オバケな幼馴染と以心伝心、初恋注意報!?

「ま、まだ読むの?」
「ちょっとコツ掴んできた」
「どういうこと……!?」
落ち着いた拓己の膝に収められて、また本を読み進めていて。
結構なページが進んだのに、まだ止まらない拓己に声をかけると、よく分からない答えが返ってきた。
「お前を思い出すんじゃなくて、心残りを思い出そうとすると痛くねぇんだよ」
「おお……」
じゃあ俺の独り言もあながち間違いではなかったのかな、と思う。
拓己の心残りは、本当の心残りはなんだったのだろう。
俺に好きだと告げて消えたオバケの拓己を思い出す。
あれ以上の何か。
もしくは、全く別の何か。
どちらにせよ、また一歩前進している拓己を凄いと思う。
今日でかなり進んだ本の残りページは、あと少しだった。

「明日は来ない」
「えっ」
「買い物付き合えってさ、母さんが。寂しいか?」
「……べつにぃ?」
寂しい、と思ってしまって、見透かされたのが悔しくて、誤魔化せば頬を引き伸ばされて。
「いひゃい」
「寂しいか?」
「……寂しい、くない」
「この野郎」
「いひゃああい」
悔しさ継続で反抗すれば、頬が何度も左右に伸ばされて、情けない声が出る。
真顔から少し悪い笑顔になっていく拓己を見ていたら、頬が離されるから沢山捏ねて痛みを緩和した。
「俺は寂しいぞ」
「……え」
「でもお前が寂しくねぇなら連絡してやんねー」
「え、あ……」
「寂しいか」
「……寂しい、ちょっと、だけ」
結局、拓己の意のままだ。
軽く触れるだけのキスが降ってきて、それだけ、と思ったらもう負けで。
もう一回、っておねだりは俺から押し付けた拓己の唇に消えた。

目が覚めると昼だった。
宣言通り拓己は来なくて、その分沢山眠ってしまったようだ。
よく寝た、と満たされた気持ちになるけれど、心は少しだけ欠けていて。
拓己中毒だ、と思う。
これまでだって土日は時々メッセージを送り合うくらいで、それぞれの休日を過ごしていたのに。
昨日は朝からずっと二人で、幸せの水準が上がってしまったことを感じた。
スマホを確認するとメッセージを受信していて、開けばどれも拓己からで。
行ってくる、着いた、昼飯、とマメに連絡が来ていて、欠けていたはずの心がいとも簡単に満たされていく。
今起きた、お昼美味しそう、と送ればすぐに既読が付いて、寝すぎ、の一言だけが返ってきた。
吹き出した俺はスマホを閉じると、うんと伸びをする。
今日は密かにやりたいことがあった。
頑張る拓己の力になればいいなと、タイミングを伺っていた計画を実行する絶好のチャンスだ。
それから今日は俺の両親も二人でデート中だから、その。
やっておきたい、大切なこともあった。

「わっ」
そろそろ寝ようかな、という時間に、珍しく長くスマホが振動して、見れば拓己からの着信で。
何かあったのだろうか、と出ると、無音の中で微かに規則正しい吐息が聞こえて頭にハテナが浮かんだ。
「……拓己?」
一応呼び掛けるけれど、何も返ってこない。
誤操作だろうかと思って、でも何故?と疑問に思う。
けれど恐らく拓己の、穏やかな寝息を聞いていると、俺まで眠くなってきて。
通話切らなきゃ、と思ったのを最後に、意識が途切れた。

「ん……」
何か音がして目が覚める。
どこからか聞こえる微かな音は、聞き慣れない音楽で。
「あ?」
「っ、え!?」
「はあ?」
突然拓己の声がして飛び起きるけれど、どこにも拓己の姿はない。
夢か……?と思って、でも妙に鮮明だった声を思い出していると、また微かに何か聞こえる。
その音の正体を探して辺りを見渡すと、枕元のスマホが何故か光っていて。
手に取って見れば、拓己との通話画面が何時間にも及んでいて、全てを察した。
「た、拓己……おはよう」
「はよ。てかなんだこれ」
「ええと……昨日拓己が電話を掛けてきたんだけど、多分寝息が聞こえてて……それ聞いてるうちに、俺も寝てた……」
「はあ?……あ」
「え?あっ!?」
軽快な音がして、通話が切られたことが分かる。
画面を見ればしっかりと長時間の通話履歴が残っていて、むず痒いような、嬉しいような気持ちになって。
「後で聞こ……」
何か思い当たったような拓己には後で話を聞くとして、俺はベッドから降りると学校へ行く支度をした。

「さあ、話してもらおうか!」
「……」
「ああ!今うぜぇって思ったでしょ」
待ってくれていた拓己と合流して、学校に向かいながら拓己を問い詰める。
俺をほんの少しだけ見た拓己は口には出さなかったけれど、うぜぇという顔をしていて。
指摘すればじとりと見られて、思わず笑った。
拓己が問い詰められる側になるのが珍しいというか、分が悪そうな拓己が珍しいから、楽しくなってきてスキップでもしたい気分だった。
「寝る前に俺と話したくなった?」
「違ぇ」
「じゃあー、何さ」
「……」
「あはは」
また黙る拓己が面白い。
そんなに言いたくない理由なのだろうか。
話してくれても、話してくれなくてもいいけれど、どちらにせよ今俺は楽しいから満足だった。
「……メッセージ、見返してた」
「お?」
「会わなかった分よく送り合ったろ」
「うん」
昨日は沢山やり取りした。
主に拓己が、俺を寂しくさせないように沢山送ってくれていて。
俺は色々とやることがあったから、すぐに返せたり返せなかったりだったけれど、それでも沢山やり取りをした。
それはしっかりと覚えている。
「だから寝る前に見返してて、寝落ちて、多分その時通話に手が当たったんだろうな」
「……えっ、つまり……寂しかった……?」
「ボケカス」
「えええええ」
俺を置き去る勢いで歩いていく拓己に、慌てて走って追い付く。
見れば拓己の耳が仄かに赤くて胸が強く高鳴った。
会えなかったことが寂しくて、メッセージを見返していたというのか。
一昨日の拓己は、俺に寂しいと言わせる為に寂しいと言ったのだと思っていた。
昨日の拓己は、俺を寂しくさせないように、沢山メッセージを送ってきてくれているのだと思っていた。
けれど、本当は拓己もちゃんと寂しいと思ってくれていたというのだ。
「可愛い……拓己……ええ……?」
「……」
「あ、そんな拓己に嬉しい?お知らせがあるよ!お昼になったら言うね」
「今言え」
「えっ!?あ、ちょっ、だめ!お昼だってば!」
急に立ち止まった拓己が詰め寄ってくるから、今度は俺が逃げる番で。
「早く言え。さもなくば連れて帰る」
「いーやーだー!」
結局ほとんど追いかけっこ状態で学校に着いた俺たちは、朝からお互いヘトヘトで。
小春さんに「何事??」と言われて、思わず吹き出した。