愛を伝えると退学になる男子校だけど、いつメンに毎日迫られている(気がする)。

 のむはのぐと先に仲良くなって、俺は糸杉と先に仲良くなって、そのあと自然と4人でいるようになった。
 今まで意識したこともないようなことを、今さら考える。そんな自分が気持ち悪くて、嫌になる。

 翌朝登校すると、もうほとんど生徒のいなくなった下駄箱の前に、のむが立っていた。
 制服にグレーのマフラーが似合う。こんなイケメンっぷりを周囲にまき散らしながら登校してるのか……と歯噛みする。それがのぐと一緒なら2倍、いや相乗効果で3倍だ。今までどうして気付かなかったんだろう。俺が知らないだけで、めちゃくちゃモテているのかもしれない。また、俺の中の黒い点が濃くなる。

「まめおはよ。……今日遅かったんだな。メッセージ見てない?」

 俺を見つけると、のむが顔を上げる。
 朝、いつメンに会うのを避けたくて電車を一本遅らせたら、今日は遅刻ギリギリだった。
 駅からかなり急いだので、頬が熱い。

「あ、ごめん。見てない。ご覧の通り、駅からずっと競歩で来たから」
「顔、真っ赤だな。ってか競歩って」

 走らんのかい、とのむが笑う。急いだお陰で、遅刻は免れそうだ。

「……どうかした?」

 上靴に履き替えながらのむに尋ねると、のむが言いにくそうに口を開いた。

「のぐが、余計なことを言ったんだって?」
「のぐ?」
「……玉子焼きのこと」

 昨日ののぐとのやり取りを思い出し、またいたたまれない気持ちになる。
 悟られないよう、精一杯明るい声で返した。

「あぁ!玉子焼き。……ねぇ、のぐってすごいんだね。俺、のぐが料理上手って知らなくてびっくりしたよ!」
「あいつ、恥ずかしいとか言って、誰にも言ってねぇんだよ」

 誰にも。
 だけど、のむには。
 あぁ、嫌だ。こんなの。考えたくない。

「ーーほんっと、仲いいなぁ。のぐのむは」

 笑いながら言った。けど、笑えているかわからない。なんだか感じの悪い言い方になってしまった気がする。

「や、そういうんじゃないんだって」

 仲いいのは良いことなのに、のむが必死な様子で弁解しようとしている。俺のせいで、のむにこんな顔をさせている。

「……あの玉子焼き、のぐに教えてもらったって、内緒にしてたのなんで?あ、そうか。のぐが料理できるのは2人の秘密だったんだもんね」

 良くないと思いながら、また感じの悪い言い方をしている。言いながら、俺はこんなに酷いことが言えるのか、とショックを受けた。鏡を見なくてもわかる。今すごく嫌な表情をしている。

「内緒とか秘密とか、そういうつもりじゃなくて」
「すっごくおいしかった。うれしかった、あの時のお弁当。のむが一生懸命作ってくれたからだけど、隠し味にのぐの友情が入っていたんだねぇ。知らなかった」
「最初は自分だけでやろうと思ってた。でも、どうしてもできなくて。……嫌だった?のぐに相談したこと言わないで渡したの」
「嫌じゃない。嫌じゃないよ。……でも、わざわざのぐにも糸杉にも内緒にする必要なかったんだって。俺誰にも言わなかったから。”そういうやつ”だと思ってたから」

 そうだ。俺は、のむが好きだと気付いてから、お弁当も、美術室で過ごした時間も、あのときの全部、"そういうやつ"だったらいいなって思ってたんだ。

「……ちょっと俺だけ特別だと思って、勘違いしちゃった。馬鹿みたいだよね」
「まめ」
「変なこと言ってごめん。……ほら、早く行かないと遅刻しちゃう」
「なぁまめ」

 のむが、先を行こうとする俺の背中に向かって言った。

「特別だよ」

 振り絞るような声に、唇が震える。
 どうしてそんなこと言うんだよ。

「……わかれよ」

 のむが言う特別ってなんだよ。わかんないよ。
 そんなこと言われたら、俺また普通じゃいられなくなっちゃうじゃないか。

「ーーそういうの、もうやめよう。俺、また勘違いするから」

 のむの方に振り返る。もう止まれない。

「勘違いさせるようなことするのも、校則違反だよ?」

 言ってから、泣きそうになる。泣くな。俺に泣く資格なんかない。
 あの日お弁当を渡してくれたのむの気持ちは、ちゃんとわかっているはずなのに。どうして、俺はこんな酷いことを言ってしまうんだろう。

 俺を追いかけていたのむの足が止まる。

「……なんてね」

 とってつけたように、そう言った。そんなことを言っても、もう遅いのはわかっていた。
 俺は前を向くと、足早に階段を上がった。