地獄のラブ・スクランブル ~好きな人の好きな人~

【佳奈美】
 
 バイト先のコンビニのバックヤードで制服を脱ぎ、いつものように真っ先にスマホを開いた。SNSの更新通知が表示されていたので、何も考えずにそれをタップした。
「えっ!」
 思わず大きな声が漏れてしまい、パソコンを操作していた店長がこちらを振り返った。
「何かあった?」
「あ、いえ、すみません。独り言です……」
 ぺこぺこと頭を下げてその場をやり過ごし、スマホの画面をもう一度見た。それは茉那の親しい友人向けに限定された投稿だった。
『後輩男子とカフェデート』
 そんな文章とともに、カフェの席で撮ったであろう写真が投稿されていた。二つのグラスを挟んだ向かい側に、水色のシャツに黄色いサロペットを重ねて着た人が写っていた。顔は見えないものの、こんなカラフルな後輩男子は一人しか思いつかない。私は指を素早く動かして茉那へDMを送った。
『これ研心でしょ!』
 いつの間にこんなことに。茉那は奥手だと思ってたから、新入生に手を出すなんて意外だ。
 頭の中をミキサー車みたいにぐるぐるさせながら帰宅すると、茉那からの返信が来ていた。
『どうしてわかったの???』
 思わず舌打ちをした。あんた隠すつもりなかっただろ。茉那にしては珍しい自己顕示欲丸出しの匂わせ投稿に、つい乗せられてしまった。
 その後、夕食や入浴を済ませた私は、リラックスモードでベッドに腰を下ろした。そして茉那の投稿を思い出して、メッセージを送った。
『カフェデートってどっちから誘ったの?』
 茉那の術中に嵌っているようで癪だけど、これは聞かずにはいられなかった。
 しばらくしたら返信が来た。見た瞬間にスマホを伏せたくなったけど、友だちのよしみで最後まで読んでやった。
『私から誘ったんだ。そしたら速攻でOKをくれたの! ヤバいよね。研心くんはちょっと緊張している感じもあったんだけど、私の気持ちに応えようと頑張ってるのが伝わってきて、めっちゃ尊かった! 私の服も似合ってるって褒めてくれたし、また来週も会うって約束してくれたし、こんなにいい子いないよ〜』
 ……そこまで聞いてないし。正直なところ、他人のノロケ話はそんなに好きじゃない。最後まで吐かずに読めた自分を褒めてやりたいと思った。
 そのまま続けて別の質問を送った。
『誠太はこのことを知ってるの?』
 これも気になることだった。たとえ茉那の方に恋愛感情がなくても、二人が親密に過ごしていることは事実だ。返信はすぐに来た。
『誠太は私の恋の応援団長だよ!』
 私は天を仰いだ。誠太よ、お前はそれでいいのか……?
 
 翌日、私は仲の良いサークルの後輩たちと遊びに出かけた。そして、ランチのときに後輩がこんなことを言った。
「そういえば、茉那さんと研心の話、聞きました?」
 ガツンと殴られたような衝撃を受け、パエリアのスプーンを取り落としそうになった。そして動揺を隠せずに言った。
「あ、うん、私は茉那から聞いたけど……どうして知ってるの?」
「スクショが回ってきました」
「へえ……」
 後輩がそんなことを平然と言ったので、途端に頭が痛くなった。限定公開の意味よ! 誰だよ口が軽いやつは!
 今さら隠すことはないと諦めて、私は話に乗ることにした。
「なんか、いい雰囲気らしいね」
「ええ? 研心は渋々だったって聞きましたけど」
 それは二発目の衝撃だった。
「え、そうなの……?」
「はい。同期の男子に愚痴ってたらしいですよ。でも、女子からの誘いでそんなこと言うなんて贅沢だ、って取り合ってもらえなかったみたいですけど」
 茉那からのメッセージを思い返した。『速攻でOK』『気持ちに応えようと頑張ってた』『来週も会う約束をした』……。
 それなのに、実際の研心は渋々だった? いったい何が真実なんだろう……。
「でも、茉那さんって誠太さんじゃなかったんですね。新入生に行ったのは意外です」
 後輩は、いつかの私と同じ疑問を口にした。
「ああ、なんか、そうみたいだね。まあ研心にも思うところはあるのかもしれないけど、茉那は悪いやつじゃないし、丸く収まるといいな」
 なんだかんだ茉那とは友だちなので、彼女の恋路は心の中で応援してあげよう。そう思ってから、パエリアを改めて口に運んだ。茉那の長々としたノロケ話を思い出してしまったせいか、それは少し酸っぱい味がした。