ヤミケンが眉間の皺をさらに深くして、朝のホームルームの教壇に立つ。いつも騒がしい教室はしんとしていた。
皆ある程度、事の顛末は聞いていたが、担任であるヤミケンの言葉を待っていた。
年中消えない目の下のクマも、心なしかいつもより濃く見える。
「まぁ、急なことでみんなも気持ちの整理がつかないだろうけど、校則に違反したことは間違いないし、本人もそれを認めて自主退学の意思を示したので、もう決まったことは覆らない。……お前たちはもう3年だ。俺としては、もうこんな風に退学者は出したくないーー」
ヤミケンが教室を見渡して、珍しく声を張る。
「この学校になぜ第4条という校則があるかは、分かってるよな」
静かな教室の空気が、ピンと張り詰める。
いつも騒がしいクラスメイト達も、誰一人答えない。
答えられないからじゃない。
知っているからだ。
「お前らが仲良いのは俺が一番よくわかってる。だがな、距離感は考えてくれ。周囲に、教師に勘違いされるような行動は控えて、もうこれ以上誰一人欠けることなく卒業しよう。俺からは以上」
普段は飄々として、あまり熱いことを言わないヤミケンだから、余計にその言葉は刺さった。教師に勘違いされるな、と言った時の、ヤミケンの表情が焼き付いて離れない。自分のクラスの生徒であろうと、味方してやることができないんだ、と言われたような気がした。
結局、よっちは教室に顔を見せることなく、保護者が学校に来て校長、教頭、学年主任、担任を交えて話し合いの場が設けられ、自主退学の手続きが取られたらしい。俺の知らない"2組のいけちゃん"も同じだそうだ。
2人は、俺達に顔を見せることなく、そのまま学校を去った。
その日の夜、クラスのグループメッセージに「ごめんな」と一言投稿して、俺が気付いた時には、既によっちはグループを退出していた。
クラスメイトがいなくなっても、いつものように授業は進んでいく。
前から2番目、右から2番目の空席を見ながら、俺は”月が綺麗ですね”という言葉がおよそ似つかわしくない彼のことを思い出す。
国語の時間、ひたすら消しカスをつなげてミミズを作っていたよっち。2メートルまで伸ばして、それをクラスメイトに見せびらかそうと持ち上げた途端、千切れてしょげていたよっち。
よっちだって、アホなことばかりやっていたし国語は2だったけど、バレるかもしれないことくらいわかっていたはずだ。
それでも言った。その瞬間、どんなに危険だとわかっていても、言いたくて仕方なかったのだろうか。
そんなに"2組のいけちゃん"のことが好きだったのだろうか。
わかんないなぁ。
だって、恋愛なんか、わかんないよ。
皆ある程度、事の顛末は聞いていたが、担任であるヤミケンの言葉を待っていた。
年中消えない目の下のクマも、心なしかいつもより濃く見える。
「まぁ、急なことでみんなも気持ちの整理がつかないだろうけど、校則に違反したことは間違いないし、本人もそれを認めて自主退学の意思を示したので、もう決まったことは覆らない。……お前たちはもう3年だ。俺としては、もうこんな風に退学者は出したくないーー」
ヤミケンが教室を見渡して、珍しく声を張る。
「この学校になぜ第4条という校則があるかは、分かってるよな」
静かな教室の空気が、ピンと張り詰める。
いつも騒がしいクラスメイト達も、誰一人答えない。
答えられないからじゃない。
知っているからだ。
「お前らが仲良いのは俺が一番よくわかってる。だがな、距離感は考えてくれ。周囲に、教師に勘違いされるような行動は控えて、もうこれ以上誰一人欠けることなく卒業しよう。俺からは以上」
普段は飄々として、あまり熱いことを言わないヤミケンだから、余計にその言葉は刺さった。教師に勘違いされるな、と言った時の、ヤミケンの表情が焼き付いて離れない。自分のクラスの生徒であろうと、味方してやることができないんだ、と言われたような気がした。
結局、よっちは教室に顔を見せることなく、保護者が学校に来て校長、教頭、学年主任、担任を交えて話し合いの場が設けられ、自主退学の手続きが取られたらしい。俺の知らない"2組のいけちゃん"も同じだそうだ。
2人は、俺達に顔を見せることなく、そのまま学校を去った。
その日の夜、クラスのグループメッセージに「ごめんな」と一言投稿して、俺が気付いた時には、既によっちはグループを退出していた。
クラスメイトがいなくなっても、いつものように授業は進んでいく。
前から2番目、右から2番目の空席を見ながら、俺は”月が綺麗ですね”という言葉がおよそ似つかわしくない彼のことを思い出す。
国語の時間、ひたすら消しカスをつなげてミミズを作っていたよっち。2メートルまで伸ばして、それをクラスメイトに見せびらかそうと持ち上げた途端、千切れてしょげていたよっち。
よっちだって、アホなことばかりやっていたし国語は2だったけど、バレるかもしれないことくらいわかっていたはずだ。
それでも言った。その瞬間、どんなに危険だとわかっていても、言いたくて仕方なかったのだろうか。
そんなに"2組のいけちゃん"のことが好きだったのだろうか。
わかんないなぁ。
だって、恋愛なんか、わかんないよ。
