地獄のラブ・スクランブル ~好きな人の好きな人~

【茉那】
 
 土曜日の駅は休日のお出かけを楽しむ人であふれていた。でも、待ち合わせ場所に着いた私はすぐに研心くんを見つけた。前回のデートのときもそうで、一足先に着いて待っていたようだ。優しい気遣いに心が温まる。
「お待たせ。待った?」
「いいえ、僕も今着いたところです」
「じゃ、じゃあ行こっか。えへへ」
 口からうっかり変な笑いが漏れた。スマホのメッセージは自然に送れるのに、対面すると挙動が不審になってしまうから不思議だ。
「お腹空いたよね? こないだと同じお店でいい?」
「はい、いいです」
 二人は駅の近くのカフェに向かった。
 今日の研心くんの服装はいつぞやと同じく、カラフルなシャツにビスチェを重ねていた。相変わらず派手でおしゃれだ。並んで歩くと、周囲からの視線が集まっているような気がした。私は決して目立ちたがり屋ではないが、今の状況は特別感があって快感を覚える。

 カフェの席に着くとさっそくメニューを開き、私は研心くんに微笑みかけた。
「気にしないで好きなものを頼んでね。また奢るから」
 前回は私の奢りだった。先輩から誘ったデートである以上、なるべく奢ってあげたかったのだ。
「そんな。悪いんで今日は出させてください」
 とはいえ、毎回奢り続けるのはちょっと厳しい。実家暮らしなので日々の出費は少ないが、バイトにも消極的なので私の財布は基本的に寂しい。今日は研心くんが気を遣ってくれたので、素直にお言葉に甘えることにした。
「そう? じゃあ今日の支払いは別々にしようか」
「ええ、そうしましょう」
 これには内心ほっとしていた。交通費に食事代。恋愛経験が乏しかったため、デートにはお金がかかるということを初めて知った。少しでもお金がかからない方がありがたい。
 そして、二人が注文した料理はすぐに来た。私はトマトソースのパスタ。研心くんはハンバーグプレートだ。
「うーん、おいしい……」
 私はパスタをもちゃもちゃと噛みながら素直な感想を述べた。研心くんと一緒だからか、普段よりもずっとおいしいと本心から思った。
 誠太からは、パスタなんて家で作るものであって外で食べるものじゃない、などと言われたことがあった。料理ができない人間を敵に回すようなその発言に対して私が強く怒った結果、誠太は青い顔で謝り尽くした挙句、二度とパスタに関する話題を口にしなくなった。
 ここで誠太からのアドバイスを思い出した。次のステップは、研心くんを知ることだ。
「ねえねえ研心くん。海外アニメが好きだよね」
「ええ、もちろん」
「一番好きな作品って何?」
「一番……」
 研心くんはハンバーグを切る手を止めて考え出した。
「一番って言われると難しい……でもそうですね、例えばスペクター・ティーンズなんかがかなり好きです」
「はいはいあれね!」
 スペクター・ティーンズはヒーローアニメだ。幽霊の力を得た五人の少年少女が、悪の幽霊軍団と戦うストーリー。
「ちなみに誰推し?」
「推しっていうほどでもないですけど……サディ派ですかね」
 サディは五人組の中の妹系キャラだ。冷気を操るのが得意な一方で、やや勝手な行動が目立つトラブルメーカーでもある。都合が悪くなった時には仲間を凍らせて逃げ出すのが定番のやり口だ。
 私は小柄なサディの姿を脳内に思い描いた。研心くんはああいうのが好みなのか……。
 さらに質問を重ねた。
「休みの日とかって何してる?」
「アニメばっかり見てますよ」
 研心くんは笑って言った。ほら見ろ誠太、と私は得意になった。絶対にハイキングは趣味じゃないと思ってた。
「私と一緒だね。あんまり出かけたりするのは性に合わないんだよ。なんだか落ち着かないし、お金はかかるし」
「そうですね」
 相変わらずの素敵なスマイルで研心くんは頷いた。それを見て、私たちって気が合ってるんだなあ……と強い感動を覚えた。
 ふと、私はものすごくいいことを思いつき、ぱあっと明るい顔になった。
「ねえ、今日の夜って空いてる?」
「よ、夜ですか? まあ、はい……」
「えへへ、家で一緒にアニメでも見ようよ。晩ごはん食べながらさ」
 それを聞いた研心くんは目を丸くした。
「い、家で?」
「そうだよ。研心くんも外より家の方がいいでしょ? ランチでいったん解散してさ、また夜に集まろう」
 我ながら大胆な提案だと思ったものの、カフェでランチするよりは研心くんが楽しめる方がいいに違いない。
 研心くんは金魚みたいに口をぱくぱくさせた。
「いや、でもそんな、悪いですよ……」
「全然悪くないよ! むしろ私は家の方がいいな。サブスクでアニメも見放題だし」
 そう。誠太の家ならサブスクで見放題だ。しかもご飯つき。
「え、まあ、はい……」
 研心くんが了解してくれたので、私は話をまとめた。
「じゃあ、六時に××駅に来て。迎えに行くから」
「えっと、はい……」
 研心くんとのおうちデートを想像したら、私は思わず顔がにんまりとした。
 あ、ちょっと待った。私は少しだけ思いとどまった。
 いきなり家に押しかけたら悪いから、後で誠太には連絡しておこう。夕飯の準備もあるだろうし。
 私は幸せを噛み締めながら、うふふ、と小さな声を漏らした。その声は研心くんの耳にも入ったらしく、少し照れたような表情を見せた。