おひとり様再発見

朝、起きたら彼はいなかった。

「まだ怒ってんの……?」

携帯を確認するが、メッセージは届いていない。
もっとも、私もあれから送っていないが。

「……はぁーっ。
これは私から謝るまで、帰ってこないってことですか」

どんよりと思い気持ちで身支度を済ませる。
長い黒髪は丁寧に巻いて緩めのひとつ括りに。
化粧はナチュラルに見えるが手はかかってる。
服は、キレイめのパンツスーツだ。
丁寧に時間をかけ、野暮ったい私を二十代後半デキる女に変身させる。
……本当は心のどこかで、面倒くさいと思いながら。

朝食は食べずにマンションを出た。
引きずるスーツケースが心なしか重く感じた。
今日から二泊三日の福岡出張だ。

昨日、些細なことで彼と喧嘩した。
身体を求められたが、翌日は出張で朝早いから拒んだのだ。
そうしたら。

『未姫(みき)は俺のこと、愛してないんだな』

……と、酷く腹を立て、止める間もなく出ていった。
きっとネカフェか友人宅に泊まったんだろうが、今朝になっても帰ってきていない。

飛行機の搭乗時間を待ちながら、携帯を見つめる。
私が謝れば済む問題なのはわかっていた。
でも、なんて?
そもそもあれは私が悪いんだろうか。
ぐるぐる悩んでいるうちに搭乗が始まった。
結局、なにもメッセージを送れないまま、私は携帯をバッグにしまって立ち上がった。

福岡へと向かう飛行機の中でも、ぼーっと彼のことを考える。
知り合ったのはマッチングアプリで、もうすぐ付き合って一年、同棲を始めて半年になる。
そのあいだ、何度か喧嘩もしたが毎回、謝るのは私だった。

「私が謝ってくるの、待ってるんだろうな……」

眼下に広がる雲は灰色で、私のため息が形になったようだった。

予定どおりの時間に福岡に到着した。

「先に昼食、済ませるか」

アポイントの時間まで余裕があるので空港内をうろうろする。
そのうち、ラーメン滑走路なるものを見つけた。

「ラーメン……」

そんなものを食べるのはいつ以来だろうか。
彼氏との外食はやたらとこじゃれたお店ばかりだったが、私はこういう庶民メシが好きなのだ。

「ひさしぶりに行くか」

私はふらふらとラーメン滑走路へと吸い込まれていった。