愛を伝えると退学になる男子校だけど、いつメンに毎日迫られている(気がする)。

「……俺、あなたのやったことは許せない。だけど、俺はあなたの顔も名前も、知りたくない」

 「え〜」と、屋久がそいつを見下ろしながら呟く。

「俺も。あんたのこと学校で見るたびに、今日みたいな気持ちになるの、ねぇわ。こいつらと笑って過ごすので忙しい」

 のむも頷く。
 俺は頷き返すと、屋久に言う。

「屋久ごめん、お願いがある。今この場で、その人がSNSとアルバムの写真を削除するとこ、見届けてくれないか。それで終わりにしたい」

 屋久は信じられないという様子で、黙ってスマホを手渡す。
 
「悪いけど、俺はお前らほどこいつのこと信じてねぇから。……信用できる奴に、お前の顔写真と面談室で聞き耳立ててるお前の動画、SNSアカウントにログインさせた時の動画、スマホのアルバムの写真、共有してある。意味わかるよね?」

 スマホを操作する後ろ姿が、しゃくり上げるように震えている。
 「完全に削除できたら俺に見せてねー」と面倒くさそうに言う屋久に対し、スマホを見せながら操作を進めるが、しばらくして、手が止まった。

「……何かあったら、たぶんそいつお前のこと徹底的に観察して、SNSで晒すくらいのことはするんじゃないかな」

 屋久が笑顔で話す。楽しそうな目の奥に、刺すような圧を感じる。

「消した。消しました。見てください」

 泣き声で差し出されたスマホを取り上げて、屋久が慣れた手つきで確認する。

「ーーうん、消えてるわ。お前、クラウドは?まさかと思うけど、この期に及んでバックアップなんか取ってないよね?」

 全て抜け目なく確認すると、「どうする?」と俺達に目配せをする。

「目つぶるから、教室から出ていって」
「もう俺達に二度と関わんないでくれ」

 俺達は壁の方を向いて、目を閉じた。
 数秒あって、ガタッと椅子が鳴る。

「あ、あの、学校、には……」

 怯えるようにそう問う声がしたが、誰も答えなかった。

「すみません、すみません……」

 ドアの開く音がして、バタバタと廊下を走る足音が遠ざかっていく。
 音が完全に聞こえなくなっても、そのまま動けなかった。

「……いや、いつまでそのポーズでいるんだよ!」

 屋久が耐えきれず突っ込む。

「ほんとに、もういない?」
「いねぇよ。足音聞こえただろ?」

 恐る恐る目を開ける。強くつぶりすぎて、目がチカチカした。

「……甘いなぁ。ほんと、お前らのそういうとこ、俺は無理。削除だけで顔も見ずに釈放って」

 呆れたように言い捨てる屋久に、俺達は堰を切ったように話し始めた。

「屋久ごめん。ちょっとだけ犯人かもって思っちゃってた」
「俺も……お前のこと正直今も許してねぇとこあるけど、後夜祭の時は、悪かった」
「今回のこと、ありがとう。屋久がいなかったら犯人見つけられてない」
「本当助かった。呼び出されたその日に解決するなんて、思ってもみなかった」
「屋久!」

 話しながらどんどん近付いていくと、屋久が顔を引きつらせて両手を前に出す。

「うわ、めんど!こっち来んな。俺素直な奴ら苦手なんだよ……やりにくいわぁ」
「でも、まだ聞きたいことが」
「わかったって。だからこれ以上寄って来んな。答えられる範囲でなら答えてやるから」
「いつからSNSのこと知ってたの?」
「……うーん、あいつがお前らの写真投稿して、プチバズ起こしたあたりかな」
「じゃあ面談は?どうして知ってたんだよ。あの時俺らしか教室にいなかったのに」
「内緒。……てか、安心した途端すげー喋るじゃん」

 屋久がげんなりした様子で足元に置かれていたリュックを背負うと、帰る素振りを見せるので、焦って矢継ぎ早に問いかける。

「どうして俺らのこと助けたんだ?!」
「助けた、か。それはちょっと違うな。お前らを助けたかったわけじゃない。俺のために動いたら、結果的にお前らが助かったって感じ」
「SNSのこと教えないで、俺達に変な絡み方したのはなんで?教えた方が早かったのに」
「……ノーコメント。でもそのおかげで、少しは危機感持てただろ?感謝してほしいわぁ」

 答えながら、屋久が教室のドアに向かって一歩ずつ進む。肝心な部分をはぐらかされて要領を得ないまま、俺達はさらに問いかけた。

「俺のために動いたって言ったけど、屋久か、屋久の友達もあいつに何かされてたの?」
「や、あいつの標的はお前らだけだろ」
「じゃあこんなに動いて、お前に何の得があるっていうんだよ」

 俺ものむも、それが、一番わからなかった。
 屋久は、教室のドアに手をかけると、振り返る。

「成功報酬」
「成功報酬?」
「……あ〜くそ、今日塾遅刻か〜」

 それには答えず、屋久は独り言のようにそう言うと、教室を出ていった。
 俺達は、それをぽかんとして見送った。