愛を伝えると退学になる男子校だけど、いつメンに毎日迫られている(気がする)。

「この世の終わり……終わりだ……。俺のぎこちない演技に観客の共感性羞恥(きょうかんせいしゅうち)を引き起こし劇は大すべり、高校最後の文化祭は大失敗に終わるんだ……。俺は学校中から後ろ指をさされるし、クラスの雰囲気は最悪になるけど、みんないい奴だから俺のことは責めないもんね。俺はそんなみんなの気遣いにいたたまれず教室を出て、トイレか校庭の隅(すみ)の寂(さび)れたベンチでぼっち飯。誰とも会話のないままひっそりと卒業していくんだ……」

「よく喋(しゃべ)るなぁまめ」

 放課後、クラスメイトも帰ってがらんとした教室。
 机に身体を投げ出してぶつぶつと呪詛(じゅそ)のような言葉を吐き続ける俺に、糸杉が腕組みをしながら言う。

「引き受けてくれてマジで助かった。ありがとな」
「ーー当然受験にも身が入らず浪人し、卒業後大学生活をエンジョイする糸杉とも疎遠(そえん)になり、一人寂しく予備校と家の往復のみの生活に……」
「ごめんて」
「俺の超ウルトラハッピー高校生活よ、さようなら……」
「……代わってやりたいけど、実行委員の仕事で手一杯だからなぁ」

 見ると、珍しくいつもの尊大な糸目が申し訳なさそうに下がっている。
 代わってやりたいって言ってくれた気持ちは、素直にうれしい。

「いいよ、いいんだよ。配役が決まらないと糸杉も困っちゃうんだから。それに、アナタ劇の出役とか絶対やりたくない人ネ。ワタシ知ってるヨ」
「やばいわ。ショックで徐々にカタコトになってきてる」

 糸杉が、のぐを見る。

「俺も、マジだりーけど、まめだから出るんだぞ」
「俺も」

 のむも頷く。

「アナタ達……外堀(そとぼり)を埋めるっていう言葉ご存じ?」
「なに?ことわざか何か?」

 はて?とわざとらしく首を捻(ひね)る2人に、糸杉が耐え切れずプッと吹き出す。

「あの流れはよかった……あの時のまめの顔……絶望ポメラニアン……」
「だーれーがポメラニアンだっ」

 あの時、2割増しでカーブしていた糸目を思い出し、噛みつく勢いで睨み返した。

「や、でも実際まめは、あん時俺らが手を挙げなくても断れない流れだったろ」と、のむ。俺はぐぬぬ……と口ごもる。
「まめの相手役が別の奴になるくらいならと思って、俺は手を挙げたんだけど」

 はっとして、のむを見上げる。
 のむが、頬杖をつき不満げな顔をして、俺を見ている。

「俺はまめのためなら、女役でもなんでもやるって腹括ってんだけど?」

 ーー確かに、相手がいつメンじゃなかったらもっと辛かったかも、と思い直す。

「……熱い友情……感謝いたす……!」

 ”あ”に濁点、みたいな複雑な表情で俺を見返すのむを、俺は両手を合わせて拝む。
 まだ不服そうなのむに向かってにっこり笑って見せると、今度は”え”に濁点みたいな顔をして「うぜぇ」と一蹴された。

「大丈夫、俺が誰にも文句言わせない。思い切りやれ」
「まぁ、気楽にやろーや」

 糸杉とのぐが、同時に真逆のことを言うので、うひゃひゃと笑った。気付いたら気分は、絶望ポメラニアンから超ウルトラハッピー男子高生に戻っている。
 本当に、俺はいつメンに助けてもらってばかりだ。何も返せていないのが申し訳ないくらいに、お世話になりっぱなし。

「ありがとねぇ」と、俺は改めて3人に向かって呟いた。