夕ご飯は桃パフェとクリームボックスとカフェオレ

 8月の頭、出張に行くために、私は新幹線に乗っていた。
 本日の行き先は福島県の福島市。初めましての場所。福島は横長に長い県で、浜通り、中通り、会津、と分かれていて、福島市はその中通りに位置する県庁所在地だ。

円盤餃子でしょ、いかにんじん、それに、ラーメンも、美味しそうなお店をいくつか候補に入れてて……

今、私の頭の中に浮かんでいたのは、出張先で食べたい美味しいもののことだった。
ついさっき、出発駅の中で迷わず買った、新発売の『ピリ辛ソーセージドッグ』を食べたばかりでお腹は満たされているというのに。

「美味しいもの、いっぱい食べたいなあ……」

今日は出張。でも、私の頭の中を埋め尽くしていたのは、これからの仕事のことではなくて、福島の美味しいもののことだった。

 大原味穂(おおはらみほ)という名前、の通り、私は食べることが大好きだから。

 味穂(みほ)という、ちょっと珍しい漢字を選んだのは、私が3歳の時に亡くなったおばあちゃんだ。
戦争の中で、子ども時代を過ごし、お腹を空かせていたおばあちゃん。「子どもや孫には、たくさん美味しいものをたくさん食べて欲しい」という想いを込めて漢字を選んでくれたそう。
 いくつかの候補の中で、お父さんとお母さんと相談しつつ、、漢字は食べものとは切って切り離せない“味”、という文字。そして、お米や麦をイメージした“穂”、という文字を使った名前だ。
 ちなみに、父にも同じ願いを込めて、満男(みちお)という名前を付けたそう。
 おばあちゃんについては、仏壇の写真と、両親や親戚から訊いた、食べることが大好きな明るい人だったり、食べ物にまつわるエピソードしか記憶にない。
 けれども、私は、おばあちゃんの願いの通り、食べることが大好きで、すくすくと成長していった。

 お米がたくさんとれる、自然いっぱいの町で育って、お米と、自然の美味しさを堪能した幼少期から学生時代。給食も毎食のご飯もおかわりしていた。
 勉強も運動も突出した部分はないけれど、唯一の自慢は「全く好き嫌いがないこと」。

“大きくなったら、いろんなところに行って、美味しいものをいっぱいいっぱい食べたいです!”

 小学校の卒業文集に書き記した夢も、美味しいものにまつわることで、これは、今も変わっていない。

 会社員になって、働くようになっても、おいしいもの、のことばかりを考えて過ごしてきた。
日常では、自分の好みに合う、それでいてバランスを考えたご飯を作って食べて。外に出る日は、自分ではなかなか作れないものだったり、その土地ならではの美味しいものを食べる。今日の出張だってそう。

 誰もが憧れきらびやかな人生、だったり、SNS映えの人生、ともまた違う人生。

 それでも、私は自分の人生がすごく楽しい。

 だって、私のやりたいことは昔も今も、“いろんなところに行って、美味しいものをいっぱいいっぱい食べたい”ことだから。
 その夢を、今日も、この出張でも、追いかけることが出来るんだから、なんだかワクワクしてしまう。

「間もなく、福島、福島……」

 新幹線のアナウンスで私は現実に戻ってきた。ぼんやりとこれまでのことを思い出したら、いつの間にか到着が迫ってきているようだった。新幹線が停車する。
私は、荷物を持って立ち上がり、新幹線の扉の前へと急ぐ。

 扉が開いた。高校野球を思い起こさせるメロディーが駅構内に鳴り響いている。そのBGMで背中がしゃきりと伸びる。

「さあ、何を食べようかな……!」

意気揚々、という言葉が似合うような足取りで、私は、歩き始めた。