「なぁに泣きそうな顔してんだハゲ」
「……!!」
ハゲてないし!泣きそうじゃないし!
そう言い返したいのに、本当に誰も見えてない様子の拓己に、今ここで言い返したら俺が変人扱いされるから、何も言えなくて。
全力で睨んで、それからお弁当を引っ掴んで、廊下に出ると拓己は音もなく付いてくる。
それから散々歩き回って探した結果、体育倉庫の横なら日陰で、誰も居なくて、校舎からも視覚ってことが分かって、そこに座り込んだ。
「ハゲてないし!!」
「第一声がそれかよ」
ちゃんと付いてきていた拓己が、目の前で呆れた顔をしている。
見ればその足元には影がなくて、日陰に入りなよって手を伸ばしても、触れられなくて。
「どうしちゃったの。何があったの」
立ったままの拓己に言えば、どこか遠くを見ながら、後頭部に手をやる仕草をするから、察する。
面倒臭い、って思っているのだと。
ほぼ生まれた時から一緒だから、拓己のことは誰よりもよく知っている。
だから分かるんだ。
言わなくても全部。
でも、今日のことは何も分からなかった。
昼休みまで問いただすのを我慢したのだから、言ってよ、と無言の圧をかけると、拓己はしゃがんで、視線の高さが同じになる。
「朝登校してたら、目の前でガキが車道に飛び出して。思わず止めに、俺も車道に出て……多分、車に轢かれた」
「……ほ、褒めるべきか、罵るべきか、分からない」
「褒めろよ」
気まずそうにどこかを見ていた拓己が、俺を見て、拗ねたような顔をしている。
自分でも咄嗟の行動に反省していて、それから恥ずかしさもあって、でも誇らしさもあるような、そんな顔。
「バカ!」
「はあ??」
「し、死んじゃうかもしれなかったんでしょ。てか、今どうなってるの。意識不明の重体だって、先生が」
「落ち着けうるせぇ。見てきたけど、一応生きてた」
見てきた。
生きてた。
……一応。
「し、死ぬ、かもしれないってこと?」
「泣くなようぜぇ!」
「まだ泣いてない!」
「泣いてるだろうがザコ!」
「ザコっで、いうほうがっ、」
「ああもう」
滲む視界の先で、拓己が手の甲を俺に擦り付けようとしてきて。
いつも通りぎゅっと目を閉じるのに、何も触れない。
ちょっと冷たい空気を感じた気がして目を開けると、拓己の腕が、俺の顔を貫いていて。
「ぎゃああああ!」
「うるせぇよバカ!」
「バカって言う方がバカ!」
「あー!ハイハイ」
イライラとした拓己の声が聞こえて、すぐに静寂が訪れる。
そっと手を伸ばして拓己の手に触れようとするのに、触れられない。
投影された映像を触っているみたいにすり抜けていく。
「何が起きてるの」
「知らねぇよ」
「なんで俺だけ見えるの」
「知らねぇって」
「なんで俺に、キスしたの」
「だから……て」
今なら聞ける気がした。
流れでいっちゃえと思って、思い切って。
でもバレてしまった。
答えが貰えないまま拓己は黙ってしまって、俺の今ならいけるって気持ちも、しぼんでしまって。
「ご飯、食べる」
「そうしろ」
「拓己は……お腹、空く?」
「喉すら乾かねぇよ」
「……そっか」
会話は、できるのに。
何にも触れられなくて、喉も乾かない拓己。
俺とキスしたことは覚えているみたいで、だから恐らく、本当に拓己で。
相変わらず口が悪くて、言い合いばかりで、全然楽しくないのに、何故か安心する。
でも今は安心している場合じゃない。
学校が終わったら、拓己が居る病院に行かなくちゃ。
膝の上でお弁当を広げて、拓己にじっと見られながら、一生懸命ご飯を食べる。
高校生になったんだしもっと食べて大きくなりなさい!って、お母さんがお弁当の量を増やしてくれていて。
けれど高校生になったからといって、運動部に入った訳でもない俺は、突然胃が大きくなった訳でも、消費量が増えた訳でもなくて。
拓己にいつも食べるのを手伝ってもらっていたから、焦っていた。
残すのはお母さんに悪い。
だから全部、空にして返したい。
でも自分のキャパと合っていないお弁当を平らげるのはなかなか困難で。
何にも触れられず、手伝ってくれない拓己を恨めしく思いつつ、必死に食べた。
「でも恨めしく思うのは拓己だよね」
「あ?何の話だよ」
「拓己がオバケになっちゃったって話」
「はあ?アホくさ」
「アホくさって言う方がアホくさ!」
もう、本当にうるさい奴。
「……!!」
ハゲてないし!泣きそうじゃないし!
そう言い返したいのに、本当に誰も見えてない様子の拓己に、今ここで言い返したら俺が変人扱いされるから、何も言えなくて。
全力で睨んで、それからお弁当を引っ掴んで、廊下に出ると拓己は音もなく付いてくる。
それから散々歩き回って探した結果、体育倉庫の横なら日陰で、誰も居なくて、校舎からも視覚ってことが分かって、そこに座り込んだ。
「ハゲてないし!!」
「第一声がそれかよ」
ちゃんと付いてきていた拓己が、目の前で呆れた顔をしている。
見ればその足元には影がなくて、日陰に入りなよって手を伸ばしても、触れられなくて。
「どうしちゃったの。何があったの」
立ったままの拓己に言えば、どこか遠くを見ながら、後頭部に手をやる仕草をするから、察する。
面倒臭い、って思っているのだと。
ほぼ生まれた時から一緒だから、拓己のことは誰よりもよく知っている。
だから分かるんだ。
言わなくても全部。
でも、今日のことは何も分からなかった。
昼休みまで問いただすのを我慢したのだから、言ってよ、と無言の圧をかけると、拓己はしゃがんで、視線の高さが同じになる。
「朝登校してたら、目の前でガキが車道に飛び出して。思わず止めに、俺も車道に出て……多分、車に轢かれた」
「……ほ、褒めるべきか、罵るべきか、分からない」
「褒めろよ」
気まずそうにどこかを見ていた拓己が、俺を見て、拗ねたような顔をしている。
自分でも咄嗟の行動に反省していて、それから恥ずかしさもあって、でも誇らしさもあるような、そんな顔。
「バカ!」
「はあ??」
「し、死んじゃうかもしれなかったんでしょ。てか、今どうなってるの。意識不明の重体だって、先生が」
「落ち着けうるせぇ。見てきたけど、一応生きてた」
見てきた。
生きてた。
……一応。
「し、死ぬ、かもしれないってこと?」
「泣くなようぜぇ!」
「まだ泣いてない!」
「泣いてるだろうがザコ!」
「ザコっで、いうほうがっ、」
「ああもう」
滲む視界の先で、拓己が手の甲を俺に擦り付けようとしてきて。
いつも通りぎゅっと目を閉じるのに、何も触れない。
ちょっと冷たい空気を感じた気がして目を開けると、拓己の腕が、俺の顔を貫いていて。
「ぎゃああああ!」
「うるせぇよバカ!」
「バカって言う方がバカ!」
「あー!ハイハイ」
イライラとした拓己の声が聞こえて、すぐに静寂が訪れる。
そっと手を伸ばして拓己の手に触れようとするのに、触れられない。
投影された映像を触っているみたいにすり抜けていく。
「何が起きてるの」
「知らねぇよ」
「なんで俺だけ見えるの」
「知らねぇって」
「なんで俺に、キスしたの」
「だから……て」
今なら聞ける気がした。
流れでいっちゃえと思って、思い切って。
でもバレてしまった。
答えが貰えないまま拓己は黙ってしまって、俺の今ならいけるって気持ちも、しぼんでしまって。
「ご飯、食べる」
「そうしろ」
「拓己は……お腹、空く?」
「喉すら乾かねぇよ」
「……そっか」
会話は、できるのに。
何にも触れられなくて、喉も乾かない拓己。
俺とキスしたことは覚えているみたいで、だから恐らく、本当に拓己で。
相変わらず口が悪くて、言い合いばかりで、全然楽しくないのに、何故か安心する。
でも今は安心している場合じゃない。
学校が終わったら、拓己が居る病院に行かなくちゃ。
膝の上でお弁当を広げて、拓己にじっと見られながら、一生懸命ご飯を食べる。
高校生になったんだしもっと食べて大きくなりなさい!って、お母さんがお弁当の量を増やしてくれていて。
けれど高校生になったからといって、運動部に入った訳でもない俺は、突然胃が大きくなった訳でも、消費量が増えた訳でもなくて。
拓己にいつも食べるのを手伝ってもらっていたから、焦っていた。
残すのはお母さんに悪い。
だから全部、空にして返したい。
でも自分のキャパと合っていないお弁当を平らげるのはなかなか困難で。
何にも触れられず、手伝ってくれない拓己を恨めしく思いつつ、必死に食べた。
「でも恨めしく思うのは拓己だよね」
「あ?何の話だよ」
「拓己がオバケになっちゃったって話」
「はあ?アホくさ」
「アホくさって言う方がアホくさ!」
もう、本当にうるさい奴。



