愛を伝えると退学になる男子校だけど、いつメンに毎日迫られている(気がする)。

「え。のむ部活行かなかったのかよ!?」

 教室にのぐの声が響く。

「それで?出番もないのに女優気取りと。……へーなるほど」

 背もたれに背中を預けて足を投げ出すのむを、糸杉が冷たく見下ろす。
 朝から2人に詰め寄られても、のむは「それが何か」とばかりに平然としている。

「なんだよー。それなら俺も練習出たのに」と呟(つぶや)くのぐが、俺の方に向き直る。

「まめ。大丈夫だったか?」
「へ?」
「練習とか、色々」
「あぁ〜。まあ、それなりにウケまして」

 昨日の練習を思い出して、少し自慢げに返す。

「ウケましてって。お笑いやってきたわけ?」と糸杉。
「うむ。なんというか、ラブコメの"コメ"の方で、天性の才能を遺憾(いかん)なく発揮してきた感じですかねぇ」

 俺は、うんうんと頷(うなず)く。
 実際、台本を読んだだけで俺としては何をしたわけでもなかったのだけど、結果的にウケてしまった。
 のぐが、心配そうに続ける。

「いじめられなかった?」
「なんでだよ」
「必要ないシーンで脱がされたりしなかった?」
「いや、なんでだよ!」

 昨日の練習は、初めてにしては上々の出だしだった。
 だけど、いまだに不安が残る”ラブコメ”の”ラブ”の方に関して、今日からのむに指南(しなん)してもらう約束になっている。
 そのことをいつメンにも話すと、糸杉とのぐは黙って目を見合わせた。

「そう来たか」

 顎に手をやりながら、糸杉が短く呟く。

「……まめの発想には本当驚かされるよね」
「どんだけよ。お前が”キュン”を教えるって、いつ恋愛マスターになったんだっつうの」

 のぐが、笑いを堪(こら)えながらのむを見ると、のむは黙って親指と人差し指でハートマークを作って応えた。
 「うぇ」という顔で、のぐが俺の方に向き直る。

「キモッ!キモ寄りのキモだわ。……ねぇまめ、のむはやめて俺にしない?俺なら適切な”キュン”を教えてあげられると思うけどなぁ」
「適切な”キュン”とは」

 のむが不満げに言い返す。

「ここでの適切とは、第4条に抵触(ていしょく)しないことを言うんじゃないの?」と、糸杉。
「それ。爽やかかつ分をわきまえた”キュン”てこと」
「一分一秒、爽やかかつ分をわきまえてますが、何か?」

 それぞれの意見がぶつかったところで、慌てて俺が間に入る。

「まーまー、みなさん、落ち着いて。俺がのむに頼んだんだよ。ほら、相手役だし。まずはのむをキュンとさせられないと始まらないわけじゃんか」

「……まーね」と、のぐが不服そうに言う。

「で、ライバル役であるのぐとは一線を画(かく)さないとじゃない?のぐの分身ができあがっても劇はつまんないだろ」

 負けないぞ、とののぐに向かってビッと指をさす。

「本番で、のぐがしっぽを巻いて逃げるくらいのキュン演技をしてみせるから、楽しみにしといてね」
「俺はもう、毎日まめにキュンキュンしてるけどね」

 きれいな平行二重の目でウィンクするのぐ。俺もウィンクで返そうとすると、どうしても両目ともつぶってしまった。

「えっ。あれ?!俺ってウィンクできないの?」
「ガチか。もっかいやってみ」

 パチンと両目を閉じる度に、いつメンから「嘘だろ」と笑いが起こる。
 「糸杉、やってみてよ」とパスを出すと、ウィンクの前後で全く変わらない糸目に、全員崩れ落ちた。

 いつの間にか他の生徒も加わり、クラスをあげてウィンクのトーナメント戦になる。
 最後にヤミケンが入ってくると、「ヤミケン、ウィンク!」コールを受けて「ホームルーム始めるぞー」と、いつもの低いテンションのままクマが目立つ目元で華麗にウィンクを決め、拍手喝采の中、朝のホームルームが始まった。

 プリントが配られ、前から順に送られてくる。
 俺の前に座るのむがプリントを手に振り返り、それを受け取ると、黙って俺にウィンクをして向き直った。片目をパチンと閉じた、お手本のようなウィンクだった。
 ーーん?これは、もう始まってるのか?”キュン”の指導が。
 俺は、プリントを後ろに回してからもう一度ウィンクしてみたけれど、やっぱり両目を閉じてしまった。