学校の呪いを解くために、幼馴染とオカ研部長と三角関係に!?


「うーん、奇妙だねえ」

いつも通り俺と涼太がオカ研部室へ向かうと、そこで部長が1人、じっと考え込むように立っていた。

「……どうしましたか」

昨日、俺の部屋で衣服が紛失した出来事を思い出す。部長が帰ったあとも借りた服を探したが、結局見つかることはなかった。もしかして、また何か不可解な現象が起こったのだろうか。

「ああ、この前持ってきた服のね、選ばなかったものをこの部室に置きっぱなしにしておいたんだ。それがどこにもないんだよ」
「えっ」

思い返せば、海でデートをした一昨日、俺は服を着た後すぐに部室から引っ張りだされた。昨日は2人とも俺の家へお見舞いに来ていたわけだから、部長が選ばなかった服が散乱したままでないとおかしいのだが、今日の部室は見る影もなく整然としている。

「……服?」

一昨日のことを知らない涼太だけが、頭上に疑問符を浮かべて首を傾げた。

「浜辺デートに使う服を持参したんだ。3着くらいは部室に置き去りにしたはずなんだが、それが一式なくなっている」
「……そうなんですね。昨日、俺たちが部室にいない間に、顧問の先生が片付けたんじゃないですか」
「いやあ、顧問の先生なんてオカルト研究部にはいないも同然だ。僕が来ないように念を押しているからねえ」

どんな研究部だ、と心の中で小さくツッコミを入れた。しかし、その言葉を信じるならば、昨日に限ってピンポイントで顧問の先生が訪れたという可能性は極めて低い。

「まあ、呪いがその頭角を現したというわけだ。僕が提案したカップルのペア交換が、有効に作用したと言えるだろう」

確かに、部長と偽装カップルになった瞬間、ものの1日で効果が現れた。

「……昨日だけなら俺が失くした可能性もありましたけど、ここにあった服もなくなるなんて、確かに変ですよね」
「ああ。でもこれは良い兆候だ! 今日も引き続き偽装カップルをやっていこうじゃないか!」
「え、効果出たんだから、もうよくないですか?」
「何を言っているんだ。まだ僕たちは別れていないし、原因究明に至っていない!」
「……」

飽くなき探求心を持ったこの部室の長は、勢いよく振り返り、目を輝かせる。

「今日は、高校近くの神社で風鈴祭りがやっているらしい。神社に風鈴……まあ、霊を呼び寄せるにはなんとも言えないが、デートスポットとしては最適だろう。屋台も出ているらしいからね」
「風鈴祭り……」

俺たちが通う高校の近くにあるS神社は、古代から魔除けの効能が強いとされている。その割に、拝殿横の細道を抜けた先にある小さなトンネルは、地元でも心霊スポットとして子どもたちの間で密かな人気を誇っており、その矛盾がなんともシュールで俺も好きな場所ではあった。
6月末から7月上旬まで開催されている風鈴祭りは、暑い時期に向けて鈴音で涼みましょう、というコンセプトの他に、こういった魔除けや厄除けの意味も含まれている。

「昔はよく行ってたね」

涼太は柔らかい声色でそう言った。彼はこういった祭りごとが好きらしく、懐古的な表情を浮かべている。

「小学生くらいか、懐かしい」

俺も釣られて記憶を辿る。小さいころは2人でよくこの祭りに赴いていたが、俺は大抵その奥にあるトンネルへの興味が抑えきれず、屋台や風鈴の音を楽しむのもほどほどに、幼い頃の彼を強引に連れ回していたような気がする。

「久々に行くのもいいかもな」

中学生になりオカルト熱が加速した俺は、涼太に誘われることはあっても断り続けていたように思う。部長との偽装とはいえどうせ彼もついてくるのだろうし、久々に祭りの賑やかさに当たるのも悪くはない。

「うんうん。涼太君も来るよね」
「もちろん行きます。……あ、でも」

部長の誘いに頷きかけて、何か思い出したかのように動きを止めた。

「……今日って屋台出てるんだ」
「そうみたいだな」
「ダメだ。俺は行けない」
「え、なんで」
「早く帰って来いって、母が」
「……そうか」

涼太は悲し気に目を伏せる。久しぶりの祭りを幼馴染と楽しめない事に、俺も少々落胆するが、ダメなのならば仕方がない。しかし、中学生の頃は買い食いをして帰ったこともあったし、寄り道で遅くなることもあった。折り合いが悪いのかなんなのか、分からないが……やはり、俺の中には彼の家がそこまで厳格であるというイメージがない。

思えば、偽装カップル期間も、放課後デートをした日以外は「家の用事がある」と言って帰宅していたことが、今になって妙に胸に引っかかる。
もともと自分のことをあまり話さない奥ゆかしい幼馴染だが、ここ最近の彼はことさら窮屈に見えた。

「涼太、何かあったら言えよ。俺は何もできないけど……話聞くくらいなら」
「ううん。本当に何もないから、大丈夫。……ありがとう」

俺が声をかけると、彼はふわりと笑った。揺れる瞳には安堵と心残りが映っているように見える。
次の瞬間、涼太はくるりと身体の向きを変え、

「部長、尚樹になにもしないでくださいね」

部長へ相変わらずの牽制が飛ぶ。牽制を受けた男は、こちらも相変わらずへらへらと笑い「なにかしたことなんかないけどねえ~」ととぼけて見せている。

あっという間に見慣れた光景だ。いつもは勘弁してくれと嘆くところだが、怒る元気はあるのだという事実に、少しだけ安堵した。