命にかかわる失恋

「この前海里の話を聞いて思ったんだけど」

もはや俺たちは学校帰りにマックに寄るのが当たり前のようになっていた。初めて来た時はシェイクを啜るのすら苦しそうだった命は、ハンバーガーにポテトとコーラ、追加でソフトクリームまで平げた後だった。

「俺だけじゃなくて、海里もやるべきだよ。思い出巡り」

俺は食べかけのチキンナゲットから顔を上げた。そんなことは考えてもみなかったけど命にこの方法が効いているんだから、命が俺を気遣って俺もやってみるよう提案してくるのは自然なことかもしれない。

「…でも俺、インスタに上げてた梨奈との写真は消しちゃったし」
「スマホに残ってないのか?」
「何枚かは残ってる、と思うけど」

スマホを確認すると、ひっついて自撮りしたものやあからさまに付き合ってることをアピールするような写真は消してしまっていたが、2人で一緒に行った場所や梨奈の後ろ姿は数枚残っていた。だけど俺の場合、思い出巡りなんかして意味があるのだろうか?俺は命みたいに、梨奈が側溝にハマって助け出してやった思い出も、入学式で一目惚れしたようなロマンチックな思い出もない。確かにほとんど毎日一緒にいていろんな場所に行った。あの時はすごく楽しかったはずなのに今や梨奈との記憶は霞んでしまって、うすぼんやりとしか思い出せない。俺はスマホから顔を上げ、命の顔を見た。

強烈すぎる、目の前の今が。

梨奈の思い出なんてもはやどっちでもいい。今目の前にいる命と、できるだけ長い時間一緒にいられるなら巡るのが真帆ちゃんとの思い出の場所だろうが梨奈との思い出の場所だろうが、そんなもの存在しない世界の果ての洞窟だろうがもはやなんでもいい。

命のことを好きになったとは思っていない。だけど命はその圧倒的な存在感で俺が考えていた他のこと、梨奈のこと、友達のこと、永遠に埋まらない穴のことを遠くに押しやる。

命はすべてを凌駕する。

「…海里?どうした?嫌なこと思い出させちゃったなら、悪い」

心配そうに俺を覗き込んでくる切れ長の目。
この目が1秒でも長く俺を見張ってくれているなら、それがいいと思った。

「ううん、大丈夫だよ。記憶を遡ってた」

決めた、記憶をどんどん捏造しよう。

梨奈と一緒に行ったカフェ、テーマパーク、カラオケに加えて、もっともっと他の場所にも行ったことにしよう。梨奈と一緒に行った場所の中にさりげなく、命と一緒に行きたい場所を混ぜるんだ。うまくやってしまえばきっとバレない。ありもしない思い出を作り上げて、梨奈とここでああしたこうしたと言う俺に、優しい命は心から同情し慰めの言葉をかけてくれるだろう。俺の寂しさを分かって、寄り添い、励ましてくれるだろう。命の優しさを利用することになるので罪悪感が沸いたが、それでも俺は命との思い出巡りの旅をできるだけ長引かせたかった。命と一緒にいたかった。

「もっちょくんミュージアムは?梨奈がもっちょくん好きで一緒に行ったんだ」
「いいじゃん!そこ俺も真帆と行ったよ。2人同時に思い出巡りできて、一石二鳥かもな」

命が屈託のない笑顔を俺に向ける。本当に、随分元気になった。嬉しくなると同時に胸の奥がかすかに痛む。
俺と命が巡っていない命と真帆ちゃんの思い出の場所は、インスタを少しスクロールするだけで確認できるくらい少なくなっていた。