「大変だ!」
朝、そう言って教室に駆け込んでくるクラスメイトを、俺は頬杖をついたまま見上げた。
平和を絵に描いたようなこの男子校は、上下関係も緩く、事件らしい事件もまず起きない。女子がいないからか、皆自分を良く見せようという肩の力もすっかり抜け、良くも悪くも素のまんま。
そんなこの学校で「大変だ」という知らせは、せいぜい「保健室の岸本先生の髪色が変わった」か「担任のヤミケンが、また彼女と別れそうらしい」程度のニュースだ。
いつもならば。
だけど、今朝は違った。
「よっち、退学になるってよ」
クラスメイトがそう告げると、のんびりした教室の空気が一瞬で変わった。
「は?」「何、どういうこと?」と皆が口々に呟く中、ため息を一つつくとクラスメイトは続ける。
「……第4条だ」
その言葉を聞いた途端、教室内はどよめいた。
「は?第4条?!マジかよ」
「停学じゃなくて退学?!」
「よっち何したんだ」
「なあ、お前、知ってんのか?」
よっちが校則第4条で退学になる。
あの日見た生徒手帳の、「退学」の文字が頭に浮かぶ。あれは明朝体でもゴシック体でもなくて……なんて、今考えなくてもいいことを考えてしまう。
だって、いなくなるなんて思わないじゃないか。
そばにいるいつメンの3人を見る。3人とも、黙って事の成り行きを見守っていた。
自分が息を止めていたことに気が付き、慌てて深呼吸をする。
俺の前の席に座る、野村こと「のむ」と目が合った。表情がいつになく強張っている。いつもなら何か言ってくれるのに、黙って俺を見ている。"どうした?"と俺が瞬きをすると、のむは口を開きかけたが、小さく首を振って、唇をギュッと噛んだ。
俺は首を傾げながら、今度はのむの席に寄りかかる野口こと「のぐ」に視線を移す。のぐはのむの席に頭を預ける格好でしゃがんだまま、何か考える様子で、教室全体にぼんやりと視線を投げかけている。
「なあ」
俺の横で黙って腕組みをして立っていた、杉田こと「糸杉」が、口を開いた。
「もしかして、2組のいけちゃんが今日学校来てないのと関係ある?」
今度は皆一斉に糸杉の方を見る。「ああ」とクラスメイトが頷くと、今度はそっちに向き直った。
一呼吸置くと、クラスメイトは苦しそうに呟いた。
「よっち……あいつ、言っちまったらしい」
「何を?」と糸杉。
「ーー”月が綺麗ですね”って」
ひゅっ、と教室の皆は息を呑み、一様に頭を抱えた。
「マジ何してんだよ!今時そんなん俺でも知ってるって」
「バレねぇと思ったのかよ。バカヤロウ……!」
「あいつ、国語2だから」
「待て。ワンチャン、本当に月が出てたりしなかったのか?それなら……」
「いや、真昼間の校内だったらしい」
それを、たまたま通りかかった教師に聞かれた、と。
その言葉にあぁ……と、あちこちから声が漏れる。一同は天を仰いだ。
そんな中、糸杉が再び口を開く。
「ーーそれで、いけちゃんが来てないってことは、いけちゃんは返したんだな?」
教室が静まり返る。
クラスメイトは言った。
「あぁ。”死んでもいいわ”ってな」
朝、そう言って教室に駆け込んでくるクラスメイトを、俺は頬杖をついたまま見上げた。
平和を絵に描いたようなこの男子校は、上下関係も緩く、事件らしい事件もまず起きない。女子がいないからか、皆自分を良く見せようという肩の力もすっかり抜け、良くも悪くも素のまんま。
そんなこの学校で「大変だ」という知らせは、せいぜい「保健室の岸本先生の髪色が変わった」か「担任のヤミケンが、また彼女と別れそうらしい」程度のニュースだ。
いつもならば。
だけど、今朝は違った。
「よっち、退学になるってよ」
クラスメイトがそう告げると、のんびりした教室の空気が一瞬で変わった。
「は?」「何、どういうこと?」と皆が口々に呟く中、ため息を一つつくとクラスメイトは続ける。
「……第4条だ」
その言葉を聞いた途端、教室内はどよめいた。
「は?第4条?!マジかよ」
「停学じゃなくて退学?!」
「よっち何したんだ」
「なあ、お前、知ってんのか?」
よっちが校則第4条で退学になる。
あの日見た生徒手帳の、「退学」の文字が頭に浮かぶ。あれは明朝体でもゴシック体でもなくて……なんて、今考えなくてもいいことを考えてしまう。
だって、いなくなるなんて思わないじゃないか。
そばにいるいつメンの3人を見る。3人とも、黙って事の成り行きを見守っていた。
自分が息を止めていたことに気が付き、慌てて深呼吸をする。
俺の前の席に座る、野村こと「のむ」と目が合った。表情がいつになく強張っている。いつもなら何か言ってくれるのに、黙って俺を見ている。"どうした?"と俺が瞬きをすると、のむは口を開きかけたが、小さく首を振って、唇をギュッと噛んだ。
俺は首を傾げながら、今度はのむの席に寄りかかる野口こと「のぐ」に視線を移す。のぐはのむの席に頭を預ける格好でしゃがんだまま、何か考える様子で、教室全体にぼんやりと視線を投げかけている。
「なあ」
俺の横で黙って腕組みをして立っていた、杉田こと「糸杉」が、口を開いた。
「もしかして、2組のいけちゃんが今日学校来てないのと関係ある?」
今度は皆一斉に糸杉の方を見る。「ああ」とクラスメイトが頷くと、今度はそっちに向き直った。
一呼吸置くと、クラスメイトは苦しそうに呟いた。
「よっち……あいつ、言っちまったらしい」
「何を?」と糸杉。
「ーー”月が綺麗ですね”って」
ひゅっ、と教室の皆は息を呑み、一様に頭を抱えた。
「マジ何してんだよ!今時そんなん俺でも知ってるって」
「バレねぇと思ったのかよ。バカヤロウ……!」
「あいつ、国語2だから」
「待て。ワンチャン、本当に月が出てたりしなかったのか?それなら……」
「いや、真昼間の校内だったらしい」
それを、たまたま通りかかった教師に聞かれた、と。
その言葉にあぁ……と、あちこちから声が漏れる。一同は天を仰いだ。
そんな中、糸杉が再び口を開く。
「ーーそれで、いけちゃんが来てないってことは、いけちゃんは返したんだな?」
教室が静まり返る。
クラスメイトは言った。
「あぁ。”死んでもいいわ”ってな」
