お互い食べる物も無くなり、楽しかったファミレスでの食事は終了となった。1時間くらい居たはずなんだが、なんだかあっという間に時間が過ぎていった。
「別々でお会計しますか?」
にこやかに笑う店員さんに俺は胸をドンと叩いて宣言する。
「全額俺が払います! 俺の奢りなので!」
「ファミレスで奢った程度でそんな堂々としないで下さい。恥ずかしいので」
後ろで水原が辛辣な突っ込みをしてきやがった。
「くそー、そこは『佐久間様有難う!』くらい冗談で言ってくれても良いのに……」
まあ楽しかったから良いけど。
ブツブツ文句を言いながら先に外に出て店の前に一歩踏み出すと、死角になっていた柱の奥から誰かが飛び出してきた。
「きゃ!!」
「うおっ!?」
相手は余程慌てていたのだろう、思い切り俺に体当たりしてきた。俺の方が大きかったようで、相手は反動で尻もちをついている。
「いてて、大丈夫?」
「ご、ごめんなさい……」
ぶつかってきた子は、可愛らしい女子高生だった。小柄な体躯にきゅるんとした真ん丸お目目が愛らしい。長くサラサラな髪が、肌の白さを際立たせている。そして制服は俺たちの学校と同じものだった。
「平気? 立てる?」
俺が手を伸ばすと、女子生徒は俺の手を握ってくれた。体躯も小柄だから手も小さいし俺の手より柔らかい。グイッと引っ張ると大した重みも感じずあっさりと起き上がった。
「有難うございます。友達とここで待ち合わせをしていて、うっかりよそ見をしていました……」
「いやー、俺も完全に気を抜いていたわ。このファミレス学校からも割と近いし、安くて美味しいから来たくなる理由もわかる」
「あっ、同じ学校の生徒さんなのですね! 私もよく友達と来るんです。メニューもドリンクバーの種類も豊富で、指定時間ギリギリまで長居しちゃうんですよね」
ああそう言えばドリンクバーあったんだった。ハンバーグとかのおかずにジュースを合わせないタイプだから抜けてた。お冷で粘るのは悪いと思って早々に出ちまったが、ドリンクバー利用すれば水原ともうちょっと駄弁っていられたかなぁ。
「俺、ドリンクバーは利用した事なかったかも。今度夕飯じゃなくてスイーツ食う目的で来た時に頼もうかな」
「あっ、では……お詫びといってはなんですがこれ差し上げます」
女子生徒は鞄の中をガサガサと漁り、小さな紙きれを俺に渡してきた。どうやらこのファミレスで使えるドリンクバー100円引きチケットのようだ。いいねぇ、100円浮けば購買で小さいパンが1個買える。
「では、友達を待たせているので……」
「ああそうだった。入り口塞いでごめんな!」
「いえ、本当にぶつかってすみませんでした!」
俺はサッと横にずれると、ファミレスに入って行く女子生徒を目で追った。そして入り口のすぐ傍にいた水原が、驚いたように目を見開いて固まっている。
「ん? どうした水原?」
「いや、告白しないんだと思って」
ええ……いきなり何言ってんだこいつは。
「初対面でそんな事するわけないだろ」
「いや、それが普通だとは思いますが……良い感じだったので、佐久間君があっさり引いたのが意外でした」
「意外って……偶然ぶつかっただけだぞ?」
「では何故僕にはしてきたのですか?」
「……あー」
そんな事もあった気がする。でも言われてみれば、ちょっと妙な気持ちだった。
「そういえば……水原と関わり始めてからそういうの無くなった。なんか水原以上にドキドキする感じが無くなって……」
以前の俺だったら、ちょっと女子が優しくしてくれたら『この子俺の事が好きかもしれない!』とか勝手に想像してソワソワしていた。そして湧きあがる高揚感を忘れぬうちに告白、からの玉砕を繰り返していたのだった。
今だって偶然ぶつかった事に運命を感じていたかもしれない。それなのに後ろ髪を引かれる思いもなく、あっさりとお別れしてしまった。
「なんだろ……高校デビューで恋人作るぞーって思っていたけど、水原と居るのが楽しくてさぁ。無理に作らなくて良いかなって。お前と一緒に居る時間、減るの嫌だし」
多分水原との出会いが一番ドラマチックだったからかなぁ……それだけじゃない気がするけど、なんかよく分からねぇや。
俺の答えに納得いっていないのか、水原が顔を片手で覆いながらため息を吐いている。
「貴方ねぇ、あまりそういう事言うもんじゃないですよ」
「ん? そういう事って?」
「無自覚ですか。たちが悪い……」
顔から手をどけた水原は俺に視線を合わせようとしない。
外が夕焼けに染まっているからだろうか、水原の頬が赤く染まっている気がした。

