ブリザーブドフラワー


その日から一頼の中で、何かが変わり始めていた。

外に出たとき、空気の冷たさは変わっていなかったはずなのに——
一頼の中だけが、ほんの少しだけ違っていた。

さっきまで感じていた息苦しさがどこか薄れている。胸の奥に、まだ熱のようなものが残っている。

(……なんだろう)

言葉にできないけれど、確かに“何か”が残っていた。

振り返ると、ガラス越しにあの絵が見えた。店内の灯りに照らされて、静かにそこに在る。

さっきまで自分が見ていたもの。さっきまで自分が触れていた世界。

(……また、見たい)

自然と、そう思った。



帰り道。

足取りは軽くなっているはずなのに、頭の中はその絵でいっぱいだった。

電車の窓に映る自分の顔をぼんやりと見ながら、何度も思い出す。

色。
光。
空気。

そして——あのとき感じた、言葉にできない感覚。

(繋がり……)

女性の言葉が、ふいに蘇る。

(……ほんとに、そうなのかな)

自分とあの絵が。そんなことが、本当にあるのだろうか。

けれど——

あの瞬に間自分は確かに何かを受け取った気がした。それだけは、否定できなかった。



その夜。
ベッドに入っても、なかなか眠れなかった。部屋は静かで、時計の音だけがやけに大きく聞こえる。

目を閉じるけれど、すぐにあの絵が浮かぶ。

(……なんでこんなに)

少しだけ笑ってしまう。

たった一枚の絵なのに。たった一度見ただけなのに。こんなにも頭から離れない。
布団の中で寝返りを打つ。

(……変だな)

そう思いながらも、どこか心地よかった。