御馳走を食べていたら自分が食べられそうになった

ついで目のまえには、飴をかけた明るい茶色の照りがある、どっぷりとした大きさの物体をのせた皿がおかれた。

白い脂の層と赤い肉の層がかさなった豚肉のかたまりだった。

それを蒸したり、揚げたり、煮たりして作るトンポーローだ。

「こちらはくせのつよいお酒になります。飲めないようであれば、おっしゃってください。別のものを用意させてもらいます」

見事な豚肉の輝きに見入っていた私に店員が声をかけた。


店員は、タヌキの置物がもっているような陶器のとっくりから、大きめの白い盃にとろりとした粘度の濁り酒をそそぎいれ皿の横に静かに置いてくれた。

盃を持ちあげ、香りを確認してみる。

薔薇など豪華な花、白い百合など可憐な花、梅のようなおしとやかな花、さまざまな花のエッセンスが融合した甘美な香りが漂っている。

もし、この香りを香水にしたてあげることができれば大ヒットまちがいなし、といった万人うけするビューティフルな香り。

盃をかたむけ、ゆっくりと液体を口にふくみ、とどめ、噛みしめる。

おつゆがほとばしる。

桃や南国の熟れきったマンゴーの果肉を噛んだときそっくりの甘みが、口のなかに放射状にひろがる。

その甘みは、べとべとしておらず、さらりと健康的。

ヨーグルトやマシュマロ、アンズのような淡い旨味が次から次へと浮かんでは消えていき舌をあきさせない。

味わいの余韻はながい、シルクロードを横断できるほどに。

私は、店員に盃をかかげ見せ、にっこりと微笑んだ。



箸をもち、豚の白い脂、といっても醤油などの調味料に漬け、油で揚げた結果、健康的な肌色になった脂に箸をあてがう 。

するとコラーゲン8割といった肉感的にぷるぷると震える脂は、箸の重みだけで溶けるように切れ、箸は肉の部位にたっした。

赤みの部分は、さすがに脂ほど柔らかくない。

それでも長いあいだ蒸され、溶けた脂を吸収した細胞は、繊維が溶け、ほどけ、柔らかくなっている。

箸にすこし力をいれるだけで豚肉は、ほろほろと崩落するように切りわけることができる。

白い脂と赤い身を一緒に口のなかにいれる。

醤油と豚の脂を白い煙がたつ鉄板で焼いた香りが口いっぱいにひろがり、鼻をとおり外に飛びだす。

口のなかの体温により、豚の白い脂は室温に放置したバターのように静かに音もなく溶け、舌に歯茎にしみこんでいく。

ドングリなどを食べて貯えた脂肪から溶けだすエロティックともいえる自然な甘みは、素敵なくちづけをかわしたような恍惚感にいざなう。

脂肪の甘みと混ざりあった赤身は、ラードで煮込んだように香ばしく、噛むたびに豚の先祖であるイノシシがもつような原始的でちから強い滋味がしみでてくる。

艶と剛。ふたつがひとつの豚肉のなかに存在している。



豚肉とお酒を交互に飲んでいると、毛穴という毛穴から幸せがふきだし、細胞ひとつひとつが脂を吸収し膨張し、盃をもつ手がグローブのようにふくれあがってきた。

これは何かおかしいな、と思いながら、食べる右手、飲む左手をとめることができない。

とろりとした液体を飲むたびに、まるで脳みそが溶けるように何も考えられなくなる。

豚肉を食べると、足が地面にしみこむように、ふにゃふにゃになり、肩の関節がはずれたように脱力しだした。

店員の視線を感じた。

かろうじて動く視線をそちらに向ける。