【佳奈美】
今日も茉那と学食でランチ。ところが、茉那から聞いた話は私から食事をする余裕を奪い去った。
「……あー、ちょっと整理させて」
「うん」
茉那は平然としながらうどんをすすった。
「誠太にカレーを作らせて、研心を誠太の家に上げて、三人でカレーを食べたと」
奇しくも、今日の私のランチもカレーだった。
「うん。ゆうちゃんのちくわカレーね。子どもの頃、ゆうゆうパラダイスって読んでた?」
ゆうゆうパラダイスは、私たちが小学生の頃に連載していた少女マンガだ。怪力少女のゆうちゃんが、町でトラブルを起こしたり解決したりするコメディもの。
「読んでたけど、そんなのはどうでもよくてさ……どうして誠太の家なの。せめて自分の家でしょ」
茉那のことを好きな男の家に、茉那が連れてきた男を上げて、一緒にカレーを食べる。どう考えても鬼畜の所業としか思えない。
「うちは親がいるし。サブスク加入してないし。誠太もいいって言ってくれたし」
茉那の言い分を聞いた私は額を押さえた。誠太はいったいどんな気持ちでそれを了承したのか。
私はいったん諦めて、話を先に進めた。
「それで、三人でアニメを見たと」
「あー……いや」
茉那は急に口ごもった。
「何」
「その……二人で見た」
「え」
私はその様子を想像した。茉那と研心がソファに腰掛けてアニメを見ている。それなら、誠太はどこに。
「誠太の家って広いの?」
「いや、ワンルーム」
「……なら誠太はどうしてたの」
「えー、ちょっと、外してくれてた」
「あんたってやつは……!」
いくらなんでもこれには憤慨した。家主を追い出してアニメ鑑賞⁉
すると茉那は珍しく慌てた。
「ち、違うの。誠太が自分から出ていったの。私たちに気を遣って」
「……本当に?」
「本当だもん……」
ややしゅんとした様子の茉那を見て、私はその話を信じることにした。
「わかった。で、研心と二人でアニメを見たと……」
そこで私は嫌な想像をして顔をしかめた。
「まさかヤッたりしてないよね」
「してないっ!」
茉那は顔を真っ赤にして叫んだ。おかげで周りの席の学生が驚いてこちらを振り向いた。恥ずかしくなった私は小声で言った。
「……そっか、ごめん」
「誓って言うけど、手も触れてないよ」
「そうなんだ。よく我慢できたね」
私だったら、家で好きな男と二人きりになったら、何かしらのイベントは起こすと思う。
っていうか研心もよく手を出さずにいられたな、と考えたところで、研心の気持ちについて思い至った。確か、以前聞いた話では、茉那と会うのは嫌々だったはずだ。
茉那は赤い顔のままで言った。
「我慢も何も……緊張してそれどころじゃなかったよ。カフェで二人で会うのと、部屋で二人で会うのは全然違うね。誠太とは平気なのに……」
私は悲しくなった。今度、誠太に一杯奢ってやろうかな……。
「誠太も変なことを言ってたから、なんか意識しちゃって……」
「変なこと?」
「うん。なんか、男の人にとって処女ってめんどくさいから、嫌われないように気をつけた方がいいって……」
「……はあ?」
誠太の謎理論に付いて行けず、私は顔を歪ませた。
「それで、研心くんに処女だってバレたくないなって思ったら、余計に緊張しちゃって……」
そこまで聞いて、私は一つの理由に思い当たった。もしかして誠太は、部屋に二人きりにさせても、一線を超えられることは避けたくて、茉那に変な話を吹き込んだのかも。矛盾した行動のようにも感じるけど、これが誠太なりの防衛線だったのかもしれない。
まあ、とりあえずこのままでもいいだろう。処女に対する価値観なんて人それぞれだ。
私は小さく深呼吸してから言った。
「ねえ茉那、ちょっと思ったことがあるんだ」
「なあに?」
「あんたは研心にとって先輩だってことを忘れない方がいいよ」
すると茉那はきょとんとした。
「わかってるよ。私は三年で、研心くんは一年」
「少し考えてみて。親しくもない先輩からいきなりデートとかに誘われたら、茉那もしんどくない?」
「私モテないから、そういう経験はないな」
「いや経験とかじゃなくて……」
私は呆れた。茉那はたまにずらした球を返してくる。
「私が言いたいのは、研心の気持ちも考えてやりなってこと」
「気持ち……」
茉那は考え込んだ。きっと、研心の気持ちに寄り添おうとしている。
私はそれを見て、ちくわの乗っていないカレーを再び口に運んだ。やや冷めてしまったけど、それはまだ充分においしかった。
今日も茉那と学食でランチ。ところが、茉那から聞いた話は私から食事をする余裕を奪い去った。
「……あー、ちょっと整理させて」
「うん」
茉那は平然としながらうどんをすすった。
「誠太にカレーを作らせて、研心を誠太の家に上げて、三人でカレーを食べたと」
奇しくも、今日の私のランチもカレーだった。
「うん。ゆうちゃんのちくわカレーね。子どもの頃、ゆうゆうパラダイスって読んでた?」
ゆうゆうパラダイスは、私たちが小学生の頃に連載していた少女マンガだ。怪力少女のゆうちゃんが、町でトラブルを起こしたり解決したりするコメディもの。
「読んでたけど、そんなのはどうでもよくてさ……どうして誠太の家なの。せめて自分の家でしょ」
茉那のことを好きな男の家に、茉那が連れてきた男を上げて、一緒にカレーを食べる。どう考えても鬼畜の所業としか思えない。
「うちは親がいるし。サブスク加入してないし。誠太もいいって言ってくれたし」
茉那の言い分を聞いた私は額を押さえた。誠太はいったいどんな気持ちでそれを了承したのか。
私はいったん諦めて、話を先に進めた。
「それで、三人でアニメを見たと」
「あー……いや」
茉那は急に口ごもった。
「何」
「その……二人で見た」
「え」
私はその様子を想像した。茉那と研心がソファに腰掛けてアニメを見ている。それなら、誠太はどこに。
「誠太の家って広いの?」
「いや、ワンルーム」
「……なら誠太はどうしてたの」
「えー、ちょっと、外してくれてた」
「あんたってやつは……!」
いくらなんでもこれには憤慨した。家主を追い出してアニメ鑑賞⁉
すると茉那は珍しく慌てた。
「ち、違うの。誠太が自分から出ていったの。私たちに気を遣って」
「……本当に?」
「本当だもん……」
ややしゅんとした様子の茉那を見て、私はその話を信じることにした。
「わかった。で、研心と二人でアニメを見たと……」
そこで私は嫌な想像をして顔をしかめた。
「まさかヤッたりしてないよね」
「してないっ!」
茉那は顔を真っ赤にして叫んだ。おかげで周りの席の学生が驚いてこちらを振り向いた。恥ずかしくなった私は小声で言った。
「……そっか、ごめん」
「誓って言うけど、手も触れてないよ」
「そうなんだ。よく我慢できたね」
私だったら、家で好きな男と二人きりになったら、何かしらのイベントは起こすと思う。
っていうか研心もよく手を出さずにいられたな、と考えたところで、研心の気持ちについて思い至った。確か、以前聞いた話では、茉那と会うのは嫌々だったはずだ。
茉那は赤い顔のままで言った。
「我慢も何も……緊張してそれどころじゃなかったよ。カフェで二人で会うのと、部屋で二人で会うのは全然違うね。誠太とは平気なのに……」
私は悲しくなった。今度、誠太に一杯奢ってやろうかな……。
「誠太も変なことを言ってたから、なんか意識しちゃって……」
「変なこと?」
「うん。なんか、男の人にとって処女ってめんどくさいから、嫌われないように気をつけた方がいいって……」
「……はあ?」
誠太の謎理論に付いて行けず、私は顔を歪ませた。
「それで、研心くんに処女だってバレたくないなって思ったら、余計に緊張しちゃって……」
そこまで聞いて、私は一つの理由に思い当たった。もしかして誠太は、部屋に二人きりにさせても、一線を超えられることは避けたくて、茉那に変な話を吹き込んだのかも。矛盾した行動のようにも感じるけど、これが誠太なりの防衛線だったのかもしれない。
まあ、とりあえずこのままでもいいだろう。処女に対する価値観なんて人それぞれだ。
私は小さく深呼吸してから言った。
「ねえ茉那、ちょっと思ったことがあるんだ」
「なあに?」
「あんたは研心にとって先輩だってことを忘れない方がいいよ」
すると茉那はきょとんとした。
「わかってるよ。私は三年で、研心くんは一年」
「少し考えてみて。親しくもない先輩からいきなりデートとかに誘われたら、茉那もしんどくない?」
「私モテないから、そういう経験はないな」
「いや経験とかじゃなくて……」
私は呆れた。茉那はたまにずらした球を返してくる。
「私が言いたいのは、研心の気持ちも考えてやりなってこと」
「気持ち……」
茉那は考え込んだ。きっと、研心の気持ちに寄り添おうとしている。
私はそれを見て、ちくわの乗っていないカレーを再び口に運んだ。やや冷めてしまったけど、それはまだ充分においしかった。



