愛を伝えると退学になる男子校だけど、いつメンに毎日迫られている(気がする)。

 のむは俺と目が合う度に、ウィンクを仕掛けてきた。それも、他の奴にはバレないタイミングで。
 まるで、のむと俺だけのサインを受け取っているようで、少しだけ照れる。
 ウィンクした後に片方の口角が上がる癖も、かっこいい。いつメンながら惚れ惚れする。

ーーこれが、"キュン"てやつなのか?

 俺のウィンクはどう頑張っても両目になって、全然格好良く返せない。今のところもらってばっかりだ。

 お昼。
 「いただきまぁす」と手を合わせると、パチンと両目ウィンクを決める。

「ふっ。まーだ諦めてないのかよ」

 のぐの呆(あき)れ笑いを見て、俺はがっくりと肩を落とした。

「うぅ……ウィンクは、演技プランから外す方向でぇ」
「ふふ、どんまい」

 のむが微笑む。思わず、目に注目してしまう。みんなが見ているからか、目が合ってもウィンクをしてこない。
 のむに気を取られていると、「なぁ」と糸杉が言った。

「ところで俺、今ウィンクしてんだけど」
「何一つ変わってねぇが?」

 微動だにしない糸目のウィンクはずるい。もはや鉄板だ。のぐがすかさず突っ込む。
 みんなでひとしきり笑ったところで、のむが口を開いた。

「ところでさ、文化祭までの間、飯食ったら美術室行くわ」
「あー、文化祭のやつ?」

 のぐが言うと、のむが頷く。

「というわけで、その間ちょっとまめを借りてく」
「は?何で?」と糸杉が訝(いぶか)しむ。
「まめに、絵のモデルお願いすることにしたんだよ」
「え、マジ?」

 糸杉に向かってうんうんと頷きながら、サンドイッチを口に運ぶ。両親とも仕事が忙しいので、2年生からはお弁当を断って、コンビニか購買で買っている。
 サンドイッチを頬張る俺の隣で、2人がしつこくのむに絡む。

「なんで俺じゃないんだよ」
「まめはかわいいけど、お前はかわいくないからだよ」
「は?祖母界隈ではかわいいで有名だわ。あと、頼まれてもやるかよ。だるいわぁ」
「は?うっざ」

 いつもののぐのむの小競り合いを横目に、糸杉も参戦する。

「なぁのむ。この俺に声かけてこないのはどういうわけ?」
「糸杉は色々注文多そうだから、やだね」

 軽口を叩きながら、のむがすごい勢いでお弁当を口に放り込んでいく。

「ーーじゃあ、悪いけど」

 さっさとお弁当箱をしまうと、のむはまだサンドイッチを頬張る俺に向かって「まめ」と声をかける。

「ごめんな、続きは美術室で食べてていいからさ」
「う、うん」

 そして、あっという間に美術室まで連れてこられてしまった。

「食べてる途中にごめんな」と再びのむに謝られ、「いいよ」と返す。
 絵の具の混じったような、美術室独特のにおいを吸い込む。

「俺、美術室のにおい好きだな」
「そう?よかった」

 「その辺に座ってて」と言われたので、適当な椅子に座ってサンドイッチを頬張る。普段あまり立ち入らないので、物珍しくてあちこち見回していると、のむがスケッチブックと鉛筆を取って戻ってきた。
 そして、椅子をすぐそばに置くと、俺を囲い込むように足を前に投げ出して座った。対面にしては、近すぎる。

「おいしい?サンドイッチ」
「お、おいしいよ」
「そっか」

 急に距離が近くなり、戸惑う。

「あのう、そんなに近くで見られると、食べにくいことこの上なく……」

 たじろぎながら、のむを見上げる。

「ん?」

 至近距離で目が合うと、のむが微笑んで、ゆっくりと俺に向かってウィンクをした。
 思わず、サンドイッチを食べる手が止まる。のむから目が離せなくなる。つられるようにウィンクをすると、やっぱり両目になってしまった。のむがそれを見てふっ、と笑う。

「へたくそ」

 なんだろう。こんなに言われてうれしいと思う「へたくそ」は初めてだ。どうしてこんな気持ちになるのかわからない。
 さっきまでのが"キュン"なら、これはなんなんだ。

「こここ、これは、キュンのご指導中ということでよろしいか……!?」
「えー?」

 のむがはぐらかす。

「俺は、いつもと変わらないつもりだけど?」
「んなわけあるかーい!……こんなに近いのに!」

 耐え切れず、足をじたばたする。

「くー!イケメン!イケメンのずるさが出てる!どうしてイケメンは距離を詰めるのもウィンクも上手いんだ!こんなの俺にできるわけな……」

 俺が暴れていると、前に投げ出されたのむの足が閉じられ、じたばたする俺の膝がのむの両膝で、ぎゅっと押さえ込まれてしまった。

「はい、捕獲」
「ひぇ……」

 なんだこれは。何が起こってるんだ。
 パニックになる俺を見てニヤニヤするだけで、のむはそのまま俺を捕まえて、解放してくれない。

「ほらまめ、食べないと昼休み終わっちゃうよ」

 のむはスケッチブックを捲(めく)ると、鉛筆を手に、改めて俺に向かい合った。
 画用紙に鉛筆を走らせ始めると、さっきまでとのむの表情が変わる。時々顔を上げるけど、その目は真剣に俺の輪郭を追いかけていて、目は合わない。
 その分、押さえ込まれたままの膝に、意識がいってしまう。
 俺は鉛筆の音を聞きながら、半分ヤケになって再びサンドイッチに齧り付いた。