【佳奈美】
昼休みの大学の食堂は、ランチを求める学生たちでごった返していた。
私はいつものようにカツ丼をトレイに載せ、サークル仲間の茉那の正面の席に座った。茉那もまた、いつものようにきつねうどんをトレイに載せていた。
茉那は私のカツ丼を見て言った。
「佳奈美は相変わらずよく食べるね」
「食べないと元気が出ないよ」
一方の私は茉那のうどんを細い目で見た。好みは人それぞれだけど、茉那が学食で麺類ばかり食べることは理解できなかった。だって、日本人といえば米だ。米を食べないと元気が出ない。
そういえば、私には茉那の理解できない部分が他にもあった。カツ丼を食す手を少し止め、茉那に気になっている質問をぶつけた。
「ねえ茉那、あんたは本当に誠太と付き合ってないの?」
茉那はちょうど、うどんの油揚げをかじっていた。油揚げに染みていたつゆがぼたぼたと器の中に落ちた。そしてそれをもぐもぐと咀嚼しながら茉那は答えた。
「付き合ってないよ。ただの男友だち」
「いっつも一緒にいるじゃん」
「まあ専攻が同じだから。似たような講義を受けてるし。仲はいいし」
「誠太の家にも行くよね?」
「友だちの家に行くことくらいあるでしょ。二人でアニメとか見てるだけだし。恋愛感情ないし」
茉那は事もなげに言った。どうやら茉那の中では、男女の友情ってやつが成り立っているらしい。到底理解できない価値観だ。
「でもさあ、それって誠太も同じ気持ちなの?」
茉那はうどんをもちゃもちゃと噛みながら答えた。
「あー、いや、あいつは多分私のこと好きだね」
「……マジ?」
「マジだよ。だから誠太は私になんでもしてくれるの。サブスクが見たいって言えば契約してくれるし、お腹空いたって言えばご飯を作ってくれる」
茉那のその言葉に対して、私は白い目を向けた。対等な友情なんかじゃなかった。誠太からの好意をダシにしてコントロールしてるなんて。
「めっちゃ悪女じゃん……」
うどんを飲み込んだ茉那は、私の目をまっすぐ見て言った。
「いや、そんなんじゃないよ。私はモテるタイプじゃないから。私に好意を向けてくる人なんて誠太くらいのもんだよ」
「ええ、それならなおさら誠太がいいじゃん」
すると、茉那は目を閉じてため息をついた。
「あのさあ……」
茉那のまぶたがカッと開き、こちらの目を見つめなおした。
「私にだって選ぶ権利はある」
「ひっど。誠太の何がダメなの?」
「誠太にはオスとしての魅力を感じない」
それを聞いて思わず吹き出してしまった。茉那はそれを見逃さなかった。
「笑ったね。あーあ、誠太に対して失礼だなあ」
「いやだって……」
私は誠太の姿を思い出した。ぱっとしない服装、ぱっとしない髪型、そしてぱっとしない顔。誠太にオスらしい魅力が少ないのは事実だ。
私は諦めたように肩をすくめた。
「まあ、なんでもいいけどさあ……誠太が可哀想だから、優しくしてあげなよ」
「誠太の好きな女子である私が、あいつの家で一緒に過ごしてあげてるの。これ以上の優しさがあります?」
茉那の少しも悪びれない態度に、思わず頭を抱えた。そして自分の交友関係の狭さを呪った。もっとまともな友人を作るべきだった……。
私は議論を完全に諦めてカツ丼を口の中に放り込んだ。それは議論を続ける気も失せるくらい冷めきっていた。
昼休みの大学の食堂は、ランチを求める学生たちでごった返していた。
私はいつものようにカツ丼をトレイに載せ、サークル仲間の茉那の正面の席に座った。茉那もまた、いつものようにきつねうどんをトレイに載せていた。
茉那は私のカツ丼を見て言った。
「佳奈美は相変わらずよく食べるね」
「食べないと元気が出ないよ」
一方の私は茉那のうどんを細い目で見た。好みは人それぞれだけど、茉那が学食で麺類ばかり食べることは理解できなかった。だって、日本人といえば米だ。米を食べないと元気が出ない。
そういえば、私には茉那の理解できない部分が他にもあった。カツ丼を食す手を少し止め、茉那に気になっている質問をぶつけた。
「ねえ茉那、あんたは本当に誠太と付き合ってないの?」
茉那はちょうど、うどんの油揚げをかじっていた。油揚げに染みていたつゆがぼたぼたと器の中に落ちた。そしてそれをもぐもぐと咀嚼しながら茉那は答えた。
「付き合ってないよ。ただの男友だち」
「いっつも一緒にいるじゃん」
「まあ専攻が同じだから。似たような講義を受けてるし。仲はいいし」
「誠太の家にも行くよね?」
「友だちの家に行くことくらいあるでしょ。二人でアニメとか見てるだけだし。恋愛感情ないし」
茉那は事もなげに言った。どうやら茉那の中では、男女の友情ってやつが成り立っているらしい。到底理解できない価値観だ。
「でもさあ、それって誠太も同じ気持ちなの?」
茉那はうどんをもちゃもちゃと噛みながら答えた。
「あー、いや、あいつは多分私のこと好きだね」
「……マジ?」
「マジだよ。だから誠太は私になんでもしてくれるの。サブスクが見たいって言えば契約してくれるし、お腹空いたって言えばご飯を作ってくれる」
茉那のその言葉に対して、私は白い目を向けた。対等な友情なんかじゃなかった。誠太からの好意をダシにしてコントロールしてるなんて。
「めっちゃ悪女じゃん……」
うどんを飲み込んだ茉那は、私の目をまっすぐ見て言った。
「いや、そんなんじゃないよ。私はモテるタイプじゃないから。私に好意を向けてくる人なんて誠太くらいのもんだよ」
「ええ、それならなおさら誠太がいいじゃん」
すると、茉那は目を閉じてため息をついた。
「あのさあ……」
茉那のまぶたがカッと開き、こちらの目を見つめなおした。
「私にだって選ぶ権利はある」
「ひっど。誠太の何がダメなの?」
「誠太にはオスとしての魅力を感じない」
それを聞いて思わず吹き出してしまった。茉那はそれを見逃さなかった。
「笑ったね。あーあ、誠太に対して失礼だなあ」
「いやだって……」
私は誠太の姿を思い出した。ぱっとしない服装、ぱっとしない髪型、そしてぱっとしない顔。誠太にオスらしい魅力が少ないのは事実だ。
私は諦めたように肩をすくめた。
「まあ、なんでもいいけどさあ……誠太が可哀想だから、優しくしてあげなよ」
「誠太の好きな女子である私が、あいつの家で一緒に過ごしてあげてるの。これ以上の優しさがあります?」
茉那の少しも悪びれない態度に、思わず頭を抱えた。そして自分の交友関係の狭さを呪った。もっとまともな友人を作るべきだった……。
私は議論を完全に諦めてカツ丼を口の中に放り込んだ。それは議論を続ける気も失せるくらい冷めきっていた。



