御馳走を食べていたら自分が食べられそうになった

山の木々を切りたおし、整地したまったいらな地面。

大きな石粒はなく、白を混ぜこんだ明るい茶色の砂状の地面。

緑の山のなかに突然あらわれた10円はげのようにぽっかり開けた空間。

ワンボックスカーが、30台は駐車できるほどの広さがある。

一番左には、白い漆喰がぬられた古文書や甲冑などのお宝が眠っていそうな蔵がある。

中央には、本堂とおもわれる大きな建物がある。

建物の大きさは、小学校の教室を二つならべたほどの幅で、奥行きはわからない。

駅から見えた黒い瓦の屋根は、ビルの2~3階ほどの高さがある。

その屋根には、いかめしい顔をした鬼瓦が堂々とすえつけられていた。

本堂の右側には、学校の教室の後ろにあった掃除道具いれ4個ぶんぐらいの建築物がある。

その建物の奥には、おおきめの畑があるのが見えた。

禅寺のお坊さんたちが、野菜を育て自給自足の生活を送っているのだろう。


私が、寺のまわりを観察していると、本堂の影の一部を切りとったように、音もなく小さい老人があらわれた。

その老人は、いまどき稲であんだわらじを履き、着古した作務衣を着ている。

二度と毛を剃る必要がないほどに毛根は死滅しており、頭皮はよく陽に焼けた顔とおなじように浅黒い。

しわは峡谷のように黒が密集し黒い筋が、頭にも顔にもいくつも刻みこまれている。

老人の左耳のうえあたりに、濃い老班があり、その形が日本そっくりだった。

老人の身長は140㎝ほどで、肩は前にまるまり、腰はややまがり、生気と脂をぬかれ、火をつけたら勢いよく燃えあがるだろうな、とかそんな不謹慎なことを考えてしまった。

見開いているのか、閉じているのかわからない二本の線のような目。

さらにのびほうだいの白い眉毛までもが目におおいかぶさり、眼球を確認することができない。

老人は左目だけを大きく開き、私の顔をしっかりと見つめ、

「取材にきたおかたか?」

と力づよく厚い声でたずねられた。

一瞬、二瞬だけ老人の元気な声におどろき動きをとめたが、すぐにリュックサックから名刺をとりだし、おじぎをしながら老人に名刺を手渡した。

老人は、名刺をつまみあげ、太陽にかざし、左目をひとまわり大きく見開き文字を確認した。

老人の白い眼球の端に、薄赤い細い血管がはしっている。

「禅寺の歴史と精進料理の話を聞きに来たのじゃったな?」

老人は、名刺を懐にしまいこみ、私の顔をのぞきこみながらいった。

「はい、そうです。精進料理の本をだすためにお話しを聞かせていただければ嬉しいです」

私は頭をすこしさげ答えた。

「料理が用意できるまで歴史を語り、それから精進料理を召しあがっていただく。それでよろしいか?」

うむをいわせない力が老人の言葉にはこもっていた。

私は、

「それでお願いします」

といい頭をさげた。