【誠太】
今日も茉那は俺の家にやって来た。でも、今日の主な目的はサブスク鑑賞じゃない。デートの成功報告だ。
自分の家のソファに腰掛けた自分の好きな女の子が、その子の好きな男の子とのデートの成功を語る。最初はのたうち回りたい気分だったが、茉那の興奮した様子を見ていたら俺も興奮した。茉那の幸せは自分の幸せ。
茉那は一息に話し終えると、ふう、と湿った吐息を漏らした。その息が俺の右手にかかると、右手が熱くなるのを感じた。俺はその熱をじっくりと味わってから微笑んで言った。
「順調そうだね」
「本当にね……」
茉那は明後日の方向にとろんとした視線を向けていた。一回カフェデートしただけでこれか、と呆れずにはいられなかった。
「次回もカフェデートなの?」
「んー、まだ何も考えてなかった。変えた方がいいかな?」
「どうだろう。今は別に問題ない気がするけど、いつまでも同じだとマンネリになりそうだよね」
「確かに。でも私はインドアだからさあ、あんまりあちこち出歩きたくないんだよね」
「なあ茉那」
俺は真剣な顔で言った。
「相手に合わせてみたらどうだ」
「ほう?」
「茉那はインドアかもしれないけど、研心がそうとは限らないだろ。例えばハイキングが趣味だったら、カフェに縛り付けるのは酷だろ」
「ハイキングの話なんて一言も言ってなかったよ」
「ものの例えだよ。とにかく、まずは研心のことを知る努力をした方がいいよ」
俺にしてみれば、好きな相手のことを知ろうとするのは自然なことだった。茉那については、例えばインドア派でアニメ鑑賞が趣味であること、昼食は麺派で夕食は米派であること、実家暮らしだけど親との折り合いがよくないこと、爬虫類とかの変な生き物が好きなこと、実は胸が大きいことなど。いろんなことを知っている。
本当は俺も茉那と出かけたりしたい。でもインドア派の茉那に合わせて、無理に誘ったりせずに家でアニメを見ているのだ。
「こないだのデートではどんな話をしたの?」
「えっと……ほとんどアニメの話をしてたね。私が好きなタイトルを振ると、トリビアをいっぱい返してくれるの」
茉那は目をキラキラと輝かせてそう言った。
「ウィキペディアじゃないんだから……」
俺はまた呆れた。何がカフェデートだ。お気に入りの後輩に自分の好きな話を延々とさせていただけなんじゃないのか。
「ブラックプリンセスの欠番エピソードって知ってる?」
「……知らない」
GO!GO!ブラックプリンセスは、茉那が子どもの頃からお気に入りの海外アニメだ。日本の女児向けアニメを意識したような変身ヒロインコメディで、様々なアニメや映画のパロディを盛り込んでいることで知られている。
この手の作品は、方向性を誤るとパロディ元の怒りを買ってしまうこともある。欠番エピソードなんて、ブラックプリンセスならいかにもありそうな話だ。
「作中のセクハラ発言がリアルすぎて、現地で子ども向けアニメとしては不適切だっていう批判が殺到したらしいよ」
「そっち系なのか……」
「海外アニメって、日本国内だけで出回っている情報は限られているんだよね。欠番エピソードは翻訳される前に消されるし。でも研心くんは英語圏のニュースにも一通り目を通しているから、何でも知ってるらしいよ」
「それはすごいね」
ここまでくると、茉那の恋愛とは関係なく研心の話を聞いてみたくなった。でも、俺は気を取り直して言った。
「話を戻すけど、研心がどういう人なのか、もっと知った方がいいよ」
「確かにそうだね」
茉那は真剣そうに頷いた。
「次のデートのときにいろいろ聞いてみる」
「じゃあ、もしハイキングが趣味だって言ったら?」
「多分ハイキングは趣味じゃないと思うよ」
話があまりにも噛み合わなくて、思わず手で顔を覆った。
「お前さあ……」
すると茉那はムッとした顔になった。
「お前って言われるの嫌い」
「ああ! ごめん! 今のナシ!」
俺は大慌てで両手を振った。
「ねえ、もうご飯にしようよ。お腹空いた」
「……はいよ」
俺は茉那の顔色をうかがいながらキッチンに向かった。
研心のことはさておき、とにかく自分は茉那に嫌われたくない。俺はその一心でフライパンを握りしめた。
今日も茉那は俺の家にやって来た。でも、今日の主な目的はサブスク鑑賞じゃない。デートの成功報告だ。
自分の家のソファに腰掛けた自分の好きな女の子が、その子の好きな男の子とのデートの成功を語る。最初はのたうち回りたい気分だったが、茉那の興奮した様子を見ていたら俺も興奮した。茉那の幸せは自分の幸せ。
茉那は一息に話し終えると、ふう、と湿った吐息を漏らした。その息が俺の右手にかかると、右手が熱くなるのを感じた。俺はその熱をじっくりと味わってから微笑んで言った。
「順調そうだね」
「本当にね……」
茉那は明後日の方向にとろんとした視線を向けていた。一回カフェデートしただけでこれか、と呆れずにはいられなかった。
「次回もカフェデートなの?」
「んー、まだ何も考えてなかった。変えた方がいいかな?」
「どうだろう。今は別に問題ない気がするけど、いつまでも同じだとマンネリになりそうだよね」
「確かに。でも私はインドアだからさあ、あんまりあちこち出歩きたくないんだよね」
「なあ茉那」
俺は真剣な顔で言った。
「相手に合わせてみたらどうだ」
「ほう?」
「茉那はインドアかもしれないけど、研心がそうとは限らないだろ。例えばハイキングが趣味だったら、カフェに縛り付けるのは酷だろ」
「ハイキングの話なんて一言も言ってなかったよ」
「ものの例えだよ。とにかく、まずは研心のことを知る努力をした方がいいよ」
俺にしてみれば、好きな相手のことを知ろうとするのは自然なことだった。茉那については、例えばインドア派でアニメ鑑賞が趣味であること、昼食は麺派で夕食は米派であること、実家暮らしだけど親との折り合いがよくないこと、爬虫類とかの変な生き物が好きなこと、実は胸が大きいことなど。いろんなことを知っている。
本当は俺も茉那と出かけたりしたい。でもインドア派の茉那に合わせて、無理に誘ったりせずに家でアニメを見ているのだ。
「こないだのデートではどんな話をしたの?」
「えっと……ほとんどアニメの話をしてたね。私が好きなタイトルを振ると、トリビアをいっぱい返してくれるの」
茉那は目をキラキラと輝かせてそう言った。
「ウィキペディアじゃないんだから……」
俺はまた呆れた。何がカフェデートだ。お気に入りの後輩に自分の好きな話を延々とさせていただけなんじゃないのか。
「ブラックプリンセスの欠番エピソードって知ってる?」
「……知らない」
GO!GO!ブラックプリンセスは、茉那が子どもの頃からお気に入りの海外アニメだ。日本の女児向けアニメを意識したような変身ヒロインコメディで、様々なアニメや映画のパロディを盛り込んでいることで知られている。
この手の作品は、方向性を誤るとパロディ元の怒りを買ってしまうこともある。欠番エピソードなんて、ブラックプリンセスならいかにもありそうな話だ。
「作中のセクハラ発言がリアルすぎて、現地で子ども向けアニメとしては不適切だっていう批判が殺到したらしいよ」
「そっち系なのか……」
「海外アニメって、日本国内だけで出回っている情報は限られているんだよね。欠番エピソードは翻訳される前に消されるし。でも研心くんは英語圏のニュースにも一通り目を通しているから、何でも知ってるらしいよ」
「それはすごいね」
ここまでくると、茉那の恋愛とは関係なく研心の話を聞いてみたくなった。でも、俺は気を取り直して言った。
「話を戻すけど、研心がどういう人なのか、もっと知った方がいいよ」
「確かにそうだね」
茉那は真剣そうに頷いた。
「次のデートのときにいろいろ聞いてみる」
「じゃあ、もしハイキングが趣味だって言ったら?」
「多分ハイキングは趣味じゃないと思うよ」
話があまりにも噛み合わなくて、思わず手で顔を覆った。
「お前さあ……」
すると茉那はムッとした顔になった。
「お前って言われるの嫌い」
「ああ! ごめん! 今のナシ!」
俺は大慌てで両手を振った。
「ねえ、もうご飯にしようよ。お腹空いた」
「……はいよ」
俺は茉那の顔色をうかがいながらキッチンに向かった。
研心のことはさておき、とにかく自分は茉那に嫌われたくない。俺はその一心でフライパンを握りしめた。



