御馳走を食べていたら自分が食べられそうになった

食べたはずの精進料理は栄養にならず、エネルギーにもならず、魔術のようにお腹から消え去った。

胃の形がわかるほどに空っぽになり、ヨガの上級者のように凹みきっているお腹。

体ぜんたいが、餓え、渇いている。

細胞が塩や砂糖、脂をよこせと叫び暴れまわっている。

そよ風にすら揺らされるほどに、ふらふらと歩いているうちに、しっかりとした石畳がしかれた街並みにもどってきた。

世俗をはなれた修行者たちの世界から人間世界に舞いもどった温かい気持ちにつつまれた。

コンビニでエナジードリンクを買い、白いクリームののった甘いスイーツを食べようと頭のなかで考えるだけで、足取りも軽くなる。



そんなとき、いままでに経験したことのない素晴らしい香りを吸いこんだ。

その香りは、牛の尻尾や豚の足、鶏の骨、アワビやホタテ、ナマコをひとつの鍋で何時間も煮つめたような、何十もの香りが結集したもので、使われているお酒や香草などの種類など判別できるわけもなく、それはそれは美味しいそうな香りとしか形容できない。

香りだけで私のお腹をうきうきさせてくれる香りの出どころを世界三大珍味のひとつをさがす豚のように鼻をうごかし、香りの出どころをさぐった。

いや、犬のように。


香りは、まるで白い河が石畳のうえに浮いて見えるほどに充実した跡をのこしている。

白い香りの河に導かれるように歩をすすめる。

しばらく歩くと地中海風に白いしっくいの塗りあとをあえて残している家が見えてきた。

黒い家が並んでいるなかでよく目立つ。

私は灯りにさそわれる昆虫のように、ふらふらと家にひきよせられた。

大人ひとりが通れるほどの幅の扉に、

「レストラン・オープン」

と書かれた札がぶらさげられている。


扉には、長方形の透明のガラスがはめこまれており店のなかをのぞくことができた。

カウンター席しかなく、手前から奥へとのびる細長い店内。

カウンターのなかの棚に、生ハムの原木が堂々と鎮座している。

生ハムはすでに細い刃で削られおり結晶化した赤色と豚の上質な白い脂が、つやつやと光っている。

私は何も考えずに、店の扉をあけ店内に飛びこんだ。

元気に飛びまわる白い子羊の首元にぶらさげた鐘そっくりの音が、店内に鳴りひびいた。