学校の呪いを解くために、幼馴染とオカ研部長と三角関係に!?

「ああ、来たね。おっと、付き添いのイケメン君も入部してくれるんだね。まあ、人は多ければ多いほどいいさ。さあ、入って入って。僕たちの部室だよ」

次の日の放課後、俺と涼太はオカ研部室へ集合していた。
申請は受理されたのだろうか。部長からはなんの説明もなかったが、扉にかかっている『オカルト研究部』の看板は、まるで昔からあったかのような存在感を放っている。
霧崎部長は、部室を訪れた俺たちを当たり前のように教室の中へ誘った。

「え、何この部屋」

その部屋を見た涼太はドン引きしていた。部屋自体は4畳程度であまり広くないが、壁の本棚には都市伝説、心霊スポット、七不思議など、オカルトに関する本がずらりと並んでいる。教室の隅には小さな盛り塩。そして教室の真ん中、突き当たりの窓際には、机と椅子を組み合わせて作られた祭壇のようなものがあり、上から大きな黒い布が被せられていた。その中心部には白いインクで魔法陣のようなものが描かれており、何らかの儀式を試みた痕跡がある。その不自然なオブジェクトは、夕暮れ時の光に照らされて影を作り、不気味な雰囲気を醸し出していた。

「……俺この部屋入りたくない」

ぷるぷると震えながら、涼太が俺を見つめてくる。しかし、この異様な部屋を見た俺は、自分の中に眠っていたオカルト心が呼び覚まされるような気分になっていた。

「す、すげえ……!! これ、プレミアつきすぎて、通販サイトだと5万とかでしか売ってないやつじゃん!! え、これってビデオテープ?? 1990年代の心霊スポットドキュメンタリー!?」

かつてない情報量に圧倒された俺は、どこから手をつけていいかわからなかった。これほどのコレクションを収集できるとは、部長は一体何者なのだろうか。

「まあまあ、後で読ませてあげるから。それよりも、さ」

部長は意味深にそう告げると、ゆっくりと歩いて中央の祭壇に腰かけた。

「そこって座っていい場所なんだ……」

祭壇から距離を取り、入口付近で固まっていた涼太がぼそっと呟く。

「新生☆オカ研部員として、君たちにお願いしたいことがあるんだよね」

祭壇に腰かけたまま、部長は足を組んだ。そして膝に肘をつき、両手に顎を乗せて俺たちをじっと見つめる。

「……知ってる? 学校の呪い」

呪いと聞き、俺は部長が昨日の放課後に言っていたことを思い出した。

「知らないです。その、呪いってなんですか?」

くくく……と不気味に微笑み、部長は言葉を続ける。

「学校の、恋の呪いだよ。どうやら今年の4月ごろから、校内で不気味な現象が起きているんだ。それは……校内でカップルができても、絶対に別れてしまう、ということさ」
「カップルが別れる?」

それはどういうことだろうか。
俺みたいな人間にとっては、カップルが誕生することの方が奇跡的で不可思議な現象なのだが、どうやら世間的には違うらしい。そもそも、カップルが別れてしまう、というだけで、呪いに成り得るのだろうか。

「うん。僕調べによると、告り告られ、見事に両想いになった男女が居るらしいんだが、あるときフッと別れてしまうらしい。それだけかって思うかもしれないけど、その別れが本当に突然で、本人たちに聞いても怯えたようにするだけで、良くわからないらしいんだ」
「……だいぶ曖昧ですね」

後ろで黙って話を聞いていた涼太が、静かに口を開いた。

「そう!! 曖昧なんだよ!! なにもかもが!! だって自分たちで別れたんだよ?? それでさ、別れた理由も言えないなんて、しかも1組や2組って話じゃないらしいじゃない。こ~れ~は、超常現象と言えると思うんだな」
「なるほど、それは確かに気になりますね」
「でしょう! さすがオカルトオタクくんだねえ! 僕ちなみに僕は、幽霊か、それに類する何かの仕業なんじゃないかと思っているんだが」
「ほう……」

俺はオカルトやホラーが好きだが、特段霊感が強いというわけではない。心霊スポットに行ってもいまいち真価を感じられず、自分の体質を恨むこともあったが、そんな俺が、初めて超常現象に直面するのだ。気にならないわけがない。

「つまりね、君たちに、囮作戦をしてもらおうと思ったんだ」
「囮作戦?」
「そう。尚樹君とイケメン君……涼太君に、偽装カップルをやってもらって、どんな妨害を受けるのか、実験したいんだ!」
「「偽装カップル!?」」

部長の荒唐無稽な提案に、2人の声が重なった。

「俺と、涼太が……!? む、無理です!! 無理無理!!!!」

俺は全力で手を振った。

「なんで? ただの偽装だよ? あ、もしかして、やっぱりもう2人って既に付き合っていたの?」
「どうしてそうなるんですか!?!?」
「そう見えたから、昨日忠告したんだよ~」

昨日俺たちに『呪いに気をつけて』と伝えたのは、そういう勘違いからだったようだ。

「付き合ってないですよ……」
「あ、なんだ、そうなんだ。じゃあ尚更いいね。正真正銘、偽装なら失うものもなにもないね~!」
「そういう問題じゃないです!」
「うーん、涼太くんはどうなの? ここには3人、涼太君と、僕で賛成に票を投じれば、多数決で偽装カップル案が成立するよ」
「勝手に決めるな! 涼太も何か言ってくれ! ……涼太?」

依然として部長と距離をとったまま、涼太は何やら考え込んでいる。

「おーい、どうした涼太……」
「あ、いや、俺と偽装カップルになるの、そんなに無理かなって」
「なんでそこに傷ついてんの!?」
「あんなに全力で否定することない……」

案外本気で傷ついているらしい涼太は、まるで枯れかけた花のようになっていた。なんだか申し訳なく思えてきた俺は、必死で頭を捻らせる。

「あ、あのな、涼太。俺は涼太と、っていうところじゃなくて、カップルってところからもうダメなんだよ!! け、経験ないし、仮に霊がいたとしても、偽装だって即バレて、きっと何も起こらないぞ!!」
「俺がサポートするよ、そういうの得意かも」

必死で抵抗する俺に対し、自分をプレゼンしてくる涼太。そんな異様な対立構図が繰り広げられていた。

「おお! 涼太くんも賛成かな?」
「まあ、はい。俺は全然かまいませんよ」

涼太は何を気にする様子もなく、涼しい顔でそう言ってのけた。

「ヨシ! はい、じゃあ今多数決で決まったね。今日から2人は恋人同士だ!!」

部長は心底嬉しそうに手を叩いている。

「おい涼太! 何、勝手に賛成票入れてんだよ!!」
「まあまあ、俺に任せて」

不安な俺を横目に、記念すべき偽装カップルとなった幼馴染はやる気十分だ。その目には、普段の無気力な感じとは全然違った熱が込められていた。

「うんうん、2人は良いコンビだし、普通にやってても幽霊を騙しきれるんじゃあないかな。いやー面白くなってきたねえ」
「……部長、意外といい人なんすね」

涼太は一体、何に絆されかけているのか。全然いい人なんかじゃない。

「てか、本当に幽霊がいるのかもまだ分からないのに、早とちりして男2人で恋人ごっこって……普通に恥ずかしいだろ。他のカップルに密着するとかじゃダメなわけ?」

好ましくない話の流れを是正すべく、俺はせめてもの抵抗を試みた。実際、潜入捜査をするには、時期尚早なのではないかと思うのだが。

「それはそうだけどねえ~、ほら、僕って、こんな感じだからさ、友達とかいないんだよね」

部長は平然と言い放った。自分が変人であるという自覚はあったのか。

「逆に聞くけどさあ、他のカップルに密着って、尚樹君はそんなことできるの?」
「うっ……」
「ね、それなら慣れてる友達と恋人ごっこした方がいいから」

よくよく考えたら、俺にも友達はいない。なんだこの研究部は。所属している人間の3分の2は友達がいないじゃないか。

「わ、わかった。仕方がないから、この提案に乗ってやるよ……」

俺は観念して提案を受け入れることにした。