愛を伝えると退学になる男子校だけど、いつメンに毎日迫られている(気がする)。

 取り返しのつかないことを言ってしまって、絶望的な気持ちで教室の入り口に立った。
 いつもと変わらない光景を見て、夢を見ているみたいだと思う。
 引きずるように足を動かして、教室に入った。

「おー。まめ」
「ギリじゃん。寝坊かよ」

 クラスメイトが俺を見て、いつものように声をかけてきた。
 何とかそれに応じて自分の席に向かうと、隣の席の糸杉と、のぐが喋っているのが見える。

「はよー。遅かったな」
「おはよ、まめ」

 糸杉とのぐが、顔を上げる。俺を見ると、表情を変えた。
 2人の顔を見た途端、張り詰めていた気持ちが緩んだ。いつメンには、取り繕えなかった。

「……ごめん。のむに、酷いこと言っちゃった」

 糸杉ものぐも、何も聞かずに、俺の次の言葉を待ってくれている。

「のむに謝らないと。許してくれるか、わからないけど」

 のぐが苦しげに目を瞑り、うなだれる。

「落ち着いたらでいいから、2人でちゃんと話しなよ」

 糸杉に言われて、俺は力なく頷いた。

「……まめごめん。今回は俺がミスった。俺が言うべきじゃなかった。本当にごめん」

 のぐの言葉に、慌てて首を振る。
 のぐにまで謝らせてしまって、ぎゅっと胸が締め付けられる。

「俺さ、絶対みんなで笑って卒業するんだ」

 それだけは、何がなんでも守りたかった。

「……今日はちょっとダメかもしれないけど、明日からはちゃんと笑うから」
「明日もダメなら、明日も笑わなくていい」

 糸杉が言う。

「無理して笑わなくていいんだ」

 その言葉に、また泣きそうになるのを、ぐっと堪えた。

 開け放された教室のドアから、のむが入ってくるのが見える。その後ろに続いてヤミケンが入ってきて、ドアを閉めた。
 「野村、早く座れよ」と声をかけ、のむが座るのを待たずに話し始める。
 俺の前の席に脱力したように腰を下ろすまで、のむとは一度も目が合わなかった。
 すぐにホームルームが始まったのが救いだった。

 自分の気持ちもわからず整理もできないまま、のむにどう謝ったらいいのかもわからない。俺は、すぐそばにあるのに遠く感じる背中を見つめながら、呆然とその場にいることしかできなかった。


 のむは昼休みになると、黙ってどこかへ行ってしまった。
 今朝のやりとりから、のむの声を聞いていない。
 のぐは俺達を一瞥すると、のむを追って教室を出た。

「……なぁ、お前ら、大丈夫か?」

 クラスメイトも俺達の様子に気付いて、声をかけてくる。

「珍しいな。喧嘩したのか?」
「ーーそうそう。誰がまめを一番好きかでちょっと殴り合いをね」

 俺の代わりに糸杉が答える。
 もちろん、そんなわけないのはわかっているのに、クラスメイトはこれ以上聞いてこなかった。代わりに、考える素振りをして言う。

「それは……一生答えの出ない問いだな……」
「なんなら、クラス全員で殴り合う必要があるな」
「それな」

 クラスメイトの一人が「まめ大好き王決定戦(打撃あり)」と書かれたトーナメント表を作り始め、周囲も弁当を片手に集まってくる。
 のぐと糸杉が両サイドのシードにいるのに、なぜかのむは1回戦から柔道部と当たるのを見て、「のむに厳しすぎるだろ」とみんなが笑う。「糸杉は相手の飲み物に下剤とか入れそう」などと不穏なことを言い、それに糸杉が「勝つためなら手段は選んでられないよね」と返す。
 空気を察してふざけてくれる、優しい仲間だ。いつメン以外にも、大切にしたい仲間がたくさんいる。

「みんな、ありがとね」

 俺は、盛り上がる周囲に向かって、呟いた。


 結局、その日はのむと一言も話すことができないまま、帰ることになった。
 今日は講習も休みなので、帰る支度をする。糸杉は今日も塾で自習してから、授業を受けるらしい。のぐには、俺のことは気にせず、のむといてもらうよう伝えた。
 のぐとのむが帰ったのを確認してから、今朝のむと話した下駄箱でスニーカーに履き替える。
 玄関を出て歩きながら考える。まずは精一杯考えよう。
 そう思い、校門を出たところでスマホが震えた。
 メッセージの通知がスマホに表示される。
 送り主に、俺は目を見開いた。

「……よっち?」