地獄のラブ・スクランブル ~好きな人の好きな人~

【茉那】
 
 今日はサークルの新入生歓迎会。居酒屋の店内には学生の笑い声が響いていた。いつものように誠太と隣同士で座った私は、少し離れた席の新入生を見つめていた。
 このサークルは、十名程度のメンバーがいる海外アニメ同好会。基本的には部室で駄弁るだけで、年に一度同人誌を発行している程度の緩いサークルだ。
 活動内容も地味なら、参加しているメンバーも地味だ。でも、私の視線の先にいる新入生の研心(けんしん)くんは一味違った。
「あの新入生、なんていうか、独特だよね……」
 私の視線に気が付いた誠太が言った。きっと、この場にいる誰もが同じことを思っているだろう。歓迎会の場で、誰かが海外アニメのタイトルの話題を一つ出せば、研心くんはそれを倍以上にして返し、周囲の上級生の苦笑を誘っていた。あれは相当なマニアだ。
 しかし、何より目を引くのはその服装だった。誠太はそのことを口にした。
「ああいう服は何ていうの? ブラ?」
「いや、ビスチェだね……」
 研心くんは、カラフルな長袖シャツの上に黒のビスチェを重ねていた。黙っていたら女子と間違えてしまいそうだ。
 それに対して誠太は、年がら年中チェックのシャツを着ている。ビスチェなんて知ってるわけがない。
 そういった諸々が相まって、研心くんからは独特な空気が出ていた。そして、私はその雰囲気にすっかり当てられてしまっていることを自覚していた。
「そういえば知ってる? あれ今度地上波でやるらしいよ」
「ああ、うん、そうね……」
 私は研心くんを見つめたまま、誠太の言葉に生返事を返した。
 かっこいいとか、そういうのじゃない。とにかく個性的。そんな研心くんから目を離すことができない理由は、物珍しさなんかではない。そのことは胸の小さな高まりが証明していた。
 ふと、研心くんがこちらに視線を向けた。ほんの一瞬目が合った気がして、私はさっと顔を背けた。
「茉那?」
 誠太は私の不審な挙動が気になったようだ。
「ううん、なんでもない……」
 恥ずかしさから手で口を覆った。改めて研心くんのことをちらりと見やると、彼はもうこちらを見ていなかった。
 これ以上彼を見ることははばかられて、私は自分の目の前のグラスを見た。わずかに残ったカシスオレンジが、溶けた氷と混ざって薄い液体に成り果てていた。
 私は小さく息を吸い込んでから誠太の方を向いた。
「ねえ誠太、この後、時間ある?」
「へっ? あ……あるある、あるよ」
「ちょっと話したいことがあってさ……よかったら二人で飲み直さない?」
 すると、誠太の喉がごくりと動いたのが見えた。
「い、いいよ」
 もう一度だけ研心くんのことを見ると、彼は相変わらず楽しそうにアニメ談義をしていた。
 うん。やっぱり、この胸の中のモヤモヤを吐き出さずには帰れないよな……。私は自分の胸に手を当てながらそう思った。