愛を伝えると退学になる男子校だけど、いつメンに毎日迫られている(気がする)。

 ラブストーリーというテーマを受けて、クラスメイトが仕上げてきた脚本が、思った以上に出来が良かった。
 そこで、誰かが「せっかく面白い脚本考えてくれたのにな」と呟いたのを発端に、テーマを変更しようという雰囲気から議論の方向が変わった。

「そもそも、俺達は別に疑われるような行動を取るわけじゃない。あくまでも劇だろ」
「ラブコメなら、生々しい感じにもならないし、今から変更するのは大変じゃね?」

 極め付きは、この一言だった。

「これでラブストーリーを自粛するのは、かえってよっちに悪くねえか?」
「……うん。俺達は変わらず楽しくバカやってるよって知ってもらいてえよな。もし観に来れなくてもさ」

 クラスに、まだちゃんとよっちの存在が残っているのを感じて、しんみりした雰囲気になる。
 ふと、別のクラスメイトが口を開いた。

「なあ、俺さ、元々女役はまめかなーって思ってたんだけど。ちっちゃくてかわいいし。だからこその提案なんだけど……男役、まめがいんじゃね?」

 今がまさに、"鳩が豆鉄砲"だ。おれは元々丸い目を、さらにまん丸に見開いた。
 ガタ、と椅子を軋ませて、前の席ののむも「え」の口で俺の方を振り返る。

「ふぇ……?」

 思わず、変な声が出る。
 確かに、女役はもしかしたら回ってくるかなと、ほんの少しは覚悟していた。目立つのはそんなに得意じゃないけど、男役がメインの物語なので、回ってきたら腹を括ろうと思っていた。それに、いざとなったら普段のキャラのままで何とかなるだろうと思っていたのだ。だけど、男役となると話は別だ。

「確かに。それならラブコメ感めっちゃ出る」
「まめなら観客も安心するかも」
「思い切り演じてもらっても”第4条”を感じないな」

 なるほどね、"第4条"を感じない、安心安全の俺ってわけね。……って待て待て。思い切り演じてもらって、じゃないんだよ。俺に主役の男役なんて向いているわけがないじゃないか。
 藁にも縋る思いで黒板の前に立つ糸杉を見ると、俺に向かって胸の前で小さくゴメンのポーズをしているのが見える。おい、助けろ。ゴメンじゃないんだよ。

 いや、いやいやいや。
 自分で言うのも悔しいけど、俺は舞台映えしない平凡な容姿で、おまけに恋愛未経験なんですよ?!男役を演じる引き出しなんて皆無!劇が成立しませんよ!

「え、あ、え」

 焦って何か言おうとしていると、スッと目の前で手が挙がる。

「まめが男役やるなら、俺相手の女役やるわ」

 のむだった。

「のむ……」

 一瞬、友情!ありがたい!などと思ったが、すぐに思い直し、のむのシャツの腕を引っ張って早口で言う。

「いや待て、ありがたいけど、一旦落ち着こ。のむ女装だよ?わかってる?そんなキャラだったっけ!?ちがうよね?それに、そうなるともう俺の主役が本決まりに……」

「はぁ。……じゃあ俺ライバルの男役やりまーす」

 ため息をつきながら、仕方なしと言わんばかりに手を挙げたのは、のぐだ。

 ーーおいおい、脇を固めてくるな!朝は「だる」って言ってたくせに……

 信じられない気持ちでのぐを一瞥してから糸杉に向き直ると、糸杉のチャームポイントの糸目がいつもより2割り増しでカーブしている。笑ってんな糸杉。笑うな糸杉。笑ってる場合じゃないぞ。
 この一連の流れに、クラスはいいぞいいぞと大いに沸いた。

「"まめよしよし界隈"がメインしてくれるなら大助かりだな」
「うん、健全健全」
「いつもと逆パターンなのも面白れぇ」
「それな笑」

 ーー笑(わら)、じゃないよ!で、なに?よしよし界隈ってなに?
 完全に混乱してあわあわしていると、ざわつく教室を見渡して、糸杉がしっかり話を引き取った。

「じゃあとりあえずメインの3人決まり。拍手〜」

 うぉぉぉという野太い歓声と、割れんばかりの拍手が教室に響き渡る。
 これをされたら、もう後戻りはできない。俺はがっくりと肩を落とした。
 その後は、糸杉による「あいつらがメインを引き受けてくれたんだから、お前らごちゃごちゃ言わずにサクッと手ぇ挙げろ」という脅迫まがいの圧によって、配役も裏方もすんなり決まったのだった。