「ごめん、水木。教科書忘れた。悪いけど見せてよ」
「あ、うん。いいよ」
「ありがと」
ただ教科書を見せているだけ。
それだけなのにこんなに気持ちがざわつくのは、こいつの顔面偏差値がものすごく高いからだ。
俺の名前は水木 充《みずき みつる》。
高校生になって成長期を期待したけれど、俺の身長は165センチで完全に止まってしまった。かわいいもの、甘いものが大好きなごく普通の高校生。
彼女は未だかつていた事はないし、好きな物は沢山あるけど好きな人については正直よくわからない。
特に刺激もなく穏やかな高校生活。
そんな悪くない日常はほんの些細なきっかけで一変する。
高校2年生に進級して数週間が経ったころ行われた席がえで、俺は窓際の1番後ろの席になった。
俺の隣にはクラスの一軍、朝倉 晴人《あさくら はると》。
ただそこにいるだけで目を引くモデルのようなスタイルと顔の良さ。顔もよく愛想もいいものだから彼の周りには常に彼と付き合いたい女性が後をたたない。
高校入学当時から彼女が切れたことはなく、いつも誰かしらと付き合っては別れ、また付き合っての繰り返し。
別れた噂は直ぐに広まって、彼の空いたスペースを常に取りあっていた。
俺には全然関係ない世界だけど。
⭐︎
朝倉と隣の席になって完璧に見える朝倉だけどかなり抜けている事がわかった。
まず忘れ物の多さ。
異常なほどに毎日教科書やら消しゴムやらシャーペンを忘れてくるのだ。
その度に俺に「貸して」とあの笑顔を向けてくる。
可愛いものが好きだから、匂いのする消しゴムや時にはキャラクター物のシャーペンを貸すたびに、
「水木の持ってるやつ、だいぶかわいいな」
バカにせず優しく笑ってくれる。
こういうところも、女子を虜にさせる要因なのかもしれない。
そして貸したシャーペンで俺の教科書に落書きまでする始末。
「お前、それやめろよ」
「ふふっ。水木の好きなキャラ描いてみた」
へへっと笑うと目尻に皺がよる。
イケメンでいて、イタズラっ子だ。
そんな朝倉をたまにかわいく思えてしまう。
カッコよくて可愛い。最強すぎる。
困ったことに距離感バグな朝倉の。俺に対する行動全てが好意に思えてしまう。
女子だったら、勘違いしてしまいそうだ。
イケメン、本当に怖い。
⭐︎
先日、こんな事があった。
自分の見た目には興味がないけれど、流石に伸びた前髪がうざいなぁと思い、指先でくるくる髪を巻き付けていた時の事。
「髪、気になる?」
そう言って、朝倉の、スラリと長く透明感のある手が俺の髪をかき分けた。少し斜めに髪を整えてから、
「うん。いいね」
さらりと言うのだ。この男は。
目が合うとどきりとしてしまって、俺はわざわざ前髪を自分でぐしゃぐしゃにした。
その行動が朝倉のツボにハマったのか微笑まれた。
う…。イケメンの距離感がわからない。
そしてとてつもなく朝倉の笑顔には破壊力がある。
あれを隣で毎日浴びていたら、俺はどうなってしまうのだろう。
アイドルは遠目で愛でるくらいが俺には丁度良いのだ。
こんな風にファンサされてしまうと勘違いも加速してしまう。
そしてあれだけ来るもの拒まずだった告白を、急に断るようになった朝倉。
進級してからこの数ヶ月、彼は誰とも付き合っていない。告白される事は変わらずあるようだけど『好きな人ができた』と断っているとクラスの女子達が話していた。
本命がいるから、今は誰とも付き合えない。
女子と話す事も目にする機会が減っていて、今は友人の相良、長谷川といる姿を多く見かける。
当初は朝倉の好きな子は誰だと騒いだ者もいたらしいが、『好きな人がいる』と言う言葉はかなりパワーがあるようで。
俺から見ても、朝倉が告白に連れ出される頻度は減ったように思う。
べ、別に俺には関係ないけど!
⭐︎
授業終了のチャイムが鳴った。
さあ、昼休みだ。
俺はそそくさと教科書、ノートを引き出しにしまい込む。
「見せてくれてありがとう」
「ああ、うん」
右隣から視線を感じるが、無視しよう。
「な、水木。昼飯俺らと…」
「ご、ごめん、今日は北野達と食べるから」
朝倉が全て言い切る前に遮った。
あ。まずい。
自分でも驚くほどに声がでていた。
「じゃあ明日は?」
「あ、明日?」
「うん、明日」
「…てかさ、あの、その…。誘ってくれるのはありがたいんだけどさ。…なんで俺?」
「なんでって。そんなん、俺が水木と一緒に食べたいから一択なんですけど」
「……」
「仲良くなりたい。水木と。知りたいの、俺が水木のこと。水木が言ったんじゃん…」
「え…。なんのこと?」
真っ直ぐに水木をみた。
どきりとするセリフをこの整った顔面で言われると本当に心臓に悪い。
意味のわからないことを言われ、困惑している俺の元へお調子者の陽キャイケメン相良と、クールイケメン長谷川がやって来た。
「お、また朝倉が水木にフラれとる」
ケラケラ笑いながら相良が朝倉の肩に腕を回す。
「お前は距離の詰めかたがおかしい」
淡々と長谷川が語る。
「悪いな、水木。こいつちょっとおかしいやつだからさ。許してやってよ。朝倉も、水木迷惑がってるの気づけよな」
いや。
迷惑というか…。
「こいつ。今までモテ過ぎてなんもしなくても向こうからやってきてたからさ。友達の作り方もわかんねーらしいんだわ」
「おい。相良」
「ちょとおかしいけど、いい奴だからさ。こいつ」
「仲良くなりたいんだよ。水木と」
長谷川が補足した。
「あー、もうタンマ。そこまで。余計なことベラベラ離さなくていいんだよ。ちょっとお前ら話がある。
水木、じゃ」
「あ、あ…。うん」
これ以上余計なことを話すなと、相良と長谷川に告げて、3人は教室を後にした。
「友達…」
友達になりたい?朝倉が俺と?
「困ってないじゃん」
いつも周りに人がいて。
明るい輪の中心にいて。
なんで、俺?
距離を詰めてくる朝倉。
好きな人がいると告白を断り出した朝倉。
え…?
朝倉ってもしかして俺のこと…好きってこと…ないよな?
いやいや、何考えてるんだ俺。
そんなわけないじゃないか。
だって朝倉は今までだって彼女がいたわけで…。
でも。
「かんちがい、しちゃいそう…」
あんな風に好意を向けられたら…。
気にならないわけ、ない…。
「あ、うん。いいよ」
「ありがと」
ただ教科書を見せているだけ。
それだけなのにこんなに気持ちがざわつくのは、こいつの顔面偏差値がものすごく高いからだ。
俺の名前は水木 充《みずき みつる》。
高校生になって成長期を期待したけれど、俺の身長は165センチで完全に止まってしまった。かわいいもの、甘いものが大好きなごく普通の高校生。
彼女は未だかつていた事はないし、好きな物は沢山あるけど好きな人については正直よくわからない。
特に刺激もなく穏やかな高校生活。
そんな悪くない日常はほんの些細なきっかけで一変する。
高校2年生に進級して数週間が経ったころ行われた席がえで、俺は窓際の1番後ろの席になった。
俺の隣にはクラスの一軍、朝倉 晴人《あさくら はると》。
ただそこにいるだけで目を引くモデルのようなスタイルと顔の良さ。顔もよく愛想もいいものだから彼の周りには常に彼と付き合いたい女性が後をたたない。
高校入学当時から彼女が切れたことはなく、いつも誰かしらと付き合っては別れ、また付き合っての繰り返し。
別れた噂は直ぐに広まって、彼の空いたスペースを常に取りあっていた。
俺には全然関係ない世界だけど。
⭐︎
朝倉と隣の席になって完璧に見える朝倉だけどかなり抜けている事がわかった。
まず忘れ物の多さ。
異常なほどに毎日教科書やら消しゴムやらシャーペンを忘れてくるのだ。
その度に俺に「貸して」とあの笑顔を向けてくる。
可愛いものが好きだから、匂いのする消しゴムや時にはキャラクター物のシャーペンを貸すたびに、
「水木の持ってるやつ、だいぶかわいいな」
バカにせず優しく笑ってくれる。
こういうところも、女子を虜にさせる要因なのかもしれない。
そして貸したシャーペンで俺の教科書に落書きまでする始末。
「お前、それやめろよ」
「ふふっ。水木の好きなキャラ描いてみた」
へへっと笑うと目尻に皺がよる。
イケメンでいて、イタズラっ子だ。
そんな朝倉をたまにかわいく思えてしまう。
カッコよくて可愛い。最強すぎる。
困ったことに距離感バグな朝倉の。俺に対する行動全てが好意に思えてしまう。
女子だったら、勘違いしてしまいそうだ。
イケメン、本当に怖い。
⭐︎
先日、こんな事があった。
自分の見た目には興味がないけれど、流石に伸びた前髪がうざいなぁと思い、指先でくるくる髪を巻き付けていた時の事。
「髪、気になる?」
そう言って、朝倉の、スラリと長く透明感のある手が俺の髪をかき分けた。少し斜めに髪を整えてから、
「うん。いいね」
さらりと言うのだ。この男は。
目が合うとどきりとしてしまって、俺はわざわざ前髪を自分でぐしゃぐしゃにした。
その行動が朝倉のツボにハマったのか微笑まれた。
う…。イケメンの距離感がわからない。
そしてとてつもなく朝倉の笑顔には破壊力がある。
あれを隣で毎日浴びていたら、俺はどうなってしまうのだろう。
アイドルは遠目で愛でるくらいが俺には丁度良いのだ。
こんな風にファンサされてしまうと勘違いも加速してしまう。
そしてあれだけ来るもの拒まずだった告白を、急に断るようになった朝倉。
進級してからこの数ヶ月、彼は誰とも付き合っていない。告白される事は変わらずあるようだけど『好きな人ができた』と断っているとクラスの女子達が話していた。
本命がいるから、今は誰とも付き合えない。
女子と話す事も目にする機会が減っていて、今は友人の相良、長谷川といる姿を多く見かける。
当初は朝倉の好きな子は誰だと騒いだ者もいたらしいが、『好きな人がいる』と言う言葉はかなりパワーがあるようで。
俺から見ても、朝倉が告白に連れ出される頻度は減ったように思う。
べ、別に俺には関係ないけど!
⭐︎
授業終了のチャイムが鳴った。
さあ、昼休みだ。
俺はそそくさと教科書、ノートを引き出しにしまい込む。
「見せてくれてありがとう」
「ああ、うん」
右隣から視線を感じるが、無視しよう。
「な、水木。昼飯俺らと…」
「ご、ごめん、今日は北野達と食べるから」
朝倉が全て言い切る前に遮った。
あ。まずい。
自分でも驚くほどに声がでていた。
「じゃあ明日は?」
「あ、明日?」
「うん、明日」
「…てかさ、あの、その…。誘ってくれるのはありがたいんだけどさ。…なんで俺?」
「なんでって。そんなん、俺が水木と一緒に食べたいから一択なんですけど」
「……」
「仲良くなりたい。水木と。知りたいの、俺が水木のこと。水木が言ったんじゃん…」
「え…。なんのこと?」
真っ直ぐに水木をみた。
どきりとするセリフをこの整った顔面で言われると本当に心臓に悪い。
意味のわからないことを言われ、困惑している俺の元へお調子者の陽キャイケメン相良と、クールイケメン長谷川がやって来た。
「お、また朝倉が水木にフラれとる」
ケラケラ笑いながら相良が朝倉の肩に腕を回す。
「お前は距離の詰めかたがおかしい」
淡々と長谷川が語る。
「悪いな、水木。こいつちょっとおかしいやつだからさ。許してやってよ。朝倉も、水木迷惑がってるの気づけよな」
いや。
迷惑というか…。
「こいつ。今までモテ過ぎてなんもしなくても向こうからやってきてたからさ。友達の作り方もわかんねーらしいんだわ」
「おい。相良」
「ちょとおかしいけど、いい奴だからさ。こいつ」
「仲良くなりたいんだよ。水木と」
長谷川が補足した。
「あー、もうタンマ。そこまで。余計なことベラベラ離さなくていいんだよ。ちょっとお前ら話がある。
水木、じゃ」
「あ、あ…。うん」
これ以上余計なことを話すなと、相良と長谷川に告げて、3人は教室を後にした。
「友達…」
友達になりたい?朝倉が俺と?
「困ってないじゃん」
いつも周りに人がいて。
明るい輪の中心にいて。
なんで、俺?
距離を詰めてくる朝倉。
好きな人がいると告白を断り出した朝倉。
え…?
朝倉ってもしかして俺のこと…好きってこと…ないよな?
いやいや、何考えてるんだ俺。
そんなわけないじゃないか。
だって朝倉は今までだって彼女がいたわけで…。
でも。
「かんちがい、しちゃいそう…」
あんな風に好意を向けられたら…。
気にならないわけ、ない…。
