【茉那】
私はソファに寝転んで海外アニメを見ていた。テレビの画面の中で、擬人化された犬とニワトリが、目の周りに青タンを作りながら取っ組み合いの喧嘩をしていた。ふと、ソファの毛玉が気になってしまった。後で誠太に綺麗にするように言っておこう。
研心くんがいなくなってからも、私は以前と変わらずに誠太の家に入り浸っていた。
私は研心くんと過ごした日々を思い返した。
新入生歓迎会で出会った研心くんに心を奪われた私は、すぐに食事の約束を取り付けた。そして海外アニメ好きの二人は意気投合。そのまま関係が進展するかと思いきや、急に私の臆病さが出てしまう。
しかし、研心くんの真の好みを知った私は心機一転。身勝手な先輩という振る舞いをやめ、彼に好かれるキュートな女児へと変貌を遂げようとした。ところがどうしたわけか、私の新たな姿を見る前に研心くんは消えてしまった。私や誠太からの連絡もブロックしているようだ。一体何があったんだろう。
そして私は十二時を迎えたシンデレラのごとく、魔法が解けて元の姿へと戻ったのであった。
あの時のような情熱はもう湧かない。今の私はただの茉那だ。
私は、食卓の準備のためにテーブルを拭く誠太に声をかけた。
「ねえ誠太」
「うん?」
「あのさあ、前に、研心くんといろいろあったじゃん」
「ああ……」
あまり思い出したくないのか、誠太は顔をしかめた。
「私って、本当に研心くんのことが好きだったのかな」
誠太はテーブルを拭く手を止め、なんとも言えない顔で私を見た。そして小さく息を吐いてから言った。
「……さあな」
それだけ言って、誠太は作業に戻った。
私はため息をついた。まあ、そうだよな。誠太にしてみれば、私の気持ちなんて知ったこっちゃないよな。
でも……。あの時の自分が、すごく特別な気持ちだったことは確かだ。目が合えば胸が高まり、デートをすれば浮かれた。研心くんと会ったほんの数回のうちに、私は別人のようになってしまった。
たまに耳にする「恋に恋していた」っていう状態は、こういうことなのかもしれないな。
そんなことを考えていたら、テーブルを拭き終えた誠太が上ずった声を出した。
「あの、研心の話で思い出したんだけど……五十万円で、その、初めてがもらえる話って、まだ有効だったりする?」
ああ、そんな話あったな。それをわざわざ覚えてるなんて、誠太ってマジでキモいな。っていうか、誠太が変なことを言うから研心くんとの関係がこじれたんじゃなかったっけ。
私は無表情で言った。
「……ああ、そうね、今なら特別に半額にしてあげようか」
「えっ、えっ? マジ?」
露骨に動揺する誠太のキモさは二割増しだった。
「嘘に決まってるじゃん。私の処女はプライスレス」
「え、あ、そう……」
そして誠太は露骨にがっかりしていた。私はその姿を見て少しだけ愉快な気持ちになった。
「そんなことより、お腹空いたから早くご飯用意して」
「はいよ……」
背中を丸めてキッチンへと向かう誠太を見ていたら、思わず笑みがこぼれた。
私はソファに寝転んで海外アニメを見ていた。テレビの画面の中で、擬人化された犬とニワトリが、目の周りに青タンを作りながら取っ組み合いの喧嘩をしていた。ふと、ソファの毛玉が気になってしまった。後で誠太に綺麗にするように言っておこう。
研心くんがいなくなってからも、私は以前と変わらずに誠太の家に入り浸っていた。
私は研心くんと過ごした日々を思い返した。
新入生歓迎会で出会った研心くんに心を奪われた私は、すぐに食事の約束を取り付けた。そして海外アニメ好きの二人は意気投合。そのまま関係が進展するかと思いきや、急に私の臆病さが出てしまう。
しかし、研心くんの真の好みを知った私は心機一転。身勝手な先輩という振る舞いをやめ、彼に好かれるキュートな女児へと変貌を遂げようとした。ところがどうしたわけか、私の新たな姿を見る前に研心くんは消えてしまった。私や誠太からの連絡もブロックしているようだ。一体何があったんだろう。
そして私は十二時を迎えたシンデレラのごとく、魔法が解けて元の姿へと戻ったのであった。
あの時のような情熱はもう湧かない。今の私はただの茉那だ。
私は、食卓の準備のためにテーブルを拭く誠太に声をかけた。
「ねえ誠太」
「うん?」
「あのさあ、前に、研心くんといろいろあったじゃん」
「ああ……」
あまり思い出したくないのか、誠太は顔をしかめた。
「私って、本当に研心くんのことが好きだったのかな」
誠太はテーブルを拭く手を止め、なんとも言えない顔で私を見た。そして小さく息を吐いてから言った。
「……さあな」
それだけ言って、誠太は作業に戻った。
私はため息をついた。まあ、そうだよな。誠太にしてみれば、私の気持ちなんて知ったこっちゃないよな。
でも……。あの時の自分が、すごく特別な気持ちだったことは確かだ。目が合えば胸が高まり、デートをすれば浮かれた。研心くんと会ったほんの数回のうちに、私は別人のようになってしまった。
たまに耳にする「恋に恋していた」っていう状態は、こういうことなのかもしれないな。
そんなことを考えていたら、テーブルを拭き終えた誠太が上ずった声を出した。
「あの、研心の話で思い出したんだけど……五十万円で、その、初めてがもらえる話って、まだ有効だったりする?」
ああ、そんな話あったな。それをわざわざ覚えてるなんて、誠太ってマジでキモいな。っていうか、誠太が変なことを言うから研心くんとの関係がこじれたんじゃなかったっけ。
私は無表情で言った。
「……ああ、そうね、今なら特別に半額にしてあげようか」
「えっ、えっ? マジ?」
露骨に動揺する誠太のキモさは二割増しだった。
「嘘に決まってるじゃん。私の処女はプライスレス」
「え、あ、そう……」
そして誠太は露骨にがっかりしていた。私はその姿を見て少しだけ愉快な気持ちになった。
「そんなことより、お腹空いたから早くご飯用意して」
「はいよ……」
背中を丸めてキッチンへと向かう誠太を見ていたら、思わず笑みがこぼれた。



