おひとり様再発見

辛子高菜と明太、どっちからいこうか迷い、明太から箸をつける。

「……ご飯が欲しい」

無意識に手が、メニューを取っていた。
よく出汁が染み、ピリ辛でぷちぷちとした明太はご飯を欲している。
これは絶対、白ご飯にのせて食べたい。
メニューにはご飯があるものの、頼むかどうか非常に悩んだ。
〆にちゃんぽんはマストだ。
ご飯とちゃんぽん、両方私のお腹に入るのか?
悩む私の前で鍋は噴きこぼれそうになっていて、慌てて火を弱めた。

「……うん」

メニューを閉じ、元の位置に戻す。
残すのは悪いし、私は絶対にちゃんぽんが食べたい。
そうなればもう、ご飯は諦めるしかないのだ。

トヨミツヒメサワーを片手に明太を食べてしまい、辛子高菜に手をつける。
ピリリといい塩梅の辛さと、高菜特有の香りが鼻を抜けていった。

……ご飯が欲しい。

はい、二回目。
どうしてこう、ご飯が恋しくなるものばかり……って、素直に鍋だけを頼まずにセットにした私が悪いんですが。
だって!
なぜかセットのほうが、もつ鍋単品より税抜き三百円安かったんだもの!

そうこうしているうちに鍋がいい感じに煮える。

「いただきまーす」

いそいそと皿によそい、早速食べる。

……キャベツ、あまーい!

柔らかい味噌の味と甘いキャベツがよくあう。
しかもまだシャキシャキとした歯ごたえも残っており、最高だ。

……モツもぷりっぷり。

臭みのないモツはもう、旨味しかない。
こんなに美味しいモツを食べたのは初めてかも。

……しかも、ごぼうがさー。

千切りのごぼうが歯ごたえにアクセントを与え、入っているゴマがスープに深みを与える。
ニラももちろん、美味しい。

……で、ここにトヨミツヒメのサワーを。

冷たいサワーを一気にごくごくと飲む。
熱く濃厚になっていた口を冷たく少し甘いサワーが流していった。
しかも、口に入ったトヨミツヒメの、果肉のタネがぷちぷちとした食感で、またいい。

……控えめに言って、最高なんですが。

こんな贅沢をしていいのかという気分になったが、同時に今までの自分はこんな贅沢すら許されていなかったんだと気づいた。

彼と一緒にしゃぶしゃぶの食べ放題に行ったことはあるが、作るのも皿に取るのも私で、彼は文句を言いながら食べるだけだった。
しかも私はそんな具合でほとんど食べていないのに、彼がお腹いっぱいになった時点で帰らされた。

「そっか。
ひとりなら気にしなくていいんだ」

豚骨ラーメンに半チャーハンと餃子をつけても、誰も文句を言わない。
鍋だって自分のペースでお腹いっぱいになるまで食べられる。
……毎日朝早く起きて、彼の理想の女に変身する必要もなくなる。

なんで私、今まであんなヤツに気を遣っていたんだろう?
ああ、そうだ。
最初は自信満々で意識の高いことを言う彼に憧れていたのだ。
けれどあれはただのハリボテで、実際は自己中な男だと気づいてしまった。

「ふふっ」

やっと彼の正体を悟り、小さく笑いが漏れる。
見栄を張った皮だけを一年も見ていた自分がバカらしい。
けれど気づいてしまった今、もう彼に付き合う必要もない。

いつのまにか手もとのジョッキは空になっていた。

「すみませーん、あまおうサワー、お願いしまーす!」

明日も仕事だとわかっているが、今日はもう一杯、飲んでいい。
おバカな自分との送別会だ。