好きな人がいるって、もしかして俺のこと?

 相良と長谷川と別れた後、俺は朝倉似合うために教室に戻った。
 「朝倉…。ちょと…いい?」

 戻る途中、廊下を歩いている朝倉の後ろ姿を見つけ、駆け寄った。
 朝倉の左手首を掴み、歩く。
 どこか話せるところ。
 この時間…どこにいけばいいんだろう。

 しまった。目的なく連れ出してしまった。
 朝倉はそんな俺の焦った様子を見透かしたかのようにフッと優しく笑った。

「水木…こっち」
「あ…」

 旧校舎、音楽準備室。
「ここなら誰も来ないから」

 2人きりになるのは久しぶりだった。

 朝倉の体温が…掴んだ手の先から伝わってくる。

 手首を掴んだまま振り返る。
 しばらく見つめ合った後、「……ごめん」

「え」

 朝倉が俺の掴んだ手をそっと離した。離した手のひらを上に向けると、今度は朝倉の両手に優しく包まれた。

「はあ…。水木だ。おれ、ちょっと水木不足だったから。少しこうさせて」

 ただ手を握られているだけなねなに、朝倉からの好きが伝わってきてくすぐったい気持ちになる。

「好きなだけ、そうしてろよ」

 俺だって、触れられていたい。

「あのさ…朝倉」

 俺が話を切り出そうとすると、朝倉はそっと俺の唇に指先を当てた。
 待って、言わないで。

 言われた気がした。

 朝倉は俺をまっすぐ見ていた。

「水木…。ごめん。水木が俺の気持ちに応えられなくても。俺、頑張りたい。諦めたくない。好きだから…。もう少し頑張らせて…欲しいです」

 振り絞った声が…震えていた。

「朝倉」

「うん?」

「俺は今、お前に気持ちを伝えるためにきたんだよ。
ね、朝倉。これから女の子に告白されたらさ、好きな奴がいるって言わないでほしいんだ」
 
 はっきり言わないと伝わらないと思った。
 だからこそ、言いたい。
 はっきりと。

「付き合ってる人がいるって。ちゃんと言ってほしい」

 朝倉が驚いた顔をしてる。

「お前の事、好きになっちゃたんだよ。朝倉、ずっと距離感おかしくて、俺その度にキュンキュンしちゃって。いつの間にか好きになってた。だから勘違いじゃなくて本当よかった。俺だけ特別だってわかって安心した」
「水木…」

 わかったか!と朝倉を見上げる。
 朝倉は俺の肩を抱き寄せ、俺の肩に顔を埋めた。

「水木の匂い。すげー落つく」
「うん…」
「好きだよ、水木。付き合って欲しい」
「うん。付き合おう。俺たち」
 朝倉に抱きしめられたまま、目を閉じる。
 ひどく心地よい。

「キスしたい」
 朝倉の甘えた声。
「…ん」

 キスなんてした事ないから緊張した。
 朝倉は優しく微笑んで、顔を寄せて来た。
 一瞬かと思ったキスは、ずいぶんゆっくりと唇が重なって…。
 
 こうして俺たちは付き合うことになった。


⭐︎
 
「あれ?朝倉は?」
 売店から戻った相良。
 朝倉は昼休み、女の子から呼び出されて行ってしまった。
「多分、告白かな」
 俺が答えた。

「あー。それ水木的には大丈夫なの?」
「大丈夫って?」
「付き合ってるんだろ、お前ら」
 長谷川がこちらをみた。

 この2人なら大丈夫だからと、朝倉が言うから俺たちのことは伝えていた。

 相良には「おめでとう」と言われた。長谷川は特に何も言わず当然の結果だなと頷いていた。

「あ、帰ってきた」

「ただいま」
「おかえり」

「飯、一緒に行こう」
「うん」

 相良と長谷川が屋上へ向かう。
 その後ろを2人でついていく。
 時々手や肩が触れるたび、未だドキドキしていた。
  
「付き合うって…すごいな」
 朝倉が言う。
「ちゃんと言った通りに断ったんだ」
「断ったよ。だからさ、褒めてよ。もっと」
「え?」

 朝倉が、俺の手首を掴んで朝倉の頭に誘導する。

 撫でて欲しいのかよ。

「水木も俺に思わせて欲しい。俺の事、好きなんだなぁって。思わせてよ」

「俺にはそんなスキルねーよ」

 スキルはない。
 でも自分の素直な気持ちは伝える事はできる。
 好きなものは好きだと、勘違いなんかじゃなくきちんと言葉で伝えてやる。

「俺は朝倉が好きだよ。そーゆー可愛いところも全部」

 勘違いしてもらっては困るから。

 
 

 

 
                  【おしまい】