奥様は泥棒

嵐のような3人が去ったこともあり、リビングに静寂が戻った。

テーブルの上には、両親が「和歌子ちゃんのために!」と置いていった高級和牛の折り箱や桐箱入りのメロンが山積みにされている。

「ーーなあ…」

夏彦は脱力したように頭を抱えると、深いため息をついた。

「どこまでが嘘で、どこまでが本当なんだよ!?

設定が重過ぎるにも程があるだろ!?」

さっきまで大粒の涙を流していた和歌子は、すでにケロッとした顔でハンカチをポケットにしまっていた。

そのままキッチンの包丁を手に取ると、迷いなく高級メロンに刃を入れた。

「全部嘘に決まってるでしょ、泥棒が相手に素直な生い立ちを話す訳がないじゃない」

「全部かい!

あんな大芝居を打つから、父さんも母さんも“あの子を世界一幸せにする”って本気になっちゃったじゃないか!

これからどうするんだよ!?」

「はいはい…でもこれで“お見合いしろ”って口うるさく言われなくなったんだから、感謝してほしいくらいだわ。

それじゃあ、口止め料代わりにこのメロンを半分だけもらって退散させてもらうね」

ラップで包んだメロンを小脇に抱えて、和歌子が悠々と玄関へ向かおうとしたその時だ。

ーーカチャリ、ウィーン

重厚な駆動音と共に玄関の鍵が内側から電子音を立ててロックされたので、和歌子の足がピタリと止まった。

プロの泥棒である彼女の目には一目でわかった。

「最新型の二重電子ロックだ…」

暗証番号と生体認証がなければ、内側からでも容易には開かないタイプのヤツである。

振り返ると…夏彦がドアノブの横に立って、壁の操作パネルを手で隠しながらニヤニヤと立っていた。

「ちょっと、何してるのよ!?」

「言ったろだろ、“結婚した”って」

夏彦は悪びれもせずに、平然と言い放った。

「両親の疑惑が完全に晴れるまで、しばらくここで“妻”として暮らしてもらうよ。

嫌ならば防犯カメラに映った君の不法侵入の映像を、そのまま警察に届けるだけだけど?」

「はあ!?

空き巣に自分の家に住めって…あんた、正気なの!?」

「それに…」

夏彦はニッと意地悪く口角をあげた。

「君のあの感動的な嘘、家族は騙せても俺には最初からバレバレだったよ。

君、嘘つく時に無意識に右の耳たぶを触る癖があるだろ?」

「なっ…!?」

和歌子はハッとして、無意識に右耳へ伸ばしかけた手をピタリと止めた。

(嘘でしょ!?

自分の癖なんて、自覚したことなかったのに…!)

和歌子の動揺を見た夏彦は満足そうに首を縦に振ってうなずくと、リビングへと戻りながら軽く手を振った。

「と言う訳で…“奥さん”、夕飯の準備頼むよ。

あ、俺はハンバーグが好きだから」

「…チッ!」

和歌子は盛大に舌打ちをして、夏彦の背中を鋭くにらみつけた

(この男、ただの冴えないイラストレーターじゃないようだね…!)

ーーこうして、プロの泥棒と食えない男の“偽装夫婦”と言う名の騙し合い同居生活が幕を開けるのだった。

☆★END☆★