左利きの私は、右利きの彼氏と付き合うことにした。

 食堂にやってくると、私たちはその入り口近くのテーブルへ座った。…お昼は過ぎていて、食堂には人がそんなにいない。…久しぶりだ、こんな食堂を見るのは。

「なんだかんだ、1年生の時は来てたけどね」

 詩歩はバッグのなかから化粧品をいくつか取り出しながら私にそう言った。…なんだ、お化粧直しでもするのだろうか。

「…当たり前でしょ?私の目的は彼氏を作ることなんだから」

 私はあることを詩歩に言ってみた。

「バイトとかは?ほら、デートとかするのにお金いるじゃん。それに出会いはそっちでもあるかもよ」

「…もう私バイトしてるから。でも、出会いは…まあ、ね」

 言葉を聞こえなくした。なにかあるなこれは、バイト先でなにかあったんだ。とわかりやすいくらいわかりやすく、詩歩は口数が少なくなった。

「そっか、それなら仕方ないか」

 興味がないわけではない。けれど、こういうのはあまり聞かない方がいいというのが、親しき中にも礼儀ありみたいな。そう思ったのでそれ以上は聞かないことにした。

「…でも、理緒が一緒に入るっていうのは、その凄く意外だった」

「そう?」

「そうだよ、そんな風には見えなかったから。あんた興味ないのかと思ったから」

 私は昨日の事を考えていた。白い紙は部屋に置いてあるのに、手元にあるような感じがしてくる。…本当のことは言えないかもしれない。自分のこの先にあるものが、なんというか面白みがないというか、このまま過ぎてしまうのではないか。という感覚。

 もし、詩歩も同じ考えで、こういう行動をしているのであれば共感してくれるのかもしれないけれど、…そういうわけでもないから。仕方ない。私は私なりの言い訳を考えるか。

「まあ、2年生になって大学の雰囲気もわかってきたから」

「…そういうもの?」

「ほら、私は地方から出て来たからさ。都会に馴染むのに時間が掛かったわけよ。…詩歩はあれだから、都内出身だからさ」

 我ながらいい感じの言い訳を考えることが出来たぞ。詩歩とは大学からの友人だから、その前のことは知らない。もちろん、聞かれたら答えるけど、私がどんな家に住んでいたとか、家族構成はとか。

 そういうのは知らない部分もある。それはお互いに。

 けれど、いまの言葉は半分くらい本当のことである。地方から出て来て、電車の乗り方とか。一番なんか覚えるのがあれだったのが、バスの乗り方だったけど。

 そういうのをゆっくりと覚えていったら、いつの間にか時間が経ってしまったのは確かな話。

 この食堂だってそう。使うためには学生証にお金をチャージしたほうが、会計がスムーズとか。そういうのを知らないといけない。いけないわけではないか。便利になる。

「…えーっと、電話をくれた成瀬さん?」

 長身で、いかにもモテそうな男前の人物が目の前に現れた。話しかけてくる内容的に、サークルの代表者だろう。…一気に詩歩の表情と声色がツートーンくらい上昇した。

「はい!私、成瀬詩歩です!…こっちは友人の理緒です」

 …こういう時は苗字じゃないのか。なんで下の名前で紹介した?私にもあるぞ、きちんと藤咲っていう苗字が。

「藤咲理緒です。よろしくお願いします」

「成瀬さんに、藤咲さん。ですね。初めまして、本村直人と申します」

 本村さんはカバンから箱を取り出すと、中から名刺を取り出し、私たちに手渡してくれた。

「すごいですね!名刺だなんて、おとなみたい!」

 …子供みたいだ。と思ったことは言わないでおこう。親しき仲にも…まあいいや。確かに学生なのに名刺っていうのは初めて見た。…みんな持っているモノなのだろうか?

「一応代表者だから持っているんだけど…使ったのはこういう時くらいで…」

 と少しだけ笑顔で話しかけてくる。すると本村さんは腕時計を見た。

「そんなに時間は掛からないから、ここで説明していくね」

 そういうと3人は同じテーブルへ座った。