オバケな幼馴染と以心伝心、初恋注意報!?

「なんか雰囲気変わったね?」
「え?そうかな」
お昼休みに俺たちの元へ訪れた小春さんが、こちらをじっと見ながら顎に手を当てている。
拓己は立ち上がって、弁当食いに行くぞって顔をしていたけれど、ちょっと見てないフリをして小春さんを見続けていた。
だって小春さんが何かを言いたそうにしていたから。
「なんか二人共空気が柔らかくなった気がする。良いことでもあった?」
「うーん?」
なんだろう。
良いこと、は沢山あった。
拓己が戻ってきてくれたとか、拓己とまたお弁当を一緒に食べられているとか、朝一緒に登校して、帰りも一緒に下校できていることとか。
何より拓己とまた好き同士になれて、お付き合いできていること、とか。
「ええ、滝藤君嬉しそうな顔してる!」
「え、えっ!?」
指摘されて恥ずかしくて、慌てて頬を押さえるけれど小春さんは止まらなくて。
人差し指で俺の頬を突いてこようとして、寸前で大きな手が掴んで止めた。
大きな手を辿ると拓己で、拓己は感情の読めない顔で小春さんを見ていて。
俺は小春さんの手を拓己が握っているという状況に凄く落ち着かないし、小春さんは拓己を見て驚いた顔をしていた。
「触んな」
「たっ、拓己もだぞ」
「「……ごめん」」
拓己は小春さんへ、俺は拓己へ。
それぞれに言えば、拓己と小春さんの謝罪が重なって、目を見開く。
拓己も小春さんも揃ってきょとんとしていて、それから俺が笑うと、二人の手が離れた。
「ふううん?ね、今日一緒に食べない?」
「うん、いいよ」
「……」
おい、って視線を拓己から感じたけれど、この間も食べられなかったし今日くらいは、と思う。
じゃあお弁当取りに行こ、って小春さんの声で席を立つと、先を行く小春さんに付いていく前に袖を引かれた。
「……」
「……」
俺の袖を引いたのは拓己で、けれど俺をじっと見るだけで何も言わない。
俺が拓己と小春さんのことを考えてモヤモヤするように、拓己も俺と小春さんのことを考えてモヤモヤすることがあるようだから、そのことかな、と思うけれど。
小春さんを無下にし続けるのもなんだか申し訳なくて。
それに小春さんは、俺が拓己と話せるようにと一生懸命協力してくれていたのだ。
あの時は拓己と全然話せなくて、でもそうやって小春さんが味方でいてくれたから、救われていたことも事実で。
そういえばこの話を拓己にできていなかったなと思って、今日帰ったら話そうと決める。
俺の袖を掴む拓己の手を取ると、ぎゅっと強く握って、握手するみたいに上下に振った。
「今日も一緒に帰ろ」
「……ん」
いつも拓己が帰るぞと言って、それに慌てて付いていくことが多かったから。
俺からちゃんと誘うと、ちょっとだけ嬉しそうな雰囲気を滲ませてくれる拓己が可愛い。
「二人共早くー!」
「あ、うん」
廊下から小春さんの声がして、拓己の手を離すと素直に拓己も離れていく。
今日はいい天気で教室にほとんど人が残っていなかったから、目立ちもせずに良かったなと思った。

三人共お弁当を持って、じゃあ二人がいつもお昼を食べている所へ……と言った小春さんに、拓己は教室へ戻ってしまって。
やっぱりダメかーと笑う小春さんに困り笑いを見せながら、俺たちも教室へ戻って、机で食べることになった。
俺の机の所まで椅子を持ってきた小春さんも、俺の机にお弁当を広げて食べ始める。
小さくて色とりどりな小春さんのお弁当は、白色と茶色が主で、量も多い俺と拓己のお弁当とは全然違っていて新鮮だった。
「二人共お弁当大きいねぇ」
「あはは、まあ俺はいつも全部食べられなくて助けてもらってるけど」
「へぇそうなんだ!じゃあ今日は私もお手伝いするよ、最近お弁当物足りなくて」
「あ、じゃあお願いします」
「……」
「拓己、肘突いちゃダメだよ」
全身で不満を表現している拓己に叱ると、渋々ではあるけれど突いていた肘を下ろすから頷く。
小春さんに俺のお弁当からおかずを取ってもらって、拓己には俺から渡すとちょっと誇らしげに小春さんを見ているから、その頭を軽く叩いた。
「仲良しだなぁ」
「え?」
「私滝藤君のこと、ちょっといいなって思ってたんだ。でもこれじゃあ私が入る隙なんてないね!」
「ごふっ」
「お前……もうどっか行け」
「ひどーい!」
小春さんの言葉に俺はお米を詰まらせ、拓己が威嚇をして、教室がざわつく。
いつもより人が少ないとはいえ人が居るには居るから、そんなことをここで言っちゃったら広まるよ……!?と焦るけれど、小春さんは楽しそうに笑っている。
まあ……好きとかではなくてちょっといいな、だから、そんなに気にしていないのかもしれない。
小春さんから隠すように俺の頭を抱え込んでくる拓己の腕を叩きながら、次に俺は拓己をどうやって落ち着けるか考えた。
きっと拓己をなだめることが一番大変で、一番大事だと思ったから。

「逃げるぞ」
「帰るぞ、ね」
お昼休み以降警戒心マックスの猫みたいになってしまった拓己は、放課後小春さんがこちらへ来る前に逃げるぞと告げてくるから苦笑いする。
小春さんは俺たちの間に入る隙がないと言っていたし、今はもう俺を意識していないだろうに、拓己は俺の護衛が如く警戒を解かない。
俺が荷物をまとめると、拓己は俺を小春さんが居る位置から体で隠しながら廊下へ出るから物凄い徹底振りだった。
「はは」
「んだよ」
「……早く、帰ろ」
俺の言わんとすることが分かったのか、拓己は俺を置き去りにする勢いで歩いていくから笑う。
待ってよ、と言いながら拓己を追い掛けるこの光景も、きっとかけがえのない記憶になるのだろうと思って心がじんとした。

「っこら、やっ、だ」
家に着いて、手洗いうがいまで大人しかった拓己は、部屋に入るなり手当たり次第に噛みついてくるからそこかしこが痛くて仕方ない。
頬も耳も首も肩も手も、全部にきっと拓己の歯型が残っているだろうなと思った。
「い、たっ、ん」
「……言ったろ」
「なに、っく、は」
特に首が気に入ったのか、執拗に噛んでは舐められて、力が抜けた俺はズルズルとその場に座り込んで。
それでも拓己は追い掛けて噛んでくるから、その背に腕を回して掴まりながら、ひたすら拓己が満足まで耐えるしかなかった。
「あいつ、お前を……狙ってる、って」
「っん、はっ、でも」
「もう喋んなよ」
「だいじょ、ぶ、こはっん、っく」
キスとまた違った柔い気持ちよさと、痛さと。
それから妙な刺激に息が乱れて、声も止まらない。
首を噛む拓己の声がすぐ傍で聞こえるのもよくなかった。
付き合ってから気付いたけれど、欲を孕んだ拓己の声は、耳にビリビリと響いて刺激が強すぎる。
「まっ、て、たく、むっ、ん」
散々噛んで満足したのか、今度はキスされて、また息ができなくて。
何度も舌を押し付けられて更に滑り落ちた俺は、気付けば床に押し付けられていた。
「っは、まっ、て」
「……」
拓己の背中に回していた腕で拓己を引き寄せると、素直に降りてきてくれる拓己。
そのままぎゅっと抱き締めると、ようやくちゃんと息ができた。
「っは、拓己……きいて、」
「……」
「小春、さん……ね、拓己が退院した、ばかりの、頃……俺が、拓己と話せるようにって、協力して……くれてたんだよ」
荒い息の合間に言えば、拓己は俺に抱き締められたまま、大人しく聞いてくれていて。
近くにある拓己の髪を混ぜると、大型犬みたいに頭を擦り付けてくるから笑って、もっと撫でた。
「俺が好きなのは……拓己だけだから、ね、小春さんも俺たちのこと、多分気付いてる、よ」
俺たちをただの友人同士だと思っているなら、私が入る隙がない、なんて言わないと思う。
小春さんは意外とめげない、強い女性だから。
なんとなく察していて、けれど深掘りはしてこない小春さんを、俺たちは寧ろ大切にしないといけないと思う。
「でも守ってくれてありがとう。ちょっと妬いてる拓己はかわいんっ……こら」
「……ムカつく」
「はは」
また俺の肩を噛む拓己の頭を撫でる。
甘噛みしてじゃれつく大型犬みたいで、少し可愛いと思ったのは内緒だ。
「……ていうか拓己、なんで小春さんのこと呼び捨てなの?」
「あ?上の名前知らねぇ」
「ええええ」
拓己が小春さんを呼び捨てにするから、ちょっと妬いた時もある。
そんな俺からすれば、上の名前を知らないからというのは拍子抜けするほど単純な理由だった。
何それ、って笑えば、拓己はよく分かっていない様子で俺から離れて、俺を引き上げる。
「……悪い、ちょっと寝る」
「え、うん、いいけど……昨日寝られなかった?」
「いや。寝るとお前の記憶が近くなるから」
先に立ち上がった拓己は、そう言いながら俺のことも引っ張って立たせる。
そのまま手を引かれて、大人しく付いていけばまた勢いをつけてベッドに投げられた。
「ぐぶっ」
「汚ぇ声」
「はあああ?」
投げといてそれ!?とか。
それが恋人に言うセリフ!?とか。
言いたいことは色々湧き出たけれど、拓己もベッドに乗り上げて、俺を抱き込むと満足そうに息を吐くから何も言えなくなる。
「お前も寝ろ」
「ええ」
「妬いて疲れた」
「えええ……」
なんでそんな可愛いことを寝る寸前に言うの。
すぐに穏やかな寝息を立て始めた拓己の隣で、全然寝付けなくなってしまった俺はじっと天井と睨めっこする羽目になる。
寝ると俺の記憶が近くなるというのは、寝てる間に記憶が整理されているという脳の仕組みも関係しているのかなと思って、拓己を柔く撫でた。
交通事故に遭って以来、拓己にばかり辛い思いをさせている。
俺にできることはなんだろうと考えて、ふと思い出したのは図書館のオバサマのことだった。