御馳走を食べていたら自分が食べられそうになった

店員のエビス様のような目は、ひっくり返ったように悪だくみをくわだてる白い狐の目のように吊りあがり、口は河にすむ雷魚や鯰のように貪婪(どんらん)にひろがり、顔は虎狼のように毛がはえ、肩幅は北海道の熊のようにひろがり、腕を前脚のようにカウンターにつきたて、獲物が毒で死ぬのをながめるコモドオオトカゲのような黒目で私を見つめていた。



店員だった化け物は、ぬッと顔をちかづけてきた。

いい食材を手にいれた調理人が、どのように調理するとよいか思案するように、私の頭から足の先までをねぶるように吟味しだした。

声をあげることも、逃げだすこともできず、ただただふるえるしかない私は、卵の殻をやぶり外界に飛びだした瞬間、蛇にであったような絶望を感じた。

化け物が、すこしだけ口をひらく。

すると、ニラやニンニクが奥歯のすきまにはさまり、三日三晩放置されたあと、糸ようじでそれをとりだしたときのような匂いがした。

紫と青が混ざった細い舌をだす化け物。

舌の先は、白い小さな粒粒がたくさんついており、口のなかから白濁したつばがしみでて舌をコーティングしている。

日本酒を三日三晩飲みまくり歯磨きもせずに眠りについたような匂いのつばがついた舌が私のほほをなめる。

料理を食べた幸福感はもうどこにも残っていない体。

舌でなめられた瞬間、恐怖でいっぱいの悪寒が、脳から腰のあいだを走りまわり鳥肌がたった。


鳥肌がたった私の両腕を見た化け物は、目を歪にゆがめ、邪悪にギラつかせた。

怪物は、雷魚や鯰が目のまえを通りすぎる小魚を飲みこむように大きく口をひらけ、私の左腕をまるまる吸いこんだ。

ぬるりとした怪物のなかは、まるで葛をたっぷりと溶かしたお湯のような質感だった。

硬いはずの私の爪が溶ける、指紋がふやける、私の腕が化け物に吸収されていく。

食虫植物の罠にはまりこんだ小動物のような逃げ場のない恐怖感が私をつつみこんだ。