側溝にハマってくれただろ。このくらい、恩返しさせてくれよ」
初めて俺と命が思い出巡りに行った、商店街の中の普通に汚いただの側溝。
命の記憶の中に意図せず側溝に落ちた真帆ちゃんに加えて、意図して側溝に落ちに行った俺の姿も追加されているのだとしたら、叫び出したくなるほど嬉しかった。
躊躇いながらもゆっくり口を開けると、命は俺の口の中に優しくハンバーグを運んだ。こういうコラボカフェのメニューは大体が冷凍食品くさいけど、もっちょハンバーグも例に漏れず安っぽい味だった。だけど胸の中に広がるこの温かみ、ハンバーグを噛み締めた時返ってくる柔らかな弾力に、次第に心臓が音を立てて跳ね始める。
「おいちい?海里♡」
梨奈の真似をしてくれてるんだろう。両手を合わせて首を傾げ、命は上目遣いで俺を見つめた。慣れないことをするから上目遣いというより白目を剥きかけてて怖かったが、俺は暴れる心臓を抑えつけながらなんとかハンバーグを飲み込む。
「美味しいよ、み…梨奈」
目と目が合って、俺と命は周りの客が振り返るほど爆笑した。笑いすぎて目に涙が滲んでくる。馬鹿馬鹿しいのに嬉しくて俺はテーブルの下で握り拳を作って波のように襲ってくる嬉しさにひたすら耐えた。
どうしよう。
俺はこの人のことが好き。
俺じゃない人に失恋して、俺じゃない人の面影ばかり追いかけて、それでも俺を気遣ってくれるこの人が好き。
「そういえば、なんで今まで気づかなかったんだろ?」
ミュージアムの出口で、命はふと俺を振り返って言った。
「俺と海里、全然写真撮ってないよな」
「ああ…まあ、今まで商店街とかファミマとか、映えない場所ばっかり行ってたし」
「それもそうか」
命はスマホを取り出し、急に俺の肩をぐいっと引き寄せて抱いた。
「えっ!?」
「思い出巡り記念!」
考える暇もなくスマホのシャッター音が鳴り響く。好きだと自覚したその日に、肩を抱き寄せられるなんて心臓がついていかない。心臓の音が聞こえませんようにと祈っている間に、命が俺から体を離す。すごく長い時間肩を抱かれていたような気がしたけれど、現実時間ではほんの数秒の出来事だった。
「もっと早くからこうして写真撮っとけばよかった!さらに思い出巡ってる感があったのに!」
悔しそうに言う命に、俺は顔が赤くなっているのをバレないようそっぽを向きながら言う。
「俺と撮ったってしょうがないだろ…」
「なんで?海里との思い出もいっぱい増えていくじゃん。楽しいよ」
その一言で俺の心臓を握り潰せることも知らないで、命は嬉しそうに言う。


