好きな人がいるって、もしかして俺のこと?

 休日に友達と会うだけ。
 ゲームセンターで取れたフィギュアを受け取るだけ。

 きっと朝倉は、クレーンゲームがしたかっただけなのかもしれない。
 別に俺のために俺の好きなキャラを取ろうとしたわけではないかもしれない。
 思い上がりすぎた。

「ただ受け取るだけ。何もない。うん」
 
 朝倉が自分に寄せている好意は友達としてのそれだと言い聞かせる。

 とはいえ。ただ友達と休日に会うだけだというのに。
 なかなかハードルが高い。
 相手は一軍男子である。

 朝倉の友達としての好意に勘違いしてうっかり好きになりそうな自分がいる事に、実は少しずつ気づき始めていた。
「2人で会うとか、誘い方がデートみたいなんだよ」
 サラッと恥ずかしい事いいやがって。


「うわ、目立ってるなぁ…」

 待たせてはいけないと早めに出たはずなのに朝倉は先に集合場所についていた。

「あの子かっこいい」

 すれ違った女の子達が振り返ってみている。

「これから彼女とデートかなあ」
「いるよねー、彼女。あんなにかっこいいもん」


 すいません、彼女じゃなくて…。

 自分が朝倉と釣り合うとは到底思えない。

 寝癖がついていないか、せめて服の皺くらいは直そうと身なりを整えてると、
「水木!」

 朝倉が俺に気づいてこちらにやってくる。
 ドラマのワンシーンのようだ。
 カッコ良いかよ。
 
「おはよ」
「あ。おはよう…」
「…」
「な、なに?なんか変かな」
「いや。水木の私服、水木らしいなぁって。可愛い」
「…朝倉はなんか。めちゃオシャレだな」

 無駄がない。
 シンプルなら装いなのに小物を上手く使いこなしている。着こなしが素敵すぎる。
「ハイこれ」
 フィギュアは紙袋に入っていてわざわざ可愛い袋に入れてある。
 プレゼント感が凄すぎるんですけど…。
「あ、ありがとう」
 受け取ろうとすると手を繋がれた。

「じゃ。どこ行く?」
「え…。てか、今日は受け取るだけのはずじゃあ…」
「そんなの寂しいじゃん」
「じゃんて…」
「折角休日に会えたんだからちょっと付き合ってよ」
 それって…。

 デートみたいじゃんか。


 2人で歩いているだけなのに。
 すれ違うたびに視線を感じる。
 イケメンは外出先でも注目されるんだな。

 ふいに、朝倉のスマホが鳴った。
「出なくていいの?」
 画面にはグループ通話になっている。
「あー。あいつらだから大丈夫」
「相良と長谷川?」
「うん」
「もしかして遊ぶ予定だったとか?」
「いや、水木と会う予定って言ったからきっと冷やかしにきたいだけ。無視」
「俺は別にみんなとでもいいけど…」
「俺が嫌なの、水木のそれ、わざと?」
「え…」
「いや、やっぱなんでもない。どっか行きたいとこある?なければ行きたい場所あるんだけどいい?」
「え、あ。うん」
 うんて。なんだよ。
 すっかり朝倉にリードされてしまう。
 しかも嫌じゃない。
「ってか、手は離せよ。恥ずかしいだろ」
「残念」

 朝倉が素直に手を離した。
 本当は嬉しかったけど。
 全く俺も素直でないな…。

⭐︎

 商店街の本屋の一角。
 文房具を見たいと朝倉のリクエストで朝倉は俺とお揃いのシャーペンを聞いて来て迷わずレジへ向かった。
「前に借りた時めちゃ書き心地良くていつか同じの欲しいな。って思ったんだよね。それとこれ」
「え、なにこれかわいい」
「可愛いよな」
 ボールペンの頭がキャラクター仕様になっていて可愛らしい。持っているだけでテンション上がりそうだ。
「これは買い物付き合ってくれたお礼。ちなみにこれもお揃い買いました」
 友達だよね。
 その好意は、友達へのものだよね。
「ありがとう…」
「うん」
 嬉しいんですけど…。 
 全然らしくないに、朝倉が可愛いボールペンを選んでくれた事も。

⭐︎
  

 買い物の後に2人で流行りのクレープ屋に並んでそれぞれのクレープを交換してみたり、ジュースを一緒に飲んでみたり。
 口の端についたクリームを指先で取ってくれた時は恥ずかしくて耳まで赤くなってしまった。
 なんだかこれって完全デートでは。
 
 やばい。
 めちゃくちゃ楽しい。
 
 楽しいけど、急に不安になる。
 モヤモヤと澱んだ気分が、言いたくもない言葉を俺から吐かせてしまう。

「朝倉ってさ、誰にもそうなの?」
「そうって?」
「なんかさ、今日みたいなこーゆーのも、普段も。あれじゃあ勘違いしちゃうよ。その…もしかして好きなのかなぁって。良くないよ、その…朝倉はさ。そーゆーの気にしないかもしれないけど。俺は気になるっていうか…」
「気になってくれてたの?」
「そ、そりゃあ。あんだけ距離感バグられたらさ」
「……気づいてた?俺の気持ち」
 今、なんて言った?
「き、気づくとか気づかないじゃなくてその…。あれ?勘違いじゃなくて?」
「勘違いの方が、良かった?」

 朝倉の真剣な眼差しと目が合った。

「勘違いじゃなかったとしたら?水木は俺の事好きになってくれるの?俺と付き合ってくれるの?」

「え……」
 言葉に詰まる。
 自分の中で明確な答えがでてこなかった。

「好きなんだ。水木の事。勘違いなんかじゃない」

 どれくらいの間、沈黙があっただろう。

「ごめん、迷惑だよな。急にこんな話」

 朝倉は「ごめん」と一言呟いた。

 謝る必要なんてないのに。

 ちゃんと気持ち…伝えてくれたのに。
 
 俺は答えを持ち合わせていなかった。